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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
118/180

九月の脇役 その三

 ジャックさんは、一言で言うならば……「アイタタタなガイジンさん」だった。


 いつまでもエントランスに粘られては困る。かと言って入り方を説明するのは面倒だってんで、男の子達につきそってもらいつつ(だって怖かったんだもん!)お迎えに向かったわけだけれども、姿を見た途端思わず「お引き取りください!」と叫んで回れ右したくなったくらいだ。

 だってもう、インパクト強すぎるんだもん。


 まず目に入ったのは、いわゆるアニメTシャツ。見たことがあるようなないような、かわいい女の子がでかでかと描かれている。

 いや、べつにそれだけならいいんだ。実際、駅とかでよく見るし。「あぁ、好きなんだなぁ」って思うだけだし。

 しかしその左手全体を覆う、同じくアニメキャラのタトゥーはさすがにこう、覚悟の度合いが凄すぎて戸惑った。一生好きでいますよって宣言してるようなものだもんね?


 そして何より、彼の傍らに停まっていたとっても立派なオートバイにも同じキャラが描かれていたのには正直引いた。

 だってもったいないじゃん! あれ、いわゆるハーレーでしょ? なのにそんな、あなた……。これ、なんて呼んだらいいの? 痛ハーレー?


 オートバイにはおしゃれなレタリングで、キャラの名前らしきものも書かれていた。なになに、「Rei Akithu」? レイ、あきつ。

 あぁ! あれか、「蜻蛉レイ」。バーチャルアイドルだったよね、確か。なんか、日本よりも外国で超人気なんだって? なんちゃって和風を意識してデザインされた、着物をアレンジした奇抜な衣装となが~い黒髪があちらの「間違った日本」イメージにピッタリはまって大ブレイクした、という記事を読んだ事がある。

 ……それはまぁわかったけど、今は何の解決にもならんなぁ。


「ど、どうしよう」

「……人目につかないといいな」

 福島君が慰めにもならない事を言って視線を逸らす。うぅ、なんでこんな事に。


 できれば玄関に引き込んだところでケセラン様に一発ピカっとやってもらって、あとは遠くに捨てて終わりってことにしたかったんだけど。でも、彼がここまでたどり着いたルートをきっちり探っておかないと、今後に響く可能性があるからなぁ。

 イヤだよ、今後第二第三のジャックさんが尋ねてきたりしたら。

 私は覚悟を決めて、彼を家に招きいれた。


 で。

「あの、ケセラン様。本当に彼に心当たりないんですか? こんなに必死なのに」

「そんなけむくじゃら、しらないなう」

 ……お前が言うか。

 リビングに入るなりケセラン様に突進して抱き潰そうとしたジャックさんは、「しつれーなう!」と怒ったケセラン様によって現在宙吊りにされている。

 ちゃんと謝ってるし、もう許してあげなよ……。


 そんなジャックさんの素性だけど、テキサスの大牧場主の息子で、「ムシャシュギョウ」中であることが判明した。

 そんな人がどうして、日本にやってきて重度のオタク化して、挙句に宇宙人にストーカーする事になったのか、つくづく理解に苦しむのは私だけ? あれ、逆か? 先に重度のオタク化してから日本に来たのか。まぁどっちでもいい。

「ソレガシ、アヤシイモノデハ、ゴザラン」

 あと、この言葉遣いはどこで覚えたのかも気になる。


「あやしいなう! ワタシを狙う悪者に決まってるなう!」

 ケセラン様はきぃきぃ怒りながら、例の棒を振り回した。

「宇宙牢獄送りなう!」

 宇宙牢獄ってなんだ?

「ケスドノ、デンチューデゴザル!」

 ほんとだよ、殿中でござるよ! 家の中で物騒な事禁止って言ってるでしょう? あ、や、やめてっ。その棒をこっちに向けるのやめてえええ!


「まずは顔を見せるなう!」

「アァレェゴムタイナー」

 ケセラン様は棒の先から光線を出し、じょりじょりとジャックさんの髭をそり落としてゆく。なにあれ、楽しそう。ってゆーかスッキリしそう。

 でもその髭床に落ちてるんですけど、やっぱり掃除は私がやるんですかそうですか。


「確認します。あなたのお名前は『ジャック・ドラモンド』さん。4ヶ月ほど前にこの不条理物体と遭遇し、一度記憶を消されたものの、先月思い出した。ここまで、間違いないですね?」

 ケセラン様とジャックさんの攻防などどこ吹く風ぞ、とばかりに根岸さんが事務的にジャックさんの話をまとめてゆく。うむむ、記憶消去が利かないとなると厄介だなぁ。


 彼はケセラン様から宇宙警察の話を聞かされ、自分もヒーローになりたい一心でケセラン様を追ってきたのだという。

 ……うん。永遠の中学二年生というやつですね、わかります。こりゃ、希望を叶えてやらない限り居座りそうだなぁ。迷惑だなぁ。

「ヒーロー志願云々は置いておいて。思い出したからって、どうして日本に、しかもここにいるとわかったんですか?」

「I’m a super hacker!」

 しかもスーパーハッカーときたもんだ!


 ジャックさんはまだらに刈られた髭にも構わず、誇らしげに胸を張って、ペラペラとしゃべりだした。うぅ、発音がネイティブ過ぎてしかもテキサス訛りというヤツらしいから、私の聞き取り能力ではちょっと辛い。

 とゆーわけで、ここから先は自動翻訳装置持ちの戦隊にお任せしよう、そうしよう。くっ、悔しくなんかないんだもんねっ!


 ところで途中「ラスベガス」だの「カジノ」だの聞こえた気がするんだけど……。あれ、なんか覚えがあるようなないような。GWあたりに何かあったような? ま、まぁ、その辺は大した事じゃないよね、きっと!


 ジャックさんのお話が終わる頃には、戦隊のみんなは一様に下をむいて考え込んでしまっていた。水橋さんにいたっては目が潤んでいる。え、なに、よほどまずい事態が起こってるって事?

「そうね。かなりまずいわ。……私達の存在が、どうやら各国の政府機関に洩れているらしいの」

「な……」

 なぁんだ、そんなこと。と口が滑りそうになったので、私はぱしっと右手で口元を押さえた。


 危ない危ない、このマンションの住人に一人、あなた達を仮想敵扱いしてロボット開発にいそしんでる人がいるなんて教えてなかったもんねぇ。私にとっては「今更?」だけど、みんなにとっては寝耳に水だったよね。

 しかも実は私がその組織の準構成員扱いでお給料もらってて、そのお給料もみんなのお菓子代になってるなんて知らないもんねぇ。


「衛星に映っていたなんて気が付かなかったよなー」

「この前の廃工場の映像まで流れてたなんてなぁ」

 中山君、あなたはしっかりポーズまでとってたよ。そして福島君、廃工場での一件はむしろ音声が主体で、あなたの一言だけがはっきり聞こえてました。

「盛沢は、大丈夫なのか?」

 私はまぁ、バレてないと思うな。九頭竜さんからは特に何も言われてないし。むしろ竜胆君こそものすごく敵視されてたよ、頑張って!


 根岸さんはぱんぱん、と手を打ち鳴らして場を鎮め、話を続けた。

「どの程度まで把握されているのかは、私が調べて消去しておくわ。とにかく、彼はそういう機関のネットワークから情報を掴んで、その毛玉が日本にいると突き止めたそうよ」

 あとは、記憶に残っていたケセラン様の名前を試しに打ち込んでみたら見事ヒットして、ご丁寧に写真が載っていたので本人だと確信した、というわけだ。あぁぁ、もぉ!

 住所がわかったのは、我が家を「会社住所」として登録していたからで……ケセラン様の個人情報直させるのに手一杯で、会社HPチェックするのウッカリ忘れた私のバカばか馬鹿っ!


「え、ええと、じゃぁ、ケセラン様の姿と名前を覚えていたからこそたどり着けた、って事でいいのかなぁ?」

「そうみたい。不幸中の幸いね」

「ソウダネ」

 とりあえず会社住所を削除だな。


「それにしても、いつの間にか会社まで作っていたとはね。……監督不行き届きだったわ。迷惑掛けてごめんなさい」

「え、い、いいえっ?」

 根岸さんが心底申し訳なさそうに頭を下げたものだから、思わず動揺しちゃったよ。

 むしろ私知ってたし。みんなが知らなかったいろんな事知ってたし。こちらこそほんとごめんなさい。でもこれからも言わぬが花だと思うので黙っていようと思います。

ケセラン様とジャックさんの出会いについては、「ぷらす。」の「けせらんさまとわたし。」をどうぞ。

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