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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
12/180

8月の脇役そのに

 家から15分ほどの場所に、緑公園はある。

 その敷地内に市民図書館があって、学校の図書室には無いようなジャンルの本を借りるために、うちの学生がよく利用するらしい。

 学校から歩いて5分程なので、便利なのだ。

 ちなみに、我が家と学校と緑公園は、結ぶとほぼ二等辺三角形になる。学校、公園間が短い線だ。


 とにかく、せっかくのおろしたてのサマードレスに汗を滲ませながらも何とか公園にたどり着いた。待ち合わせの時間まであと5分ほど有るが、おそらく会長はもう来ているだろう。そつが無いから。

 人を呼び出しておいて遅刻するとか、ありえないから。


 さぁ早く冷房の効いた館内に入ろう、と玄関に足を踏み入れた所で

「盛沢さん」と、呼び止められた。出席番号24番、穂積 万理さん。放送部所属で、たまに放送用の台本を借りに図書室にやってくるのでそこそこ面識はある。

「あの、ちょっと今良いかな?」

 だが、挨拶以上の会話を、学校の外でするほど親しい覚えは無い。


「あー、ちょっと用事があるからごめんね?」

 これからもそんなに親しくする予定も無いので(今の人間関係だけでも手一杯です)さらりとかわして逃げようとしたら腕をつかまれた。ひぃ、何?

「光山君の事で、聞きたい事があるの」

 ……うわぁい。とうとうきたよー。


 やっぱり勘違いによる嫉妬なのかなぁ。でも、穂積さんはどっちかって言うとおとなしめで、悪く言うと地味で目立たない子だからなぁ。

 うらやましいほど真っ黒な髪を、それは今時なかろうというくらいきちっと三つ編みにしている。すごく真面目そうだ。


 こんな子が嫉妬に駆られて自分の意思で来た、と考えるよりは怖い人たちに脅されて、私を連行するための使いっ走りにされてるだけっていうほうがしっくりくる。

 これで、人目の付かない所に連れて行かれて、複数の女の子達に囲まれて「ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」とか理不尽な事言われたらどうしよう。わかんないけど。


 しかし待てよ。これはもしかすると会長の恋愛イベントの一種なのではないか? 彼女こそ会長にとっての真のヒロインである可能性が高くはないか?

 だって地味っぽくて自称平凡な子(でも実はいつも着ない系統の服を着たりちょっと髪型変えたりするだけで滅茶苦茶可愛く変身したりするんだ)って、ハーレクイン系ロマンスのヒロインの典型例じゃないか。

 は! てことは今私の立場って、ヒロインの想い人とやたら仲の良いクラスメイト?


 一見そこそこつりあって見えるからヒロインは不安になるんだけど、実際は本当にただの「異性の友達」に過ぎず、ヒロインの気持ちを知ってやたらと世話を焼いてくれるお節介な人ポジション?

 うっわぁめんどくせぇ。


「会長の事なら、ちょうど良かったね、今から会うとこなの。一緒においでよ」

「え、今から? もしかして中にいるの?」

「うん。本の貸し借りするだけなんだけど」

 罪の無い嘘をついて勧誘する。


 だって、これは一石二鳥ですよ? うまくすれば面倒な相談事とやらもうやむやになるし、さっさと会長に関する疑問を解消すれば物語の展開がスムーズになる。

 加えて、二人がくっ付いてしまえば、秘密を共有する相談役からも逃れられるってぇ寸法だ。私、冴えてる!


「え、でも、あの、本人には聞き辛くて。どうしようって思ってたら、盛沢さんが通りかかったから、つい……」

「うん、でもそういう大事な事ならなおさら、私が勝手に答えるより、本人から聞いたほうが良いんじゃないかな?」

 いいから遠慮するなって。多少なら恋の後押しとやらもしてあげるからさぁ。うふふ。

 いきなり尻込みし始めた彼女を何とか言いくるめて連れ込もうと(犯罪っぽい)頑張っていたら、

「盛沢さんと、穂積さん?」

と、私の姿を発見したらしい会長が、図書館から出てきて声をかけてくれた。

 今ヒーローっぽかった。とてもヒーローっぽかったよ会長。


「あ、こ、こんにちは、光山君」

「お待たせしました」

「こんにちは。穂積さん、どうしたの?」

 穂積さんは何故か私の後ろにさっと隠れて、うつむきながら会長に挨拶した。照れておるのか? 愛いヤツじゃ。(なんちゃって)


「穂積さんが、会長に聞きたい事があるんですって」

「え、あ、あの、違うの」

 この期に及んで往生際が悪い。


 会長はしばし首をかしげて(だから男子高校生がそんな可愛いしぐさしても……畜生絵になるな!)いたが、頷いた。基本的にノーと言わない男だ。ち、いい子ちゃんめ。(私もだけど)

「とりあえず、中に入ろう? 自習室とってあるから」

 確かにこの炎天下、外で長時間お話し合いなんてしていられない。

 ありがたいお申し出に、私は喜んで館内に足を踏み入れた。


 この図書館は、学校が近所にいくつもあるため、小さな個室が数部屋設けられている。グループ学習などで使えるように、との心遣いだ。

 ある程度の会話は許されているのでちょっとした集まりに便利なのだ。


 平日も人気があって、予約もできないのでなかなか取れない。本来の目的通りに使われているかは別として。

 携帯ゲーム機の持込は一応禁止されてはいるものの、監視カメラもないし荷物検査もされないので、放課後小学生たちが集まって遊んでいたりして、ちょっと問題になっていたりもする。

 こんな人気の場所をよく確保したものだ。さすが会長。どうやったかなんて聞きませんよ。どうせ主人公特性だもの。


 私がさっさと入ってしまったので、穂積さんも諦めて付いてきた。会長は最後である。レディファーストとは、お若いのに紳士ですこと。


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