2.
「おはよう、京介くん? きょうのご機嫌はいかがかしら?」
飲み物を買いにコンビニへ向かっているだけなのだれど、どうにもまだ違和感がある。
「とっても気分がいいね。だって、こんなにもきれいな天使があいさつしてくれているんだから」
「お上手ね」
それでもルコラは、気を良くしたのか、大きな羽をなびかせ、俺の肩を軽く叩いた。
その拍子に、半透明の羽が何枚か、落ちる。その羽は、まるで意思を持って冬を踊っているようだ。
誰も足を踏みいれることのない山の頂上に降る雪みたいで、美しい、と俺は思う。
まだ、天使やら悪魔やらと会話しながら歩くのには、慣れていない。
まあ、この二人と話しているからと言って、俺が変質者に思われることはないのだが。
光があるから、闇がある。
いいことがあれば、わるいことも、やはりある。
「なあ、ルコラ。やっぱり、今日は気分がよくないみたいだ」
「あら、どうして?」
「ごらん」
ルコラは俺の指差した方向を見た。
コンビニの駐車場に、金髪の男たちがたむろしている。見せかけだけの、群れなきゃなにもできない、虫けらに支配されたウジ虫。
「京介くん」
「わかってる、俺がやるんだ。俺しかいないんだ」
どうにもおかしい。
ルコラたちに、力を授けられてから、自分で自分をコントロールできないほどに腹がたって仕方がないことがある。
もちろん。今までだって腹はたつことなんて、数え切れないほどあった。
でも、この怒りはちがう。英雄を迎える群衆の歓声を抑えることはできないように、俺が俺を超えようとしている。
この力を、怒りを。誰が沈められるだろう。
我慢できない、俺は。
弱く汚れた屑が阿呆な面して威張り散らす世の中が間違っていることに、俺しか気づいていないのか。
俺は、顔中がピアスだらけの男たちに向かっていき、思いっきり、足を踏んでやった。
男たちは、一斉に立ち上がり、頭の悪そうな顔を真っ赤にして、俺の胸ぐらをつかんだ。
「なに、へらへらしてやがんだ? ガキ」
俺はまだ動かない。まだ、動いてやりもしない。
次の瞬間、男たちは頭を抱えて、俺の足もとにはいつくばった。立ち上がる。汚い言葉を発する。そして壊れる。
その間、二秒。
二秒。
現世から永遠の地獄への旅行時間だ。
コンビニで、買い物を済まして、空を見上げると、雪が降ってきた。
「ルコラ。やっぱり今日は気分がいいよ」
「あら、京介くん、なんだか変だわ。いったいどっち?」
「だってさっきの奴らみたいに、俺以上についていない奴がいるからね。そいつらの共通点はなにかわかる? ルコラ」
「……わかったわ、それは」
俺はルコラを、手で制して言った。
「出会ってしまったことさ、この俺にね」
俺は口笛を吹きながら、降りつもるであろう雪を、眺めながら歩いた。
ルコラはルコラで、指先で雪を操って、美術作品のような模様を作って遊ぶ。
「ねえ、京介くん。あなたって」
「なに?」
「格好つけてるけれど、ブラックコーヒーは飲めないのね」
痛いところを突かれてしまい、俺は頬があつくなるのを感じた。
紙パックのうんと甘いカフェオレを飲む。
ようやく覚めていた体が、また火照っていた。




