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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
149/180

一月の脇役 その三

 私は今まで、絵実ちゃんには色んな事を打ち明けてきた。いや、打ち明けたってのは違うな……。彼女相手だとついつい口が滑るってゆーかね。


 さすがにファンタジックなあれやこれやは自粛してるけど、母にはちょ~っと話しにくいような、例えば竜胆君によるぷろぽぉず事件も、絵実ちゃんには相談している。

 爆笑された。そして竜胆君が彼女のお気に入りになった。しかし何かにつけ「いつ竜胆君と結婚するの~?」とからかうのは勘弁してほしいです。


 と、それは置いといて、そんなわけだから手越さんの困ったクセ(癖、で片付くようなかわいいもんだろーか、アレ)についても彼女は知っている。まぁこればっかりは、よく理解できてなかったみたいだけど……。

 そうだよね、体験してみないと解りにくいよね。


「へー。ふぅ~ん。そっか、あれが久実ちゃんの言ってた『なりきり』ちゃんかぁ」

 いやいやいや、決めつけはよくないよ?

 そもそも「なりきり」ってのは本来、あくまでも遊びであってだね、お互いわかってやっているっていうのが前提なんだから手越さんみたいに他人に迷惑かけるのは特殊な例なの。そこんとこヨロシク!


「じゃー、ゲームに沿ってるから、二卵性で全く似てない双子にあんな事やってるんだ」

「似てないんだ……」

「言われなきゃ双子どころか兄弟にも見えないくらい似てないのに、しょっちゅう『あなたはお兄さんの方ね? うふふ、すぐわかっちゃうんだからね~』とかねー。誰でもわかるっつーの!」

 ぼずっ、と鈍い音をたてて、絵実ちゃんは私のベッドに置いてあるぬいぐるみの顔面に拳をめり込ませた。


 ひどいっ、あなた、子供の頃はそのライオンさんにお世話になったじゃないの。背中に乗ったりしたじゃないの! すぐ潰れちゃったけど。転げ落ちて顔面打って鼻血出して大泣きしちゃってたけど。

「最初は、天然の不思議ちゃんって事で流そうとしてたんだ~。でもさ、隣のクラスの子が噂仕入れてきたの」


 その、隣のクラスの子の友達の親戚が通う学校に、例の転入生はやはり一年間だけ「転入」していたのだという。そして、全く同じような事をしていたのだと。

「男の子達がみ~んなあの子に夢中になっちゃって、学校の雰囲気最悪だったんだって。そのせいで別れたカップルもいっぱいいたって。先生まではどうだかしらないけど、久実ちゃんの言う『オヤクソク』通りなら男の先生も対象なんだよね?」


「なんだか恐ろしい話だね……」

「その学校の子が頑張って調べたら、あの子中学生の頃から毎年やってるんだって! 怖くない? ちょー怖くない?」

 ちょー怖い! い、いや、もちろんその転入生の子の武勇伝が真実だったら怖いというのはもちろんなんだけど、そんな、事実関係がはっきりしない噂がまことしやかに伝達してしまうという世間が怖い!


 私も、主に光山君関係で陰でなんて言われてるのかと思うと胃が痛いわ~。絶対知りたくない。ぜったい、ぜ~ったいしりたくない!

「ま、まぁ、噂は噂だよ……。人って、信じたい噂は根拠がなくても鵜呑みにしちゃう生き物らしいから、そんな真に受けない方が……」

 悪い噂に飛びついて広げたがる人間は、もともと噂の対象者に悪意を抱いている事が多いという。とすればその転入生ちゃん、どんだけ嫌われてんのよ?


「私だってさー、まさかって思ってたけど。こないだ自分で言ってたんだって!」

 え、まさかそんな子が自ら、私は数々のカップルを破局に追い込んで、学校中のめぼしい男の子にコナかけて女の子たちに総スカンくらってましたって懺悔したの?

「違う違う。この前ね、委員長と副会長と私で一緒にお昼食べてたんだよね。あ、風紀委員の仕事の話し合いでだよ? そこにあの子が来てさー、いきなり泣き出したの」


 転入生ちゃんは、なんと学食で絵実ちゃんをなじったのだそうな。自分がモテることに嫉妬して、男の子達を横取りしようとしてるんでしょ、と。

「『今までの学校だと男の子達はみんな私だけの味方だったのに! 女の子達にいじわるされても守ってくれたのに!』って。もードン引きだよね?」

 それは確かに……噂を肯定しちゃってるように聞こえるなぁ。一つの事象をどうやって受け取るか、の両極端な例ってゆーか。


「その場では委員長達がうまく取り繕って追い払ってくれたんだけど。今度は寮の部屋でさぁ……」

 絵実ちゃんはうんざりしたようにため息をついた。同室じゃ逃げらんないもんな、気の毒に。

「もーね、頭オカシイんだって。せっかく親友にしてあげたのに、とかさ~。あげくに『そんなに羨ましいなら、一人だけだったら譲ってあげる』って上から目線で言われて、そんで私キレちゃったんだよね~」


「まぁ、絵実ちゃんの性格だとキレるだろうね」

「久実ちゃんは外面良すぎなんだよ。ってかさ、久実ちゃんがあんま怒らないのって、ああいうヤツらの事同じ人間って思ってないからでしょ? 言葉を話すサルかなんかだと思ってんでしょ」

「ひどっ」

 いっくらなんでもそこまでしつれーじゃないよ、私。ただ、そういう連中と必要以上に人生が交わるのが嫌なだけだよ……。

 いーじゃん、そうじゃなくても巻き込まれる時は巻き込まれるんだからさ。


「私は久実ちゃんみたいにできないもん。……ところでさー、話は変わるけど、竜胆君元気?」

「え、なに。変わり過ぎじゃない? ん~、元気だと思うよ多分」

「ふ~ん。最近会ってる? 進展してる?」

「ほんとどうしたのいきなり。進展も何も、二人っきりで会ったりしてないから!」

「うっそだぁ。竜胆君ちにお邪魔したって聞いてるんだからね! 吐け吐け~! 付き合い始めたんでしょ? 伯母さんには黙っててあげるから~。伯母さんは光山君がお気に入りだもんねぇ」


 うげげ、九月の事を両親に話したのは失敗だったか。いや、だってさ、父に竜胆君のお父様の事教えたくて……。

 でも、ちゃんと二人きりじゃなかったって言っておいたのに!

「竜胆君のご家族もいたし、もう一人ジャックさんっていう人がいたし! そもそもジャックさんの恋愛相談だったから、そういうんじゃないよ」

「ぇ~。つっまんないの~」

 つまらなくて結構。


 絵実ちゃんはごろん、とお行儀悪くベッドに倒れこんだ。くぃくぃと私の腕を引っ張るって事は私も寝転べってか。

 えー、お布団敷いてからじゃないと、起きるの面倒になってそのまま一緒に寝る事になったりしない? まぁ、セミダブルだから寝られない事もないけど。(……ころん)

「う~ん、じゃぁ光山君でもいっかぁ」

 ちょっと聞きました? 絵実ちゃんったら「光山君『でも』いっか」ですってよ! 何この子、贅沢!


 ……ところで、こう、なんかすごく嫌な予感がします。実は話題は変わってないんじゃないのかなって。転入生ちゃんの話の延長上に、なぜか竜胆君と光山君がいるような印象を受けるんだけど私の気のせいかね~?

 恐る恐る私がそう尋ねると、絵実ちゃんはにやり、と笑った。な、なにかなー?

「あのね、さっき私、キレたっていったじゃん? それでね、言ってやったの」

 じりっ、と身を寄せてくる絵実ちゃん。目が怖いです。


「『従姉の取り巻きがカッコよすぎて、あんたのおこぼれ程度じゃそーゆー対象に見られないからキョーミない』って」

 なにそれなにそれ! 売り言葉に買い言葉かもしれないけど風呂敷広げ過ぎ! 絵実ちゃんの従姉っていったら私しかいないじゃん。私の取り巻きって誰の事だっ!

 ってゆーかあなたも十分、学校の男の子達にしつれーだよ、謝りなさいっ。


「そしたらさー、見せろ見せろって始まっちゃって。私も無理だって言ったんだよ? でも、うそつきうそつきってうるさいし、眠くって、つい……」

 絵実ちゃんは目にも止まらぬ速さで私のおなかの上に馬乗りになった。

 ひぃ、な、何をするのっ? 重くはないけど怖いよ?


「だから、おねがい。光山君でもいーからデートしてるところを見せ付けてやって!」

 なんとゆーことを!

「むっ、むりむりむりっ、むりっ」

「そう言うと思った」


 絵実ちゃんはおもむろに、私をくすぐり始めた。

 え、ちょ、この年でそれはちょっとキツい、ってひぃい、そこはだめええええ!

「OK出るまでやめないから!」

「や、やめてええええぇ」


 ……拷問は、20分ほど続きました。


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