十二月の脇役 その三
わくわくしながら目を閉じて待つ事数秒。光も収まったし、そろそろ見てみようかな? いいこと、久実。例え期待通りじゃなくてももうガッカリしたりしちゃダメよ。(ちら)
「……ダヨネ」
視線の先にいるのは、見慣れたセーラ服姿の魔女っ娘達だった。
ふん、わかってたもんねーっ! くやしくなんかないんだからねっ!
彼女達はさっきの『13thX』のメンバー達に負けないくらい、不自然だけれども「可愛カッコイイ」ポーズで立っていた。足を開く角度やら腰のひねり具合やら、険しくなり過ぎないキツイ目付きが絶妙だ……! さては研究したな!
「はい、ストーップ! これ以上はやめておきなよ」
フェアリーオレンジが、腕組みをしたまま一歩ぐいっと前に出た。
「みんなの楽しみを邪魔するなんて許せないっ!」
フェアリーストロベリーは腰の横で拳を構えたまま、右足を半歩後ろにずらす。
「どうやら、オシオキが必要みたいね」
フェアリーピーチは人差し指を唇の横につけ、少し首をかしげた。
せ、セリフ回しが手慣れているっ。ってゆーか、いつでもどんな時でも使えそうなセリフになっている。
そっか、いつの間にかみんな、「戦闘開始前のヒトコト」までマスターしたんだ。立派になって……!(うるっ)全裸で踊る変質者に殴る蹴るの暴行を加えてただけのあの頃とは違うんだね。
一方、どうやらターメリック卿は律儀にうろたえているようだ。彼は彼で悪役としての作法をきっちりわきまえてるんだなぁ、偉いなぁ。ある意味紳士的。
学習能力がないんじゃなくて、そうあるべき、という無意識が働いているんだと思う、これに関しては。
「何っ? ええい、誰だっ! どこにいるっ?」
よく見て! 多分一番目立つとこにいるから、とりあえず前見て、前!
「あ、盛沢さん、カーテンあけてくれる?」
ピーチこと由良さんがポーズも表情も崩さないまま、小さな声で私に言った。
そっか、舞台裏でヒロイン登場シーンに幕を開ける係か……。ふふ、それもまた一興。えーと、このボタンかな?(ぽち)
うぃぃぃぃん、とカーテンが左右に引っ張られて魔女っ娘達が登場する。ライブの事を忘れてしまえば、これはこれでいいショーなんじゃなかろーか。観客が残っていれば、だけど。
「女王親衛隊、一の騎士! フェアリーオレンジ!」
「女王親衛隊、二の騎士! フェアリーストロベリー!」
「女王親衛隊、三の騎士! フェアリーピーチ!」
「「「悪い子はぎゅぎゅっとしぼってあげる!」」」
「きゅぴーん!」
名乗りから決め台詞までは流れるようだった。3人一緒にす~っと動くものだから目が追いつかない。気が付いたら氷見さんは片膝をついて、他の二人はその後ろで背中合わせになっていた。
うん、わけわからん。さっきのポーズからどこをどうしたらあんな、阿修羅像みたいになるんだろう。あと、キュピルが自前で出す効果音イラナイ。
「くっ、毎度毎度、どこから嗅ぎつけるんだっ!」
ターメリック卿、気持ちはわかるがそれは違う。
たまたまなんだよ。たまたま、君達が悪事を企む場所と魔女っ娘達の行きたい場所が被るんだよ、不思議な事に。相性いいんじゃないかな、ある意味。
舌打ちをしながらマントを翻し、ターメリック卿は臨戦態勢に入った。
「今日こそお前達を倒し、三次元女子の魔女っ娘などという邪道な存在を消してやるっ! 喰らえっ、ダー「フェアリープリフィケーショ~ンっ!」ぶふぅっ」
ごすぅっ!
あ、氷見さんったら呪文の途中で攻撃した。ダメだよ、それは反則なんだよ? 正義のヒロインとしてあるまじき行為だよ!
「き、キサマ、卑怯な! 魔女っ娘の風上にも「フェアリーバトンっ!」ごはぁっ」
ぼぐっ!
あぁっ、また! 瀬名さんが酷いことを!
ところで今更なんだけどさ、決め台詞の「しぼる」ってどっちの意味だったの? こってり搾るのか、それとも文字通りぎゅぎゅっとやっちゃうのか。
なんか、今の戦い方見てると後者の気がするんだけど。
「ちょっ、待……「フェアリーナックル!」ぐっ」
トドメとばかりに由良さんに鳩尾をえぐられて、ついにターメリック卿は崩れ落ち、沈黙した。気絶した、のかな? 生きてるよね、ね?
いやーそれにしてもあっという間だったなぁ。確か、注意を引きつけて外に出てから戦うって計画だったのに、しょっぱなから最終奥義出しまくってた気がするよ。何のための作戦会議だったんだろう。
あ、でもまだ二人残ってるんだった。じゃぁこれからが本番なんだね? がんばれー。(こそこそ)
「ぅおぬぉれぇ! にっくきライトフェアリーの騎士どもむぇぇ~!」
倒れたターメリック卿の側ににょきっと長い棒が生える。
地の底を這うようなその巻き舌、覚えてますよ、バードック将軍ですね! 出張おつかれさまでーす。ちょっとは伸びました?
「こんな小娘どもにやられるとはぬぁさけない! 立て、ターメリック!」
バードック将軍が足(?)でつつくと、ターメリック卿は「うぅ」とうめきながら身体を起こした。丈夫だなぁ。あんなにボコボコ殴る蹴るされたら、私なら絶対起きられないよ。
やっぱり男の子だからなんだろーか。それともダークフェアリーの力?
「将軍、俺達インドア派なんですから勘弁してくださいよ」
「そーだよー。おれ、今日は怪我したくないよ~」
「黙れぇぃ!」
あぁ、いつの間にかエシャロット卿とラディッシュ卿も下りて来てたんだ。なにこのやる気のなさ。使えない部下ばっかりで、バードック将軍カワイソ~。
だがしかし、以前酷い目に遭わされた恨みは忘れてないんだからね! やっておしまい、我が魔女っ娘達よ!(なんちゃって~)
「将軍、今日こそ真っ二つに折ってやるんだからっ!」
「うふふ、そのあときんぴらにしちゃいましょうね」
「なっ、おのれ生意気なっ! 待てぇぇぇ~~い!」
魔女っ娘達はバードック将軍のトラウマスイッチを押し、挑発して走り出した。
って、こっち来てる来てる! むこうの出口向かってよ~!
「行くよ、盛沢さん!」
「ええええ~!」
「これからがいいとこなの!」
氷見さんに手を引かれ、私も嫌々走り出した。ああああ、もおおおおおお!
さっきバンドのメンバーが通ったであろう関係者用出口から外に飛び出すと、魔女っ娘達は私をその扉の裏に隠した。……確かに死角っちゃ死角だけど、これってドアをバーンってやったら私がサンドウィッチになるパターンじゃない? 他に適当な場所ないんですかね?
ハラハラしながら縮こまっている私に、魔女っ娘達は「いいもの見せてあげるから」と笑った。いいものって何だよ~。二段階変身? そろそろ期待外れすぎるとグレるよ、私。
「キュピル!」
「きゅぴいいいいいいい!」
キュピルが甲高く叫び、再びくるくる回りながら踊りだした。
「呼んだあるるん?」
……と思ったら緑の電柱、もとい電柱並みに育ってしまったアスパラが降臨した。うん、確かにコレは室内じゃ呼べないわ~。天井突き破るもんな。
あ、バードック将軍の「むゎてえええぇぇ~~! むゎたぬぅかああああ!」という叫び声と、帰りたがっているダークナイト達(ターメリック卿だけは、結構やる気なんだけど足元がふらつくようで遅れ気味のようだ)のぼやきが近づいてきた。
ひぃ、何かするんならはやくぅ!
「アルルン、上級魔装の許可を!」
「わかったあるるん。女王代行妖精の名において許可するあるるん」
「「「スクランブル! フルーツバスケット、ミックスタイム!」」」
……じょうきゅうまそう? じょおうだいこうようせい? みっくすたいむ?
なんか、色々うまく文字変換できないんだけど大丈夫か私の頭。いや違った、私の頭のせいじゃなくて状況が異常なんだ。日常生活に絶対必要のない単語が出過ぎなんだよ!
くぁあっ、と音を伴って七色の光が魔女っ娘達を包んだ。
「説明するきゅぴー。女王親衛隊は必殺技を使う事でミックスパワーが貯まるきゅぴ! ミックスパワーがマックスになると、10分間だけ上級魔装の着用が可能になるきゅぴー」
「……そうなんだ」
技を使うとポイントが減って、攻撃を受けると貯まるもんじゃないの、と思わなくもないけど、格闘ゲームとはまた理屈が違うんだよね、きっと。深くは突っ込むまい。
そっと目を開くと、いい構図が出来上がっていた。バードック将軍がアルルンと睨み合い、魔女っ娘達は、ええと、え、なに、それが上級魔装っ?
「ぐぬぬぬ、遅かったかっ」
「さぁ、決着をつけるよ!」
うわぁ、うわぁぁ! ちょっと感動した。デザインが全くバラバラだけど、そんなの小さな事だ。だってほんとに、華やかになってるんだもん!
由良さんは着物をベースにしたドレスみたいな感じでジャックさんとかがすごく喜びそう。氷見さんはどこかの軍服っぽいデザインかな? カッコイイ。そして瀬名さんはふりふりのヒラヒラ! 王道の魔女っ娘系だよね?
わぁい、3人とも天使、マジ天使! これで勝てる!
魔女っ娘の変身姿のイラストはこちら↓
http://nekotaran.blog.fc2.com/「チェシャ猫はニヤリとわらう。」