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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
147/180

一月の脇役 その一

 1月1日、つまり元日には両親の実家それぞれへご挨拶に行く。

 どちらも車で1時間足らずの距離なので、朝から昼、昼から夜、という感じで滞在してその日のうちに帰ってくる。子供の頃は一年交代でどっちかに泊まっていたけれど、両家とも人の出入りが多くて多くて……。


 お年始のご挨拶に入れ替わり立ち替わりお客様がいらして、お茶出しやら何やらで全然寛げない(とにかく一日中頭を下げたり上げたりするからしまいには頭痛がしてくる!)ので、最近は日帰りということで落ち着いた。

 どっちの祖父母も大好きなんだけど、泊まるならイベントのない週末の方がお互い楽しいからね!


 そして、1月2日は何を隠そう私の誕生日なので、母方の叔母夫婦は新年会と私の誕生会を兼ねてこの日にお泊りにやってくる。

 ふふ、そうだよ、1月2日の午前1時だよ。私を生む時、母は12月31日の午後11時に苦しみ出して、それからお正月の丸一日苦しんで、26時間かけてやっと私を生んだんだよ……! 母子ともに仮死状態だったけどな!


 大晦日とお正月のどっちも潰すとか、空気読めない赤ちゃんでほんとすみませんすみません! でも赤ちゃんに空気読むとか無理だとおもうの。そもそも生まれるまで空気に触れてないんだし、羊水の中で泳いでたんだし! だから私が悪いんじゃない、私じゃない!

 ……コホン。(この事を思い出すたびに取り乱すのはいい加減何とかしなきゃ)


 えーと、まぁ、そんなわけで1月2日は賑やかに過ごすのが恒例なんです。

 この日は私がお姫様(突っ込みはスルーするよ!)なので、家事の一切を手伝わなくていいんだー。朝から母と叔母が忙しそうにしてるから、ほんとは気が引けるんだけど。でも、二人がせっかく良いって言ってくれてるんだから、素直にお言葉に甘えとくんだ。


 叔母はお料理が得意で茶目っけのある人だと思う。夫婦仲はいいらしいんだけど、バランス的には完全に旦那さまをお尻に敷いている気がする。

 二人の娘である絵実ちゃんが言うには、二人は高校生の頃に知り合ったんだって。始めは毎日のように喧嘩する仲だったそうだ。

 女子高生と男子高校生が毎日喧嘩って、それなんてラブコメ……? 今の力関係を見るに、きっと叔母の圧勝だったんだろうなぁ。


 さて、夜も更けて大人達が酒盛りに入ったので、私と絵実ちゃんは私の部屋へと引き揚げることにした。

 私はともかく(どきどき)絵実ちゃんはちょっと洗い物のお手伝いした方がいいと思うんだけどなー。なんで平然と「おやすみー」なんて言っちゃうのかにゃー?


 部屋に入った途端、絵実ちゃんは何故か素早く鍵を閉めた。ピタっとドアに耳を付けて、しばらく外の様子をうかがう。いやあの、なにしてんの?

「えっと、どしたの?」

 私が恐る恐る声を掛けると、絵実ちゃんははっと我に返ったように振り向いた。

「あ、ゴメン。寮にいる時のクセで」


 2歳年下の絵実ちゃんは、高校の寮に入っている。

 彼女が高校に進学する頃叔父の海外赴任が決まって、叔母はそちらについて行くことになった。長い休みには帰ってくるから家はそのままで、貸したりはしていない。だからたまーに母が様子を見に行って、ついでにお掃除してるみたい。


 絵実ちゃんの事も、最初はうちで預かろうかという話も出てたんだけど、絵実ちゃん自身が寮生活を希望したらしい。あの頃、ルームシェア物の海外ドラマが流行ってたもんなぁ。すごくお洒落で華やかで楽しそうだったし、そういうのを期待してたんじゃないかな。


 実際、1年生の時は随分楽しんだと聞いた。真夜中にこっそり集まって映画鑑賞会やったり、肝試しやったり。いいなぁ、楽しそう。こっそり、っていうのがまたイイよね! スリルって大事だよね! やりすぎなければ。

 にしても、鍵を閉めて外の様子をうかがうクセが付く生活ってどうよ……。ちょっとおねーさんは心配ですよ?


 絵実ちゃんはドアから離れると、私のベッドにぽすん、と腰かけた。ぺしぺし、と隣を叩くので私も腰かける。あー、あとで絵実ちゃんにお布団敷いてあげなきゃ。

「久実ちゃん、ちょっときいてよー!」

 うっ。彼女の「ちょっときいてよー」はあまりありがたくない話の前兆だ。


 だって、絵実ちゃんって子は基本的に明るくいようと頑張っているフシがある。だから余程の事がないと私に弱音を吐いたりはしない。そして口にした時はすなわち、かなりの末期状態でなおかつ私が巻き込まれる事が決定している時である。うぁ、勘弁して……!

 しかし、巻き込まれたくはないと言いつつ私は親族にとっても甘いので、聞かずにはいられないんだな、これが。


 絵実ちゃんは、どうやら寮のお部屋に御不満があるようだ。

「もーほんとサイテー。入った頃はさ、すっごくイイ先輩と同室になってすっごくお世話になって、楽しかったのにさぁ」

「イヤな子がいるの?」

 もしかしていじわるされたりしてるのかしら。それなら我慢しないで寮なんか出ちゃって、うちに下宿していいんだよ?


「先輩が卒業してから、私のとこは人数の関係で一人部屋になってたの。まぁちょっとは寂しかったけどそれはそれでいいかなーって。そしたらさ、5月に転入生が来たんだよ! 言ったっけ?」

「う~ん。そういえば言ってたかも。季節外れだよねー、とか」

「言った言った。でね、その子と同室になったんだけど。もーなにあの宇宙人。理解できないよ……!」


 その転入生、一番最初の印象は「何この美少女!」だったらしい。ところがその子、性格がぶっ飛んでいた。なんと転入初日の登校時に、あろう事かカタブツで有名な生徒会副会長にいきなりケンカを売ったという。

 いわく「目が笑ってない。嘘っぽい笑顔みせないで、きもちわるい」。


「信じられるっ? ってゆーか副会長、ただ歩いてただけで元々笑ってなかったし。無表情だったし。目だけ笑ってたらかえって怖くない?」

「そうだねぇ。目だけ笑って無表情とか、高度な技術要求されてもねぇ」

「そうなんだよー。同じ部屋だから私が案内しててさー。もーほんと。心臓が凍るかと思った……!」

 副会長は少し眉をしかめたが、無視して去って行ったという。大人だ。偉い、偉いぞ! 私だったら驚いて立ちつくしちゃうレベルの難癖なのに。


「そしたら今度は昼休み、生徒会長に絡んだの」

 絵実ちゃんの学校の生徒会長は、人当たりが良くておっとりした人気者らしい。人望厚くて男女共に友人が多いタイプ。

 そんな彼が友人と一緒に昼食を食べている席に、転入生はスタスタと近づいたかと思うと、こう言った。「女の子がみんなあなたを好きになるなんて、うぬぼれないでっ」。


「びっくりだよねー。それでさ、ビックリして固まってる会長に『でも、友達にはなれると思う』って言って手ぇ差し出したんだよ! 会長、いい人だしぽーっとしてるから、うやむやのままで握手しちゃってさー」

 ……うん。


「それで、会計と書記にも何か言ったんでしょ。なんて言ったの?」

「え、久実ちゃんすごーい! よくわかったね。会計はアイツなの。ほら、うちの隣に住んでた……」

「あー、あのぬいぐるみマニアの」

 絵実ちゃんの幼馴染の男の子は、小さな頃からぬいぐるみに対して、ちょっと異様なほど御執心だった。


 私が絵実ちゃんにあげたぬいぐるみを欲しがって駄々をこねて大泣きしたあげく「久実ちゃんがいいって言ったらあげる」と折れた絵実ちゃんと一緒に我が家へ来た事もある。

 たしかそのぬいぐるみはピンク色の兎さんだったんだけど、今も大事にしてくれてるんだろうか。


「今も鞄とかケータイにぬいぐるみゴッソリ付けてるよ~。髪も色抜いたりして、見た目は結構イケてるのにすごいギャップ。そこがいいってモテてるんだからわかんないよねー。あいつには確か『寂しい人。可哀想』って言ってたかな。新しいぬいぐるみ貢がれて幸せそうにしてたのに、どの辺が可哀想だったんだろ?」

「うーん、お人形を集める人の中には、なにかの代償行為としてそうしてる人がいるって聞いた事はあるけど」

 でもきっと、その美少女ちゃんの言いたかった事はそういうんじゃないんだろうなー。


「でね、書記はなんと双子なんだけど……どうしたの久実ちゃん? 食べ過ぎた?」

「いや、あるいみおなかいっぱいなんだけどそうじゃなくてね」

 そうじゃなくて、なんで、なんであなたの学校って……。

「なにそのベタな乙女ゲーム構成……!」

 私はぱたりと、ベッドに身を投げ出した。


 聞いてるこっちが恥ずかしいわ!


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