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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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7月の脇役そのさん

 そんなこんなでようやく帰宅できた。


 聞けば、彼女たちは春からこちら、しょっちゅうあのような変質者を退治しているらしい。露出狂、痴漢、ストーカー、覗き、下着泥棒エトセトラ。

 なんで性犯罪に偏ってるのか知らないが、それだけ出くわしているならあんなにキャーキャー騒ぐ事もなかろうに。


 あぁ、でも慣れたらそこで何かを失ってしまう気がするんだね、きっと。うん、私も慣れてはいけないことに慣れちゃったから気持ちは分かるよ。


 基本的に、日中の我が家にはあまり人がいない。

 父は仕事だし、母は習い事やら旅行やらでよく家を空けるからだ。(家族仲は良好なのでご心配には及ばない)だからキャベツが庭を飛んでいても、塀の外から覗かれない限りは何の差支えも無い。無いが、これきりにしてもらいたい。


 キュピルは一直線に薔薇……の隣に植えてある牡丹に突進した。

 って、ええー、牡丹? 牡丹はもう咲いた後ですよ? 5月前後のお花ですよ? アレ、もしかして女王様、枯れちゃった?


 ここまで引っ張ってまさかの展開に私の顔も青ざめる。どうするんだ妖精界。いや、妖精界がどうにかなると人間界もどうにかなるの?


「女王様は、力を蓄えるためにもう一年の眠りを必要としてるきゅぴ。来年また咲くまでここで待たせてもらうきゅぴ」

「お引取り下さい」

 あんまり差し迫った問題がなさそうで何よりである。


 だが、キャベツがここに居座っては堪らないので、もう一度3人に持ち帰ってもらう事にした。女王様の護衛がどうのとか、ダークフェアリーがそのうちかぎつけて来るとか脅されたけど、断じて断る。


 というわけで、妖精の女王様親衛隊、フェアリーオレンジとフェアリーストロベリーとフェアリーピーチの戦いはこれからもしばらく続くのである。

 主に我が家の平和を守るために。行け! 戦え! あ、手加減は忘れないようにね。


 で、脇役業を兼任している私は普段どおり他の主役の皆様とも関わらねばならないわけで。


 普段どおり、会長のご相談という名の愚痴スレスレのお話を聞かされ(最近、会長も遠慮しなくなってきたよね、図々しい)、普段どおり、5人戦隊の期末対策のノートを作り(納得行かないけれど同情はするので)、赤井君と青井さんのちょっとしたノロケを聞かされ、あぁ、こうして考えてみるともしかして私、人脈広がりつつある? おかしいな、狭く浅い人間関係しか築けなかったはずなのに。


 会長のお悩みはとうとう本格化してきたようだ。王様が「わが娘たちのうち一人を娶り、あとを継いで欲しい」とか言い出したとか。

 真面目な彼には難しい問題だろう。そもそも彼は、どこかの会社社長の息子で、なにせ優秀なのであとを継ぐのが決まっているし、両親に対して別に不満も含む所もなさそうだ。


 一方、トリップ中は身体の成長も止まっているという大変都合の良い仕組みがあるとはいえ、お姫様と結婚して王様になると、今のように気軽に行き来しにくくなる。

 会社を継ぐならこちらでも結婚の話が持ち上がってくるだろうし、そうすると重婚する羽目になるかもしれない。彼の性格では「ラッキー」と受け入れるわけには行かないだろう。


 つまり、彼は今、世界の選択を迫られていると言っても過言ではない。

 王様、焦るあまり下手を打ったな。もっと「こっちを選んでくれないと国が滅びる」みたいな危機的状況で縋れば、会長のことだ。見捨てはしないだろうに。


 姫君達の我侭のせいで、ハーレム状態と言えど食傷気味になりつつある今、彼が首を縦に振るとは思えない。お姫様たちがもうちょっと賢く立ち回って彼を篭絡してくれればおもしろいのだが……。


 しかし、あっちに腰を落ち着けるとしたら苦労三昧は間違いないだろうな。いくら出来が良くてもまだ高校生の彼に舵取りを任せなくてはいけない国に未来など無さそうだし。

 人材が全く育たない国って事だものね。

 年をとれば賢くなるってものでもないのは重々承知だけど、国外どころか世界の外から人材調達しなくちゃいけなかった時点で相当終わってると思う。

 別に、日本の政治が素晴らしいとかこれっぽっちも思ってはいませんけどね。


 まぁ、会長はある意味贅沢なお悩みなので放っておけばよろしい。問題は、可哀そうな5人戦隊だ。なんと言っても現在進行形で死んでいる。


 そう、文字通り死に続けているのだ。


 あの腕輪で回復されてはいるのだが、敵と戦う→ダメージを受ける→大怪我が蓄積される、という悪循環に陥っていて、このままだと一生ケセラン様から逃げられなそうな予感。


 あの毛玉、分かってて取引を持ちかけたんだろうなぁ。本当に、ケセラン様が一番悪い宇宙人だ。いつか倒せるといいね。


 そろそろ根岸さんから毛玉暗殺計画なんかが発令されそうな気がするんだけど。でもケセラン様自身から支給された武器で、果たして倒せるんだろうか?

 いつだったか「兵器とは自分を殺せるものを指す」と聞いたことがあるから、多分ケセラン様にとっても正しく作用するとは思うのだけれど。

 自分にとっては無害だけど、他者にとっては脅威であるという仕組みになってたり、反逆した時点で腕輪の機能が凍結するとか、そういうズルイ自衛策は万全そうな気がするなぁ……。


 授業中でもケセラン様の呼び出しはあまり容赦が無い。音が鳴る訳ではないが、あの腕輪がぎゅうぎゅう締め付けるのだそうだ。

 あぁ、たまに授業中みんなが右手をおさえてぷるぷるしてるの、痛みを堪えてたからなんだね……。くっ、ちょっと涙が……。


 いっそこっちの5人にこそ、時間が止まる特典とかつけてあげたらいいのに。運動系の部に所属する中山君、水橋さん、竜胆君は放課後や朝練もあるので益々気が休まらないという。

 でも部活はやめないんだ? あぁ、竜胆君はスポーツ推薦組らしいからやめられないよね、そうだよね。


 一方美術部幽霊部員の福島君は、その辺は大丈夫らしい。選挙も終わったから委員会ももう無いしね。どうせサボってたけど。そして根岸さんは文芸部なので、放課後の融通は利く。


 しかし、正義の為にわが身と時間を削っているので、お勉強の時間や睡眠時間も一緒に削られていくのだからやりきれない。

 いっそカミングアウトして色々免除してもらってはどうか、と思うほど追い詰められている。できない相談だけど。


 だからこそ私は彼らのために試験対策ノートなるものを作る事にしたのだ。自分でも、こんな情け深い心が眠っているとは思わなかった。思わぬところで新しい自分を発見、である。

 今回こそ、追試組がでませんように。(なむなむ)


 赤井君と青井さんに関してはもうほんとにただのノロケなのでどうでもいい。むしろ私に一々報告しなくていいから。勝手に幸せにやっててくれればいいよ……。でも貢物はまだまだ受け付けるよ。

 

 ただ贅沢を言えば、実はチョコより薄塩煎餅のほうがすきなんだけどなぁ……。(もぐもぐ)


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