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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
13/180

8月の脇役そのさん

 自習室に入ると、穂積さんは思い切ったように切り出した。

「最近一緒の所よく見るけど、二人って付き合ってるの?」

 おー、直球。

「そう見える?」

 にこっと笑って会長が聞き返した。


 質問に質問を返すのはマナー違反だと思うが、煙に巻きたいならこうするのが最善だ。

 会長としては、私との関係は隠れ蓑として色々便利なので曖昧にしておきたいんだろう。あぁ、利用されている……。

 会長は決してただのいい人じゃないんだな。でなきゃ宰相役なんて務まらないか。でもこれ、あんたの恋人イベントかもしれないんだからもうちょっと慎重にお願いしますよ。


「……図書資料室で、わたし、見ちゃったの」

 資料室で見られちゃった、私達のまずい秘密など一つしかない。

「光山君が、光に包まれてた。盛沢さんが、おかえりなさいって……」

それだけ聞くと、なんだかトリップ系物語のエンディングみたいじゃないか。 

 言っとくけど会長のトリップは下手すると一生続くんですよ? たまたま帰ってきた所に居合わせたらおかえりなさいくらい言うわ!


 しかし、いつの間に見られてたんだろう。気配を感じなかったんだけどなぁ。いやぁ、失敗失敗。


「新刊のリストが欲しくて、盛沢さんが資料室入ったの見て追いかけたの。勝手に入っちゃってごめんなさい、でも……」

 それは多分会長の主人公特性「ヒロインにばれちゃったイベント」が発動したんだよ、きみのせいじゃない。世界の約束だよ。抗えない運命ってやつだよ。


「光山君って、もしかして別な世界に行ってたの?」

「……うん」

 会長は正直に答えた。まぁ、うまいごまかし方が無いし、穂積さんは確信を持ってる感じなのでほかにどうしようもないんだけど。

「盛沢さんは、知ってたの?」

「うん、それでたまにお話しするようになったの」

 つまり秘密を知ったが故に結ばれた縁であって、それ以上ではないのですよ。

「そうだったんだぁ」

 そうだったんですよ、だから安心してヒロインの座に納まると良い。


 穂積さんはそれはそれはながーいため息をついた。胸のつかえが取れたように。だが、次に彼女の口から出た言葉は私の想像とは90度程ずれていた。


「実は私、昔から不思議な夢をみるんだけど……」

 つっかえつっかえ穂積さんが語った話は、次のような内容である。


 子供の頃から、彼女は繰り返し夢を見ていた。こことは違う世界。

 アラビアンナイトに出てくるようなお城と、こちらの世界にはありえないほど色彩の豊かな人々。空に輝く太陽は常に頭の上にあり、月がその日差しを遮る事によって夜が来る。当然、夜の時間はかなり短い。

 人々はその短い夜を尊び、闇を愛しむ。よって、黒は高貴の色とされている。


 そんな世界を、時には空から眺め、時には誰かの目を通して、ずうっと見ていた。


 ところが最近、起きているときもそちらの光景が目に浮かび、誰かが呼んでいる声を聞くようになった。その声は彼女を「月の巫女」と呼び、しきりに、こちらに来てくれと懇願する。

 間隔はどんどん短くなり、自分が今起きているのか、寝ているのか区別がつきにくくなってきた。


「それで、光山君がもし、同じような体験をしてたなら、何かアドバイスをもらえるかと思って……」

 ……あー、うん。思考が停止する所だった、というかちょっと停止してた。


 黒が高貴ですか、そうですか。アジア人なら誰もが望む所ですね。

 あ、でも、たまに思うんだけど、本当に、純粋に黒目って、アリなの? 例えば私や会長は、色素が薄い体質で髪は茶色混じりだし、目の色も焦げ茶なんだけど。人の目を間近で覗き込んだりしないからよくわかんないなぁ。それとも焦げ茶は黒と言う事になってるのかなぁ?


 でも穂積さんの髪は間違いなく真っ黒だ。きっとその世界で大事にされるに違いない。


 その夢やら白昼夢やら声やらが妄想じゃなけりゃぁな!


 こんな話去年のうちに聞かされてたら一秒も迷わず病院へ行けと強く勧めただろう。だが今年に入ってからの私は、悲しいかな、超常現象に慣れきってしまった。

「う~ん、オレの時は、前兆があったわけじゃないんだ。最初は事故みたいなもので……」

 会長がナチュラルに対応しだした。


 しかしちょっと待ちたまえ。彼女に必要なのはアドバイスよりも、それが妄想なのか現実なのかを区別する術だと思うんだ。具体的な対策はその後だ。

「今は自由に行き来できるようになったけど、最初あっちに飛ばされた時は途方にくれたよ」

「そっか、帰ってこられるとは限らないんだよね」

「言葉も、翻訳魔法をかけてもらうまでは解らなかったくらいだしね」

「夢の中だと、言葉は解るんだけど……」

 二人の情報交換はまるで世間話のように続く。帰って良いですか?


「盛沢さんは、連れてってもらった事あるの?」

「ううん。私は、たまにお話を聞くだけ」

 私のことは良いから二人でそのまま盛り上がってくれ。


 しばらく、最初のためらいが嘘のように会話が弾んでいたが、穂積さんが突然耳を押さえてよろめいた。とっさに背中に手を回して支える。

 反対側から、会長も彼女の腕を掴んだ。

 これがその白昼夢の発作か、難儀な。なんて、のんきに同情していたら。


「……っ」


 私達の足元に、黒い闇が、広がって、そして。


 眩暈が


 耳鳴りが


 頭痛が


 意識が


 混濁する、全て、何かに飲まれて、そして、そして


 …………………………


 気が付いたら私たち3人は、石舞台のような遺跡らしきものの上に、折り重なって倒れていたのでした。


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