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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
155/180

一月の脇役 その九

 このショッピングモールは非常にオシャレかつ複雑な造りをしている。

 いくつかの通りが空中で交差する中央部分は六角形の吹き抜けになっていて、3時間ごとに音楽に合わせて「光って踊る」噴水(まぁつまり、噴水ショーだよね?)が設置されている。この建物の名所の一つらしくて、特に今日みたいな休日には人がごった返してとても座るどころではない。はずだ。


 ショーの時間には黒山の人だかりができるし、一つのショーが終わっても次の開始時間まで居座る人がいるくらいで、数少ないベンチはもはやレアアイテム扱いである。とてもじゃないが、ふらっとやってきてふらっと座れるような憩いの場とは言えない。

 むしろここは戦場と称すべきではなかろうか。武器の代わりにカメラやらケータイを構えた人々が殺気立って集まる場所。ベストポジションを争ってたまに小競り合いが起きるほど危険な最前線!


 ……の、はずなのに。

「よかったね、ちょうど空いて」

「……そだね」

 この中の誰の主人公体質(なぜか、どんなに混んでいてもイベント用の場所を確保できてしまう特典)が発揮されたのか知らんが、私達がちょうど差し掛かったところで席を立った3人連れのおかげで、すんなりとベンチに座れてしまった。

 しゅ、主人公どもめええええ!(久々に嫉妬)


「じゃぁ、見ていーい?」

 しかし今は、そんな嫉妬心をむき出しにしている場合ではないのだ。

 私は一人ちょこんと腰かけ、ピンクの袋を4つ掲げて、目の前に立つ男性陣に確認した。

 あ、ちなみに私の隣には知らない女の子が二人座ってます。なんで4人も男の子連れてんのこの人、みたいな目で見られてここも針の筵ですタスケテ。


 いや、あのね。本当なら私、貰い物の中身をその場で確認、なんて絶対しないんですよ。まずはありがとうとだけ言っておいて、おうちに帰って開けてから改めてお礼を考えるのが一番楽だからさ。リアクションに気を使わんですむし。


 でもでも、さっき中山君のをうっかり勢いで開けちゃったからには、他の3つを「おうちで見るね。楽しみ~」で保留するわけには、やっぱりいかないとおもうの、悪女として! 悪女は取り巻きへの対応は平等にしないと!


 都合のいいことに、袋はどれも同じお店の、しかも同じ大きさのものだったから、受け取ってすぐならともかく一纏めにして移動した後ではどれが誰のだかわからない。よしよし、これで開ける順番に悩む必要はなくなったな。

 座ってゆっくり見たい、と駄々をこねて(もちろん、「ワガママ言って男の子を振り回す私」の演出だからね?)本当によかった!


 中山君からのプレゼントは既に開けちゃったから、これはおいといて。どれから開けよっかなー。よし、無難に右端から行くか。(わくわく)


「う、わ……」

 開けた途端、目に飛び込んだのは真っ白なレース。汚さないように気を付けてそっと取り出した。うん、美しいハンカチですね。非常に女性らしい、お花を象ったレースのハンカチ。わぁ、どうしよう。前から一枚くらい欲しいなって思ってたんだけど、これって結構お高いよね? いいのかなぁ?

「これは、竜胆君?」

「あぁ」


 女性への贈り物と言ったらレースのハンカチ、という選択肢はいかにも竜胆君らしいなぁ。なんというか、古風。や、もちろんいい意味で!

「こういうのって結構高いんだろ~? 姉貴の触ってすっげー怒られたことがあってさぁ」

「ま~だ夢見てんだなぁ」

「なるほど、竜胆君にとってはマーガレットのイメージなんだ……」


 外野の声は置いといて。間違っても、こぼしたお茶を拭いたり口紅つけちゃったりしないように気を付けなきゃ! でも、仕舞い込んどくのももったいないから、読書の時のひざ掛け専用にしよう。

 もうね、よくわかった。今後も私、彼の前では極力猫を被っておくことにするよ。こんな私に夢を見続けてくれる彼への精一杯のお礼としてな!


「ありがとう、大事にするからね」

「あぁ」

 精一杯のおしとやかな笑顔でお礼を言うと、竜胆君はこくりと頷いた。……えー、マーガレット、マーガレット。あとで練習しよう。

 早速くじけそうになりながら、次の袋を膝に乗せた。


「これは、……。わ、かわいい」

 2つ目からは、雪の結晶を象った紙石鹸が出てきた。

「福島君でしょ」

「アタリ」

 だよね。この、後に残らなそうで、なおかつ女心をくすぐる選択はいかにも福島君だよねぇ。すごく、こう……無難。

 そう、恋人でもない女の子に贈るプレゼントとして無難、の一言に尽きる。いっそ清々しい。


「ストレスを和らげる香り付きだってさ」

 そしてこの気遣い! 涙が出るね!

「今夜早速使ってみるね。ありがとう」

 バス関係のグッズは、もったいながって使わないでいると使用期限が切れてしまったりするので、旬のうちに使うのが礼儀だと思ってます。決して惜しんでいないというわけじゃないので、そこんとこよろしく。


 さ~て、ということはラストは光山君かぁ。さっきからちくちくと意地悪してくる彼からのプレゼント、よもやまさかびっくり箱なんていうオチはないだろうけど、なんだろう? ……あれ、アクセサリー?

「チョーカー?」


 ちっちゃな箱の中から出てきたのは、ハートモチーフのペンダントトップに、紺のベルベットのリボンがついたチョーカーだった。へえぇ~、チョーカーって、なんとなく息苦しそうな気がして今まで手を出したことはなかったんだけど、興味はあったんだよね。

「今着てる服にも似合うんじゃないかな? つけてあげる」

「え、や、自分で……」

「まぁまぁ。ほら、髪持ち上げて」


 ぼそっと「甘え上手も悪女の条件じゃないかな~」と囁いて、光山君は私の首にリボンを巻きつけた。くぅ、これも演出でしたか。

 確かにこういうイベントは乙女ゲームとしてはおいしそうだけど、でも実際にやるとなると。は、恥ずかしい! あぐ、隣からの視線がすごいことになってる。貫通しそう!


 しゅる、と紐を結び終えた音がした途端、私はさっさと髪を降ろした。結び目に数本巻き込まれた気配がしたけどいいんだ。もうこれ以上耐えられない。

「あ、ありが……」

「よかったなー盛沢。てっきり光山は、隣にあった方を選んだかと……」

「あー、あの、犬の首輪みたいな? あんなのあるんだな~。女の子のオシャレってわかんねー」

「あはは、いくらオレでもそこまでしないよ」


 ……頭上でなんだか怖ろしい会話が交わされているような気がするんだけど、どゆことかな。犬? 犬の首輪って、中山君こそわんこじゃん!

 あ、またぽふぽふされてる? 竜胆君が慰めモードに入ってる!

「盛沢なら、犬の首輪も似合うと思う」

 慰め方間違ってるよ、竜胆君!(がるるるるる)


 さすがに失礼すぎる会話に一言物申そうと立ち上がりかけたところで、噴水の真上に設置されているベルがからんからんと鳴りだした。ショー開始の合図らしい。

 くっ、なんとゆータイミングで……。私はすとんと腰を下ろし直した。せっかくの特等席だからね!


 癒し系の音楽に合わせて、噴水の水が高く低く吹き上がる。水の中でいろんな色の光がキラキラする様はまるで宝石箱みたいで、なるほど、写真を撮りたがる人が多いのも頷けるなぁ。私はしないけど。記憶にとどめておけば満足だから。


 ショーがクライマックスに達した頃、私は突然、誰かに腕をつかまれた。

「ひゃ」

 位置から考えて男の子達じゃない。座っている女の子達は逆側だし、それじゃぁまさか、とそちらへ視線をやる間もなく、その人物は妙にしゃがれた声で、私の耳元で囁いた。


「お前の身体を寄越せ」


 ……え、まさかのホラー?


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