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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
146/180

十二月の脇役 その六

 とにかく、あの時の私は、何としてでもストーカー疑惑を晴らそうと必死だったんです。

 別に、彼らのバンドをけなす意図なんてこれっぽっちもなかったし、クロスさんは自分が思っているほど芸能人オーラ出してないから普通の人は絶対気付かない、ぜーったいわかんない! なんて言っちゃったのだって悪意からではなくてですね……。

 いやほんと。売り言葉に買い言葉ってゆーか? 本心からじゃないの、ゴメン。


 だというのに、気付いたら私ってば立ち上がって拳握って力説しちゃってるし、クロスさんは座ったままぷるぷるしてるし、お巡りさんときたら「うわなにこの子」みたいな目でこっち見てるし。え、なにこの状況、私が悪者? みたいな。

 あわてて椅子に座りなおして取り繕ってはみたものの、どう見ても手遅れです本当にありがとうございましたコンチクショー!


 で、その後差し出された用紙にそれぞれが住所氏名電話番号を書いてお巡りさんに渡したところ、「なんだ、君達同じマンションに住んでるんだ?」と笑われて、そのあとは……。もうね、その場に穴掘って埋まるか、目撃者全員埋めるかってくらい、いたたまれなかった。


 お巡りさんだけが大爆笑している交番の中で、ボソボソとお互い自己紹介をして、そのまま視線もあわせることもできずに連れだって帰ってきたんだけどさぁ。

 なぁ、これって私が悪いのか? 私だけが悪いのか?(うだうだ)


 翌朝。一晩ベッドで悶え苦しんだ結果、吹っ切れました!

 昨夜の件は、住人さんとのファーストコンタクトとして自分史上最悪のやりとりではあったけど、まだまだ修復可能範囲だと思うの。

 それにさ、これってアレっぽいじゃん。ほら、アレだよアレ。「アイドルの秘密を知ってしまった女の子が、いつの間にか巻き込まれてマネージャーやら付き人やら協力者やらにされちゃって、気が付いたらアイドルの秘密の恋人になっちゃっててー」っていう王道展開。


 ああいうお話だと、ヒロインは対象のアイドルには興味ない、または何らかの事情から反感を持っていて、始めのうちは衝突しまくるんだよね。

 アイドルの方も、普段ファンに見せてる顔とは全然違う素顔で接してきて(大抵ものすごく性格悪いか、そうでなければ舞台上では俺様のクセに実は気弱)そのギャップにヒロインは戸惑ったり腹を立てたりするんだよ、甘酸っぱいね!(きゃー)


 ……や、わかってる。ほんとはわかってるんだよ、そんな漫画みたいな事起きるわけないって。だけどさ、ちょうどそういうお話を読んだばっかりだったもんで。つい暴走しちゃった、てへ。

 しかしなぁ、冗談はさて置き、女性恐怖症に加えて実は対人恐怖症でサングラス(または眼鏡)とマスクを手放せないような人が芸能人としてちゃんとやっていけるんだろーか。余計なお世話だけど、しんぱい。


「恋愛するつもりのない相手から言い寄られた時は、どうやって諦めてもらってるの?」

「なに、藪から棒に」

 午前中の講義が終わってのお昼休み、ストーカーに狙われる恐怖についての情報収集をすべく、私の知る限り一番モテる男光山君をカフェに誘った。いやほら、佐藤さんとの関係修復に役立つかなーと思って。


 お部屋の借り手であるレコード会社さんから禁止されてるし、これからも積極的に声を掛けたりするつもりはないんだけどさ、何かの時に役に立つかもしれないじゃん。

 光山君も私も、午後は必修だから絶対捕まえられると思ったんだよね。何せ彼はモテモテですからなぁ。しつこい求愛をかわす方法だってお手のものだろう。フォレンディアの姫君には手こずったみたいだけど……。


 あー、そういや光山君、先月は姫君達のせいでお疲れ気味だったっけ。もう収まったのかな?(でもそれを話題にするとそれこそヤブヘビになりそうだから聞かないでおく)

「えーと、ほら。光山君モテるじゃない。一人一人にどうやって対処してるのかな~って」

「……なんか含みがあるよね? オレに対する嫌味? いい加減諦めろって?」

 え、あ。いや、そういうわけじゃないんだけど。


「いや、その……。光山君のファンでストーカーっぽくなっちゃった子とか、いなかったのかなーって」

「あぁ……」

 彼は頬杖をついたまま、苦笑した。いたんだ。やっぱりそういう子いたんだ、こわー!


「まぁ昔は、言い寄られたらとりあえず付き合って、相手が幻滅するの待ってたかな」

 うわサイテー。よく刺されなかったな!

「今はきっぱり断る事にしてるよ。家まで押し掛けて来るようだったら……、それは、家の者が対処してる」

 うむむ、プロにお願いしてますってか。


「そっかぁ。じゃぁ、あんまり怖い思いした事はないんだ?」

「……今度は何に巻き込まれたんだか知らないけど、危ない事はしちゃダメだよ。手に負えなくなったらオレか竜胆君に言うように」

「はぁい」

 私はオレンジジュースの残りを飲み干して、そそくさと立ち上がった。誘っておいてなんだけど、お説教は勘弁ですよっ!


「竜胆君は、その、女の子に告白された事、あるよね……?」

 情報収集二人目。

 夕方、戦隊ではなく「サヴァイヴ・サプライ」の方のお仕事に呼び出され我が家にやって来た竜胆君は、私の質問に頬を赤く染めた。ええい、照れ屋さんめっ! こっちも照れちゃうじゃないの。

「あ、ああ、そうだな。……無くは、ない、な」

「そういう子達とお付き合いとか、したことある?」


 竜胆君は無言でぶんぶんと首を横に振った。

 そっか、竜胆君はお付き合いすっとばして結婚考える人だもんな。簡単にOKしないよな。そんな彼に告白するような子は、きっと本気で思いを寄せていたに違いない。中には間違った方向に気持ちが振り切れてしまう相手だっていたんじゃなかろーか。


「何度断っても諦めない子も、いたんじゃない?」

 彼は少し眉を寄せ、それから頷いた。

「昔から道場に入り浸っているのが一人、いるな」

「え、それって幼馴染?」

「……腐れ縁だ」

 そこんとこ詳しく! と身を乗り出そうとしたところで、カウンターで大人しくお茶していたはずの毛玉と根岸さんが声をあげた。


「ラブコメはそこまでなう!」

「盛沢さん、そのつもりがないなら気を持たせるような言動は慎んでね」

「……ごめんなさい」

 結論。感じ方は人それぞれである。


 役に立たない情報収集をした数日後の日曜日。寝ていた私を起こしたのは内部のチャイム……つまり住人さんの呼び出しだった。


   ぴ~んぽ~ん、ぴ~んぽ~ん


 うぅ、今何時? 9時かぁ。あーぁ、今日はお昼まで寝ていようと思ってたのになぁ。でも仕方がない、これも管理人のお仕事のうち。

「はい、どちらさまですか」

『あー、105の佐藤です』

 にゃんと! 女嫌いの対人恐怖症が自ら訪ねてくるとは、何の用だ?


「はい、どうかなさいましたか?」

『それが、その……イテッ、なんだよ!』

『もっとしゃっきりしなさい! なんでそんなボソボソしゃべんのよ!』

 ……アレ、おんなのこの、こえがするよ?

『るせーな、お前は俺の母親かよっ!』

『マネージャーですぅ! 不本意だけどねっ』

 なにこの人達。え、まさかアレ?


 反発しあうアイドルとマネージャーなの? 他の女の子相手だとダメだけど彼女だけはなぜか平気だったりするの? そんで、リハビリ兼ねて専属マネージャーにされちゃったの? マジであんな展開繰り広げちゃってんの?

 人んちの玄関先でっ?


「すみません、今すぐには出られないので少々お待ちくださいね」

 返事も聞かずにインターフォンを下ろして、洗顔に向かう。どう考えても緊急じゃないし、あの様子じゃしばらく待たせても楽しくやってるだろうさ。(けっ)

 着替えて階段を駆け下り、ドアを開くとまさにそこは戦場と化していた。痴話喧嘩の。こ、この短時間に一体何がっ。


「もうあんたの面倒なんかみてらんないっ! こっちは仕方なく引き受けてやってるってのに、うぬぼれないでよ!」

「今更俺から離れて、やっていけんのかよ、あぁ?」

佐藤さん、ライブハウスの裏口で会った時みたいな口調になってるけど、ほんとはどれが素なんだろう。


「あんたなんかいない方がせいせいするわよっ! 私の人生、あんたに出会ったせいで滅茶苦茶よぉっ」

「それでも、俺について来い。世界をみせてやるから」

「クロス……」

 抱きっ。(ぎゅ)


 ……うん、今わかった、「ラブコメはそこまでなう!」と言ったケセラン様の気持ち。(私と竜胆君のやりとりがそんなにラブコメっぽかったかどうかはおいといて)

 目の前でやられるとイラっとする。すごく、イラっとする。

 発火から消火までのサイクルが早いのにもイラっとするわー。新渡戸桂木カップル思い出すわー。(元気かな)


「他の住人さんのご迷惑になりますから、中庭での喧嘩はご遠慮くださいね」

 しかし、私に言えるのはせいぜいこの程度なのである。外面のいい子でいるのは大変です、はい。


 二人は、私をストーカー呼ばわりしたことの謝罪と、改めての口止めと、今更ながらの引っ越しのご挨拶をしに来たらしい。私は曖昧に笑ってマロングラッセの箱を受け取った。部屋に引っ込んで紅茶を入れ、もらったばかりのマロングラッセを一口かじる。

 あまい。起きぬけの頭には暴力的なほど甘い。私は口の中の欠片を無理やり紅茶で流し込んだ。

 ……ふぅ。


 さて、エントランスに「敷地内でのラブコメ禁止」札を張っていいか、母に相談するべきだろーか。


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