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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
129/180

十月の脇役 その四

 状況が大体わかったところで、だ。

 これから私は一体どうすればいいんだろう。このままここでふわふわしてればいいのかな? ある程度状況が落ち着いたら自然に目が覚める仕様、だったらいいんだけど。

「ねぇ、私達の身体って、いまどうなってるの?」


 まさか私の身体、スプラッタな状態で倉石さんのおうちに転がってたりしないよね? 乙女としてそれはなんかイヤなんだけど。あまり美しい光景じゃなさそうだし、服も汚れてそうだし、お掃除大変だし。

 そしてもちろん、私のダメージを肩代わりしたという二人の身体もとっても心配だよ。指輪が反応を示してからしばらく時間があったと思うんだけど、その間にせめて安全な場所に移動できてたらいいいなぁ……。


「キミの身体は、傷一つない状態で眠ってるはず。オレは……執務室にいたからね。誰か入ってきたらちょっと騒ぎになるかもしれない」

「戦闘中だったが問題ない」

 ひぃ、竜胆君っ! そりゃまずいよ、問題あるよ。

 宇宙警察の活躍シーンなんて数えるほどしか見たことないけど、結構危険じゃん。そんなところでいきなり気絶とか……。そうじゃなくてもあなた、戦隊の攻撃の要なんだしさぁ! あぁ、大丈夫かなぁ、戦隊総崩れで敗走とかしてないかなぁ。いや、敗走だけならともかく竜胆君の身体はちゃんと回収できたかなぁ。


 そして光山君だって、執務室ってつまりフォレンディアのだよね? 発見されたが最後騒がれ方がきっと「ちょっと」じゃすまないよね? 王城がひっくり返るような大事になるよね? 特に姫君達。

 うぅ、私のせいで色々えらい迷惑かけてしまった。

 こんな事ならもうちょっと慎重に行動しておくべきだった。素直に水晶玉渡して、よくわかんないけど適当に「ごめんなさい、もうしません」とかあしらっとけばよかった。危ない人には逆らわない、刺激しないの精神を忘れかけてました。反省。


 ぺこぺこと謝る私に、光山君は「まぁ、オレ達はなんとかなるよ」と苦笑して、むしろ気になるのは私の方なのだと言った。

「盛沢さんを撃った犯人が何かしていないとも限らないし」

「普通の強盗ではなかったんだな?」

「うん。なんか、狂信者みたいな……」

 だからまぁ、女の子としての危機感はそんなにない。不幸中の幸いというべきか。


 そんでもって、あくまでもアレは魔女裁判であって、潔白であれば神のご加護で助かる、という理論の下にぶっ放されたわけだから、生きている私は白ということになるはずなんだ。ってことは解放されててもいいと思うんだけどなぁ、やっぱりこの考えは甘いかなぁ。

 ……甘いですよね、うん、わかってる。


 たとえ白だと判定されたとしてもああいう人は「この娘を生かした神の意図を知りたい」とか言い出しかねないし、もっと悪ければ「無事ですんだのは強力な魔の加護があったためだ!」ってエスカレートする可能性も否めないもんなぁ。どっちにしろ私の身体がヤツから解放されているという希望的観測は捨てた方がよさそうだ。


 自分が今どんな目にあっているのか知らないままここでソワソワしているのは性に合わん。意識があれば回避できる事もあるかもしれないし、いざ助けが来た時に眠ったままじゃ逃げ遅れそうだし、戻れるなら戻っておこう。

 戻ったら戻ったで、あんまりロクなことなさそうだけど。


「戻るにはどうしたらいいの?」

「ここをまっすぐ歩いていけば、そのうち」

 光山君が指差した先に目を凝らす。何も見えない。真っ暗だ。

 この場所も、さっき溶けそうになってた時は暖かくて気持ちいいところだな~と感じてたのに、今は居心地が悪い。やっぱり不吉だ。絶対ここ、ただの夢じゃないよね。

「えーっと二人は、まだ?」


 一人で暗闇を進むというのはものすごく怖いことだと思う。

 ほら、お化け屋敷なんかで先頭になると足がすくむじゃないか。だからですね、できればそのぅ、可能であれば、頼りになるお二人に手をつないで行ってほしいな~、なんて……。(ごにょごにょ)


 縋るように竜胆君を見れば、彼は難しい顔で首をふった。

 よくわかんないけど、何かに引き止められている感覚があるそうな。うわぁ、ますますホラーだ、お化け屋敷だ。しかし二人が動けるようになるまで一緒にぐずぐずしているわけにもいかない。頑張れ私。女は度胸!


「じゃ、じゃぁ、先に行くね!」

 くすっと笑った気配のあと、背中から光山君の温度が離れた。途端に姿が見えなくなる。

 竜胆君も一つ頷いて手を放した。やっぱり見えなくなった。

 ……そういう仕組みですか、そうですか。結局頼れるのは自分だけですか。びくびくソロソロと、すり足、手探り状態で前進し始める。多分カメより遅い。

 ってゆーかね、本気出したカメって結構早いんだよ知ってた?


「あ、そうだ。盛沢さん」

 なんですか、私は今、いっぱいいっぱいなんですからね! 遅いとかいう批判は受け付けませんよ!

「ふりかえっちゃ、ダメだからね?」

 やっぱりここ、黄泉比良坂よもつひらさかの類だったんだああああああ!

 私は目を瞑って、無我夢中で走り出した。


 ふっ、と重力を感じた。

 びくぅっ、と脚が宙を掻く。えーっとほら、夢で階段を踏み外して起きた感じ。アレだ、アレに近い。

 心臓に悪いなぁ。そしてちょっと恥ずかしいんだけど、恥らうのは後にしておく。それどころじゃないし。なんか、ちょっと金属音が聞こえた気がするんだけど気のせいかな?


 さてと、とりあえずあの世の入り口からこっちに戻ってこれたみたいだぞ、と。じゃぁ、さっそく現状把握しようか。

 ここで間違ってもガバっと起き上がって「ここはどこっ?」なんて叫んではいけない。寝込んでるフリで気配を探るのが吉だ。できればさっきの、「びくぅっ」も望ましくはなかったんだけど、まぁ不可抗力。あくまでも私の意識はまだ夢の中って事でよろしく。


 漫画なんかだとよく、主人公が意識を取り戻したとたんに、身じろぎさえしていないのに「起きたのか……」な~んて声を掛けられちゃったりするものだけど、実際はそこまで聡い人は滅多にいない。寝言の一つも漏らせば誤魔化せる、はず。

 とゆーわけで、私は宣言するよ。事が片付くまで、できる限り寝たフリのまま過ごすよ!


 しばらく適当にむにゃむにゃ言って、ついでに寝返りをうつ。

 ころん、と右側に転がるはずの身体は、何かに阻まれて中途半端に止まった。……ナニコレ。快適とは言えない体勢のまま、周りの気配を探る。う~ん、誰もいなそうな気がする。あと、なんか音がよく響く気がする。これ、結構広い空間にいるんじゃないかな?

 ちょっと時間を置いて、勢いよく反対側に寝返りをうつと、今度こそ「しゃらり」という音がして、ぴ~んと手足を引っ張られた。……ぇ~。


 えーと、つまり。今の私って手首と足首あたりに鎖か何かがついていて、四方に固定されてるんじゃないかと思うんだけどどうかな!

 なにそれサイテー、ほんとサイテー! こんなか弱そうな乙女をこんな風に拘束するなんて、それこそ悪魔の所業だと思う。恥を知れ!


 こうなると完全にお手上げだなぁ。鎖引きちぎったり、固定部分ごと引っこ抜いたりできる自信なんかないし。もちろん鍵開けの技術とかないし。とにかくできる限り眠ってるフリをして助けを待つしかないじゃん、私。

 ちくしょー、何が神の御遣いだ。やってることは完全に犯罪者じゃん。一体ヤツの信じる神様ってのは何者なんだ。教義はどうなっとるんだ! 絶対邪教だ、邪教に違いない。


 とりあえずゴソゴソと体勢を整えて、なんとか苦しくない姿勢に戻し終わったちょうどその時。10時の方角でガタ~ン、と音が響いた。

 次いでカツカツカツカツ、と足早にこちらにやってくる靴音。ひぃぃ、来ちゃった、誰か来ちゃった!

 えぇい落ち着け私。とりあえず、あっちに扉があることがわかっただけでもすごい収穫じゃないの。脱出する時の参考にしよう。脱出できればの話だけど。


 靴音の主は私のそばまでやってきて、わざとらしい程深いため息をついた。ん~と、この人の身長が平均的であると仮定すると、どうも私の身体は腰の高さにあるらしい。床じゃなくて台の上に寝かされてるわけですね?


「あ~ぁ、ほんとだ。……女の子誘拐してくるとか、なに考えてんだよアイツはぁ」

 呆れたような男性の声。

「ほんと、まずいですよセンパイ。その子が目を覚まして騒ぎ出したら、ボク、ボク……」

 扉の方から、声変わり前の男の子の声。

「まぁ、アイツの言う事信じるならそう簡単には起きないだろ。騒ぎ出したら、その時はその時だ」

 は~い。目を閉じておとなしくしてま~っす。


「とりあえずお師匠様が戻るまで、適当にそこで見張っとけ」

「うぅ、わかりましたぁ」

 靴音はまた、足早に離れていった。

 ぎぃぃ、ばたん、扉の閉まる音。静寂。

 ……うん。なんとか、なりそうな気がしてきたよ?


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