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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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8月の脇役そのご

 体感では3時間ほどのお披露目会のあと、やっと私達は解放された。


 部屋に戻って、とりあえず過剰装飾を取っ払う。特に靴を脱げたのは嬉しい。

 私はこの世界の人々に比べて身長がかなり低め(152センチ)なので身体に合う服がすぐには用意できず、かといって子供用のワンピースでは格好が付かないので、仕方なくものすごーくヒールの高い靴を履いて底上げしたのだ。

 もう、竹馬の上でつま先立ちする気分だった。このお陰で、私は、部屋から出てお披露目して帰ってくるまで、会長とお手々繋いで支えてもらう羽目になった。く、宿敵に頼らねば歩けないなんて、屈辱的。


 黒が高貴扱いであるからして、黒に近い服ほど身分が高いことになっている。黒を着られるのは王族(と、月の巫女関係者?)だけなので、黒い服など一日で簡単に用意できるものではない。らしい。

 既存の型紙からとはいえ、一日で作り上げたお針子さんたちの努力を無碍にはすまいよ。


 本音を言うなら、部屋では楽な服で過ごしたい。

 着飾るのは大好きだけど、時々だから良いんだ。しかし私は現在月の巫女(偽者)なので、ある程度はそれっぽく見えるように装わなくてはいけない。

 だから、もっと露出の少なくて楽そうな子供服にして欲しいとか、いっそ男物が着たいなんて我侭は口が裂けても言えない。ただの脇役なのに保護してもらってる立場だから。我慢我慢。

 今頃本物の方は、徒歩で世界を救う旅とやらをしているのだ。(まだ初日だけど)


 徒歩で旅とか、たかが3時間(多分実際にはもうちょっと短かったんじゃないかな)立っていただけで足の裏がつりそうになった私には絶対無理だなー、と、つま先を揉み解していると、ドアをノックする音がした。


「おくつろぎの所失礼致します。巫女姫様、騎士様がお見えです」

 私のお世話係らしい女性が会長の訪問を告げる。

 ほんとしつれーだな! 今から身体をほぐすために柔軟体操でもしようと思ってたのに。メールの時も思ったけど、まず先触れを寄越そうよ。

 その場で判断させるんじゃなくて、もうちょっと余裕を持たせてよ。そしたら断る理由いくらでも考えられるから。


 あぁ、思い出した。考えてみたらあの強引な呼び出しメールが全ての元凶だった。あれのせいで、こんな事になったのだ。うわー、ムカムカする。イライラする。

 いっそのこと「カエレ!」と言って塩まいてやろうか、とさえ思ったが、そんなことできないできない。

 いつも想像だけで我慢ですよ。昨日蹴り落としてやっただけでもものすごい快挙ですよ。


「……はい、お通しして下さい」

 迷惑がっている様子は感じさせないような声を努めて出した。


 だって私は清らかで優しくて大人しい巫女様。本物が無事に勤めを果たして帰ってくるまで、対外的には私が月の巫女。そういう約束だ。

 一度引き受けた約束を破っては女が廃る。(半ば流されて約束させられただけとはいえ)


「失礼します、姫君」

 しれっと挨拶して会長が部屋に入ってきた。

 涼しい顔して「姫君」とかよく言えるよね。身に付いちゃってるんだね。


 お茶だけ入れてもらって人払いをすると、会長は日本語で話し出した。盗聴されようが、これなら漏洩することもなさそうだ。

 靴を脱いで楽にするように勧めてくれたので、ありがたくお言葉に甘える。一度脱いで開放された後にもう一度履くと、かえって辛くなるものだよね。


「盛沢さんも、大変だね」

「穂積さんほどじゃないから」

王宮で綺麗な服着せてもらって、衣食住になんの不自由も無く養われ、公務というのは日に数回のご挨拶だけ。あとはお部屋でお寛ぎください状態の私と、少数精鋭といえば聞こえが良いが本人含め4人という、世界を救うには驚きの少人数(しかも徒歩!)で出発した彼女とでは、だいぶ負担が違う。


 とはいえ彼女は主人公なので、多少の苦労は物語のうちというかなんというか。


 苦労する主人公たちといえば、5人戦隊はどうしているだろう。

 来週には宿題見てあげる予定だったんだけど、それまでに帰れるかしら。会長も一緒なんだから、例の「トリップ中は時間が止まってる」特性が発揮されても良いと思うんだけど。


 穂積さんは、「壮年期を迎え男ぶりの大層上がった」王子様と、「筋骨隆々で逞しい」次期神官長と、「無精髭がワイルドさを引き立てている」国一番の腕利きの傭兵と一緒に旅に出た。

 そんな彼女に比べたら私なんてお姫様みたいな生活である。(それぞれにつく肩書きは褒め言葉です、一応)

 多少、暗殺の危険があって、半分軟禁されていようともな!


 そう、暗殺。

 どこにでも、宗教上の対立というものがあるわけで。月神信仰があれば、太陽神信仰も存在しないはずもなく、国同士の利権争いも絡んでなかなか大変な事になっているらしい。


 大陸中央の、日差しが豊かな国々は月神を。

 大陸の端に位置する、日照時間の少ない(ということはこの世界はやはり球形で、しかも直径は地球より相当小さい事になるまいか?)国々は太陽神を、それぞれ崇めている。

 ちなみに、太陽神信仰の国より先は、氷と闇に覆われて人が生存できない世界になっているそうだ。


 つまり、暑い所は日陰を求め、寒い所は日向を求める、という当然の図式なのだ。で、太陽神信仰の過激派が、最近テロ行為みたいなことを繰り返し始めたとかで……。


「少なくとも、解毒はできるし、回復もできるから。いざとなれば蘇生もできるし、安心して良いよ」

「あ、ありがとう……」

 なんて嫌な励まし方するんだ! こっちは小心者だぞ、もっと言い方考えろ! せっかくプラス方向に考えて恐怖に耐えてるのに。

「怖いだろうけど、オレも騎士らしくちゃんと守るから、頑張って」

 アハハ、爽やかでムカつく。


 私達が保護された時、私にだけはこちらの言葉が解らなかった。

 だから、何か話しかけられるたびに会長に小声で尋ねて教えてもらったり、必要な返事を代わりにしてもらったりしていたところ、何か勘違いが生じてしまったようで「下々の者とは直接お話にならない。ということはあの方が巫女様だ!」という風に認定されていた。


 加えて私の服装が黒地に白のハイビスカスのサマードレスで、会長は青いサマーセーターにジーンズ、穂積さんは白のプリントTシャツにジーンズという格好だったので、「黒に近い服ほど身分が高い」が常識の人々はアッサリと私を巫女だと信じ込んだらしい。

 どうりで真っ先に私にお茶が出されたわけだ。


 で、偉い人たちが改めてご挨拶に来るというので、しばらく貴賓室で待たされている間に翻訳魔法をかけてもらった私は、やがてやってきた王様と神官長と数名の大臣に巫女様と呼びかけられたのにビックリして「ひ、人違いです!」と叫んでしまった。


 めでたく誤解は解けたけれども、既に城中の人々が勘違いしているし、これは好都合とそのまま代役に抜擢されてしまったのです……。


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