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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
152/180

一月の脇役 その六

 カップルだらけのお洒落スポットであわやブリッジ、という危機から助けられたはずの私は、なぜかそのまま中山君と福島君に「はい」と手渡された。

 え、なに「はい」って。受け取る方も受け取る方だよ、咄嗟の事とはいえなんで腕掴んじゃってんの。


「じゃぁ、ちょっと滑っておいで。オレは竜胆君と話があるから、3人でよろしく」

「おう、まかせろ!」

「え、ちょ」

「……気をつけるんだぞ」

「はいはい」

「ええー?」

 左右の腕をがっちり捕らえられ、後ろ向きのまま中央へ引きずられてゆく私。手を振って見送る二人。あぁれぇごむたいなー。(ずりずり)


 あれぇ、なんかこう、「しばらく3人で遊んできなさい、パパ達は大事な大人の話があるからね」って放り出された子供のような気分なんだけど、この3人で一体どうしろと? 突然、中山君や福島君ときゃっきゃうふふしろったってなぁ。

 うぅ、おうちにかえりたい。

 ……いやいや、ダメよ私。彼らはこの狂言に協力させられているだけの、いわば被害者。加害者の私が嫌がってどうする! 失礼じゃないか。感謝しないと。


 この光景だって、事情を知らない誰かから見ればかなり贅沢な状況なんだよ?

 ヒロインにはそんなつもりないのに男の子達に取り合いされて、なんか大げさな事になっちゃってどーしよー、みたいな。さっきの大コケ事件で微妙に注目集めた後だから周りの女の子の目だって……ぐはぁ、針の筵!


 そうですよね、あの展開は「この世界は自分達だけのもの」と言わんばかりの傍若無人さではしゃぐ事が多いから、傍目にはちょーウザいんですよねー! 気をつけます!

「そんでさー、俺、よくわかってないんだけど。何すりゃいいの?」

「盛沢つけまわしてる連中に、盛沢がモテまくってるように見せつけてほしいって聞いたけど」

「え、盛沢ストーカーにつけられてんの? どこどこっ、どいつ?」

「ばっか、はしゃぐな飛翔!」


 ……ぁー、前言撤回。気まずさよりも、親戚のちっちゃい子の引率頼まれたような気分になった。ありがとう中山君、楽になった。福島君はさしずめ中山君のおにーちゃんだね。

「ややこしいうえにくだらない理由なんだ。その、身の程知らずな話なんだけど、私がモテている、という事にしとかないと困る人がいるっていうか……。とりあえず今日一日だけでいいの。ごめんね、こんな事に付き合わせて……」

 ただでさえ、休みなんて有って無いような生活してる戦隊の皆さんまでこんな馬鹿げた事させてホントすみませんです、はい。


 細かい事を気にしない中山君と、必要以上に他人に立ち入らないスタンスの福島君は、とりあえずそれで納得してくれたらしい。

「盛沢も大変だよなー」

 よたよたと体勢を立て直す私に手を差し伸べるでもなく見つめながら、なぜか福島君がしみじみ頷いた。え、今更そういう事言われるとかえって悲しい気分になるじゃん、やめようよ。


「光山とか宗太とか、目立つし。あいつらに告られて、傍目には贅沢に見えるかもしれないけどさ。気苦労も多いだろ」

「えーと……」

 どうしよう、これって頷いていいものなのか、それとも新手の罠なのか。ただ単に沈黙しないための話題にしてはそのう、アレなんですが。

「変なのにいちゃもんつけられたりさ。噂もまだ多いし。これだって、たぶんそーゆー関係なんだろ?」

「いやー。これは……」


「夏くらいには光山とくっついたって噂で落ち着いてたんだけど。盛沢、この前宗太ん家に行っただろ。見られてんぞ」

「うそ! え、ジャックさんの用事でお邪魔しただけなのに」

 うっわ~、どこで見られてたんだろう。気付かなかった。大して親しくもなかったうえに他大学に行った人間の事をまだ覚えてるなんて……。執念深いなぁ。


「盛沢がはっきりしないのが悪いってのが連中の主張だし、俺も実はそう思ってたけど。なんか、さっきわかった。違うんだよな、盛沢は」

 なんだろうこの人。今日はやけに饒舌だな。

「盛沢は、誰かと付き合いたいわけじゃないんだよな。それなのにどっちか選べとか言われても、そりゃムリだ」


 うんうん、と一人で頷く福島君。いやいや、私だって人並みに、いつかは恋人欲しいなって願望はあるんだよ、と意義を申し立てると、「今じゃないんだろ?」と返された。

 ……そうだね、多分、そうなんだとおもう。

「盛沢は、『大人は恋人作って結婚しなきゃいけない』って思い込んでるんだろ? 真面目すぎ。飛翔見ろよ、あれくらいでいーんだって」


 そう言って福島君が指さす先には、いつの間にか遠くまで滑って行ってしまって、私達の不在にやっと気付いて猛スピードで戻ってくる中山君の姿。うん、ほんとにあの子は少年の心を忘れないというか、いつまでたっても子供のままというか……。

「そうだね、中山君はまだまだ『男友達とつるんでる方が楽しい』とか言ってそう」

「言ってる言ってる」


「なになに、俺の話?」

 息を切らせて頬を紅く染めて。きらきらした目で見られると思わず「おすわりっ」とか言いそうになっちゃうんだけどどうしてくれよう、このわんこ。

「お前は結婚できなそうって話」

「ええっ! やだよ、かわいい嫁さんほしい」

「お前に限らず、俺達は難しいだろ……。あの悪魔に命握られてる間は」


 いきなりずしりと空気が重くなったのは私の気のせいだろうか。割れる、氷が割れるっ。

 ふ、二人とも大丈夫だよ、きっと30歳くらいで年季も明けるよ。そのあとは、そのまま『サヴァイヴ・サプライ』に役員として残るなりなんなり、とにかくなんとかなるって。

「まぁ、結婚なんてずっと先だしな! ケセラン様気に入って、喫茶店一緒にやってくれる女の子、いるかもしれないもんな!」


 気を取り直した中山君がにぱぁっと笑った。ケセラン様はともかく、そうだよ、喫茶店経営したい女の子はいっぱいいるよ! 何を隠そう私もその一人です。

「そっか、盛沢は紅茶入れるの上手だもんな! じゃー俺んとこ来る?って、宗太に怒られるかー、あはは!」

 ……選択肢に入れとこう。と思ってしまった私は、やっぱり悪女の素質があるのかもしれない。


 中山君がジャンプに挑戦してコケたり、それに巻き込まれて私が尻もちついたり、福島君に呆れられながらも助け起こされたり、となかなかに充実した時間を過ごした後、私達はあとの二人に合流した。

 ふぅ、遊んだ遊んだ。ちょっと疲れちゃった。ぱぱー、おなかすいたー。

「お帰り。……だいぶ冷えたね」


 すぅっとのばされた光山君の指が、頬に触れる。いやあの、そういうボディータッチほんと苦手なんです、勘弁してください。

 不自然にならないように顔を逸らして指から逃げると、何か言いたそうな竜胆君と目が合った。私達が遊んでる間、二人はずっとお話してたんだよね。それってやっぱり私に関する事なんだろうか。


 そういえばジャックさんの一件以来、竜胆君がたまーにこういう目で私を見るんだけど、言葉にしてくれないとどうしたらいいのかわかんないから困る!

 思わず硬直しかけたところで、突然、きゅるるるる、と情けない音があたりに響き渡った。気が抜けた音に、竜胆君から感じていたプレッシャーがふっと途切れた。

 た、助かった。

「腹減ったぁ。何か食おーぜ」

 音源は中山君のお腹でした。ありがとう、中山君。(本日二回目)


 リンクの周りにはカフェテーブルのセットがあって、私達はなんとか一つのテーブルを確保する事に成功した。

 まぁ、どう考えてもゴリ押しだけどな。光山君と福島君が、食事を終えてダベっていた女の子達に「ここ、次いいですか?」と声を掛けたらさくっと空いたわけだけど。なんか、えーと……ごめんなさい?


「盛沢と宗太はここで席とってて。俺らでてきとーに買ってくる」

「あぁ」

「あ、ホットチョコレート飲みたいなー、なんて……」

「さっき見てたお店だね。わかった」

「やきそばー、おにぎりー!」

「いってらっしゃ~い」


 中山君を先頭に、食料買い出し隊が行ってしまったあと、私ははたと気がついた。あれ、この状況って、竜胆君と二人っきりってやつじゃない?

 いや、正確には周りにたくさん人がいるわけだけれども! 絵実ちゃん達も多分どこかで観察してるんだろうけれども! でもでも!


「そっ、そういえば、竜胆君はスケートよくするの?」

「盛沢」

 さっきの落ち着かない視線を思い出してそわそわしだした私の手を、竜胆君の手がぎゅっと包み込んだ。みぎゃああああああ! なにするですか!

「な、なに?」

「盛沢……」

「はいっ!」

 しゃきん、と背筋を正したのは条件反射です。


 そんな私を、なんだかやるせないような困ったような目で見つめながら、竜胆君は小さな小さな声で言った。

「俺に、相談してほしかった」


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