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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
121/180

九月の脇役 その六

 戦隊に、6人目の仲間と思いきやイマイチ立ち位置のわからない単独ヒーローが追加されて一週間。

 アメリカからやってきた押しかけヒーローの活躍は、順調とは言えなかった。理由はごくごくシンプル。バイクに拘りすぎるせいである。


 まぁ、戦隊って日本国内に限らず、それこそアメリカを始めとして世界各地で戦ってるからね。地面の上に限らず、海の上とか、お空とか、宇宙空間でも戦わなきゃならないからね。

 それなのにバイクで駆けつけようとする方が無謀ってゆーかね? ジャックさんが居候している竜胆君のおうちから我が家に来るだけでも、1時間くらい掛かるから。

 とゆーわけで、ジャックさんはなかなか戦闘に参加することができない、らしい。

 ケセラン様は早々に「役立たずなう!」とジャックさんを見限り、彼の頭の上から中山君の肩に引っ越しなおした。なんて言うか、うん。中山君、よかったね?


 そんな事情ならジャックさんはさぞや落ち込んでいるだろうと思いきや、そんな事はこれっぽっちもなくて、宇宙の平和ではなく地上の平和を守ることに生きがいを見出したようだ。

 商店街をパトロールして万引き犯を捕まえたり、裏路地で起こっているカツアゲを阻止したり。つまり地元密着型ヒーローに路線変更したってことだろーか? まぁそれはいい。いいんだけど。


「一々変身して駆けつけてるんですか? そんなのに」

「正義の味方たるもの、正体を隠せと言ったのは久実殿でござる」

 言ったけどさぁ……。

「でも、逆に目立ってるんじゃ本末転倒でしょう」

 私は、ジャックさんが持ち込んだ雑誌から目を逸らした。


 確かこれ、あんまり信憑性のないネタ記事ばかり載せることで有名な雑誌だったよね。

 でも、だからって表紙に載っちゃうとかどうよ。バイクの前でポーズつけてる姿に「謎の覆面ヒーロー?!」とか煽り文句付けられちゃうとか、どうよ!

 あぁもぉ、頭が痛い。私一人じゃツッコミが間に合わない。戦隊はどこだ、あぁ、今日は南極に遠征か。……遠いな。(ふ)


「こうして拙者が悪者を退治して回っていると知れば、悪事を企む者も減るに違いないでござる!」

「一応こんなんでも日本は法治国家なんだから、国家権力以外による制裁は私刑扱いなんじゃないかと……」

「それでは間に合わないでござる!」

 気持ちはわかるけどさー。宇宙の超技術使ってまでやることか? 万引き犯のおでこに「私は万引きしました」なんてスタンプ押すのが。


「ただのスタンプではないでござる。きっかり一週間消えない上に、次にやろうとしたら浮き出てくる特殊なナノマシンインクでござる」

「うわぁ、効果的だけどえげつない」

 カツアゲ犯にも、内容は違えど同じインクを使ったスタンプを押して回っているらしい。なるほど、ちゃんと使いこなしてるんだ……。


 にしても、ただでさえ魔女っ娘達(そういや妖精界での修行から帰ってきた彼女達だけど、未だに変な恋の魔法が解けないんだよなぁ。おかしいなぁ、あの眼鏡ーズのどこにそんな魅力があるんだか)によって性犯罪者は根こそぎ退治ってゆーか駆逐されてる上に、ジャックさんによって更なる治安維持が図られつつあるなんて、あの地域ってもしかして世界で一番安全だったりしない?

 あ、そうでもないか。ダークナイト(笑)とか吸血鬼とか妖怪だってうろついてるもんな。トントンくらいか。


「えーと、まぁ、インタビューに答えるようなマネだけはしちゃダメですよ。ジャックさんの口調、すごく特徴的なんですから」

「心得たでござる」

 ジャックさんの口調はほんと悪目立ちして厄介だよなぁ。通常、あの腕輪の翻訳機能はその言語の標準語に訳すらしいんだけど、ジャックさんがもともと変な日本語知識を持っていたために、腕輪が妙な気を利かせた結果こうなったのだそうな。なんとゆー無駄な高性能。


 あのバイクにこの口調、そして行動範囲だってそう広くはないんだから、いつバレるかヒヤヒヤだよ。宇宙警察がバイクに変形機能のオプションでもつけてくれるといいんだけど。ってまぁ、それは置いといて。

「で、そんな充実した毎日を送っているジャックさんが、私に何の御用ですか?」

 そう。戦隊が南極で死闘を繰り広げているかもしれないこの時間に、わざわざあの痛ハーレーで1時間かけて我が家にやってきた理由をそろそろ聞かせてほしい。早々に近くの駐車場に移動してもらったけど、いつ九頭竜さんに嗅ぎ付けられるかと思うと気が気じゃないんだよ。早く本題に入ってよ! まさかとは思うけど、雑誌に載ったのが嬉しくてつい、とか言わないよね?


 私がかるぅく睨みつけると、ジャックさんはいきなりもじもじしだした。うん、きもちわるい。いい年をした、身体のおっきな白人男性が頬を染めてうねうねするのきもちわるい!

「そのぅ、実は久実殿にお願いがあるのでござる」

「この際はっきりさせておきますけど、私は5人戦隊のサポート役であって単独ご当地ヒーローのサポートまでは受け付けておりません」

「久実殿おぉぉっ!」

 ひどいでござる、志を同じくする仲間でござろう、とかなんとか喚きつつジャックさんは泣き崩れた。一々リアクションが派手でうるさいなぁ。


「久実殿しか頼る相手がいないのでござる! 宗太は首を振るばかりで力になってくれぬのでござる」

 まぁ、竜胆君はね。うん、竜胆君だから。そりゃぁしょうがないよ、竜胆君だし。

「はぁ……。じゃぁ話だけ聞きます。何があったんですか」

 私の投げやりな口調にめげる様子もなく、ジャックさんはぱっと顔を上げた。そして恍惚とした表情で言った。

「天使に会ったのでござる」

 ……ほほぅ。宇宙人の次は天使とな?

「幻覚症状ですか」

「本当に天使に会ったのでござる!」


 ジャックさんが主張するところによると、その天使ははっきりと、自分が天使であると名乗ったのだそうだ。えー、それって、えー。

 ってことは、2パターン考えられるよね。その1、ちょっとアイタタタな子が「わたし? 天使だよぉ☆」とかなんとかノリノリで言っちゃったパターン。その2、とうとうあの地に本物の天使が光臨しちゃったパターン。あぁ、こっちも違う意味でアイタタタだ。

 でももうそんなことじゃ驚かないぞ!


「それで、その天使が何か?」

「宗太が言うには、久実殿の知り合いだとか。紹介してほしいでござる」

「竜胆君が?」

 わからん。ますますわからん。竜胆君が無責任に適当な事を教えたとは思えないし、かと言って私、自分を天使なんて名乗っちゃうようなテンションの高い子知らないよ?

 まぁ、なんにせよジャックさんの要求はアレだね。つまりはナンパだよね?


「自分で声掛ければいいじゃないですか。私をダシにしないでください」

 変な前フリに惑わされそうになったけど、何の事はない、その子に会いたいだけじゃないか。何故わざわざ私を巻き込もうとするかなぁ。めんどくさい。

 我が家に押しかけた時の、そして竜胆君のおうちに居候を決めた時のあの強引さを思い出せ、がんばれ! と発破をかけてみたものの、ジャックさんはへにゃりと情けない顔をしてクッションを抱きしめ顔を埋めた。

 ……だからその態度はきもちわるいと!


「武士の情けでござる。一生のお願いでござる」

 私は断固として拒否した。

 いつもなら流されちゃいそうなものなんだけど、なぜかジャックさん相手だと強気に出られるのが自分でも不思議だ。でもジャックさんって、こう、ほら。な~んか、そういうオーラがあるよね? いじられキャラってゆーの?

 そんなわけで私にしては珍しく、15分ほど「お願いでござる」「いやです!」の応酬が続いた。ジャックさんがとんでもない宣言をするまでは。


「それならば、久実殿が頷いてくれるまで拙者はここに厄介になるでござる」

 なにぃぃ?

 ジャックさんのセリフは、私にしてみればどう考えても脅迫だった。戦隊のみんながいるわけでもないのに家に上げているだけでも相当な譲歩だってのに、この上泊り込みする、と言われてるんだから。

 いかんいかん、それはいかんよ! 未婚の女の子としてそれはどうかと思うんだ!

 えぇい、脅迫とは卑怯な。武士の風上にも置けぬやつめ!


「あ~もう、わかりました! 次の休みに地元に戻ります。だから今日は帰ってください」

「本当でござるな? 武士に二言はないでござるな?」

 私、武士じゃないんだけどね?


 ……くそぅ、ジャックさんのくせに。

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