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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
157/180

一月の脇役 その十一

 ポップな文字で書かれた、非常に存在感のあるタイトル。大きさからして携帯ゲーム機のソフトだと思われる。多分、私も持ってる機種のソフトだ。

 ……なんか、ますます興味が湧いて来ちゃった。面白いのかなぁ。

「あのぅ、それでその、がくえ……」

「何度も繰り返すでないっ! 貴重な知能指数が減るっ!」

 どんな感じのゲームなのか質問しようとした私を、エルヴァさんはものすごい剣幕で遮った。まぁ、気持ちはわかるけど。


 でもさ、「2」だよ? つまりは「1」があって、そっちがそれなりに売れたから出た作品って事でしょ? 気になるじゃ~ん。

「じゃぁ、ちょっと見せてください。何かの参考になるかもしれないので」

 私が手を差し出すと、彼は渋々とそれをこちらに寄越した。あ、どもども。


 まずは、表側をじっくり観察。

 ピンク色の髪の女の子が玉座っぽい椅子に座り、足を組んで挑戦的な微笑みを浮かべている。その周りをカッコイイ男の子達が取り巻く、という構図だ。手を取ったり跪いたり、飲み物、食べ物を差し出したり、甘えるように足にしがみついていたり、もうね、すごいことになってます。

 つまり女王様なんですねわかります。


 恋愛ゲームに興味がなくても、このイラストだけで好奇心を刺激されて買っちゃう人がいそうだなぁ。

 かく言う私も、今ものすごくもぞもぞしてます。あとで電気屋さん寄って買って帰ろうかなって……。あ、でもこのタイトルでレジ持っていくのちょっと恥ずかしい。やっぱり通販にしとこ。


 左下に「C」と書いてあるって事はええと、15歳以上推奨か。最近の15Rは結構過激らしいからなぁ。あらすじは、確かこの手のソフトは裏側に書いてあるものだよね。どれどれ?

 ひっくり返して一番最初に目についたのは、大きな文字で書かれた一言。

『今度のヒロインは確信犯!』


 確信犯……。この場合の確信犯というのは思想犯とか政治犯とか、そっちの意味じゃないんだよね? え、実はヒロインが男の子達を操って革命を起こすとか、そういうストーリーだったりする? それはそれですっごく楽しそうなんだけど!

 わくわくしながら、私はあらすじを読み始めた。


   ◇◆◇◆◇


   STORY

モテすぎるせいでトラブル続きだった主人公。

幼稚園の頃、親友だと思っていた女の子に言われた言葉がトラウマになって、以来友達が作れずに悩んでいた。

そんな娘を見かねた両親は、新しい環境でやり直させようと全寮制の私立インペリア学園への転入を決めてしまう。


新しい学園、見知らぬ人達。孤独だった人生を変えるべく、彼女は決意した。

―――学園中の男の子を虜にして、学園の女王にんきものになってみせる!

ところがこの学園、絶対権力を持つ生徒会と風紀委員が敵対し、日夜過激な戦いを繰り広げている、とんでもない場所だった!

女王として君臨するにはまず彼らを落とさなくてはいけない。


新感覚「悪女」シミュレーション登場!

「微笑む」「嘘泣き」「挑発する」。三つのコマンドを使い分け、クセのある男の子達をうまく手懐けよう。

この学園の平和は、貴女の手に委ねられた―――!?


新機能、「同室のクラスメイト」が追加。フルボイスで生まれ変わった『学園悪女』の世界をお楽しみください。


   ◇◆◇◆◇


 ……うん。学園内が一つの社会であるとすれば、その構造を乱して新しい秩序を生みだそうとするのは、確かに確信犯と言えるかもしれんなぁ。

 そうかそうか、彼女が悪女たらんとする裏側にはそんな背景が……ってあぶにゃい! うっかり彼女の行動を正当化するところだった。


 そもそもこれはゲームのヒロインの設定であって、今、目の前にいる美少女ちゃんの話じゃないんだもんね。ふぅ、いかんいかん。

 それにしても悪女と称する割にコマンドの種類が3つだけって、ちょっと物足りなくないか? もう少しこう、何かあるんじゃないか? もっとさぁ、「裏で手を回す」とか「潰し合いをさせる」とかさ。(ぶつぶつ)


「そろそろ良いか? まさかお前もこの下らんゲームを再現したいなどとは言いだすまいな? せっかくのその魔力、無駄遣いはいかんぞ」

 このゲームの更なる可能性について真剣に考えている私から、エルヴァさんはさっとソフトを取り上げた。えー、まだ足りないのに。中身の取り説も見たかったのにぃ!


 さっきからなんとなく感じてたんだけど、この魔王様もしかして心配性? そんでもって世話焼きだったりしない? 美少女ちゃんにくどくどとお説教した挙句に「ウザイ!」とか言われて無視されてしょんぼり、みたいな光景が妙にリアルに浮かんだんだけど。


 ……それはさて置き、今この人、聞き捨てならない事言わなかった?

「魔力?」

「ふ、この世界では認識できるものが少ないからな。自覚がないのも無理はないが。小娘、お前はなかなかの魔力を持っているぞ」

「えええっ」


 そいつぁ初耳だぜ! あ、いや、そういえば貫井さんがそんなこと言ってたような? おかしな人達を引き寄せてしまう体質は、ある種の力だとかなんとか。確かに、普通じゃない何かがあるって言われても「ふ~ん」って感じだからなぁ。

 いやしかし、ここで一番問うべきところはそこじゃなくってだね!


「え、私が? 光山君……あー、えっと、一番背の高い男の子じゃなくて?」

「む? 先ほどこの娘が飲み物を掛けようとした小僧か?」

「や、それは竜胆君で……」

「そうか。はじめはその竜胆というのに目をつけたのだがな。近付いてみれば、お前の方がより多くの魔力を秘めていると解ったのだ」


 なんだろうこのかみ合わなさ。私と竜胆君に魔力があって、光山君からは何も感じなかったってこと? え、それっておかしくない?

「そうじゃなくて、色素の薄い……。あ、ほら、私が最初に待ち合わせてた相手!」

「あぁ、あの優男か。いや、アレからは何も……」

「そうなんだ……」

 うむむ、おかしい。もしかしてエルヴァさんの言う魔力と光山君の魔力って、別物だったりするんだろうか。


 だって、光山君の魔力って、高校の時の秋祭り会場では、金魚のお姫様からすぐに嗅ぎつけられてたよね? そんでもって「妾をたすけてたもれ」な~んて言われちゃってたもんなぁ。分かる人には分かるはずなんだけどなぁ。


「竜胆という小僧の魔力は、辿ればお前に行きつく。どうやらあの男と繋がりが深いようだな? いかんぞ、未婚の娘が」

 くどくどくど。私の気も知らず、エルヴァさんは年頃の娘に説教するお父さんモードへ突入してしまった。

 いやいや、誤解しないでいただきたいんですけどね、私達、潔白ですから。彼から私につながっている魔力なんて……ぁ。


「もしかして、これですか?」

 私の指から、決して抜けてくれない指輪。心当たりと言ったら、これしかない。

 おずおずと右手を差し出すと、エルヴァさんは目を見開いて指輪を凝視した。

「そうだ、確かにあの小僧から感じたのは、これと同質のものだ。なんとも情念の籠った、業の深い石ではないか……。小娘、これはどこで手に入れた?」

「貰い物でして……」


 なぁんだ、結局コレかぁ。私自身から感じたわけじゃないんだ? でもさ、やっぱりおかしいよね。

「これ、光山君から貰ったんです。彼も、お揃いで持ってるんですけど」

 今朝会った時、光山君は確実にこれを着けていた。

 や、違う、違うよ? わざわざチェックしたんじゃなくて、たまたまだからね! ただな~んとなく、視線がね? ちらって。


「なんだと! しかし、ヤツからは何も……。まさか!」

「それはもちろん、オレが自分で隠していたからですよ」

 はい、話題の人登場。

 見計らったようなタイミングで、光山君は現れた。……いやぁ、女子トイレの中だというのに堂々とし過ぎていて違和感ないわー。(嫌味)


「垂れ流しにしていると、余計な仕事が増えるので。でも、オレより強い魔力を持つ相手なら、気付く程度の小細工なんですけどね」

 それってつまり、エルヴァさんは自分より弱いと言ってますよね? こんなあからさまな言い方、彼らしくないんだけど。もしかして、怒ってる?

「女子トイレに連れ込むとか、いかにも女子高生だよなぁ」

「えー、いいのか? なぁ、怒られたりしない?」


 福島君がボヤきながら入って来た。きょときょとびくびくしながら中山君が続く。竜胆君は、あぁ、入れないんだ。入口ギリギリで顔強張らせてるよ、可哀想に。律儀なんだから!(きゅん)


 さて、兎にも角にもこれでこちらも全員揃ったわけだ。

 で、えーと。

 ……どうしよっか?(てへ)


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