4月(2)
「無理…か…な?」
髪の長い生徒は、再び私の正面から顔を覗き込む。
あ…結構美人…いや、男か…女顔なんだ…なんか、悔しいかも…。
「寮官さん、動くなよ。貧血起こしてるだろ。どっか痛い所ないか?骨折れてると思うぞ。」
「…腕。」
彼は、私のブレザーを慎重に脱がせ、ブラウスの袖をまくって顔をしかめた。
そこに、大和と呼ばれた生徒が戻って来た。
「どうだ?様子は。」
「左腕の複雑骨折は確定だ。後は、素人には判らない。目眩も起こしてるからな。心配なのは、脳の方だが…。」
「救急車、呼ぶか?」
「…やめ…て。」
私は、必死で口にした。
気を抜くと、意識が飛びそう…。
でも、此処で騒ぎを起こす訳にいかない。
クラスメートの為にも、自分自身の為にも!
「保健室…行きます…から。」
「残念ながら、今日は閉まってる。先生は、出張中だ。」
「一応、教室からカバンは持って来たぞ。」
「…何か…済みません。一つ、お願い…いいですか?」
「何だ?」
「手洗い場まで…連れて…行って…。」
「わかった。」
…視界が黄色い…頭の中がきな臭い…もう少し…。
「着いたぞ!」
最後の力を振り絞り、左腕を支えて洗面台に乗せ、上から水を掛ける。
隣の蛇口も全開で捻ると、其方には頭を突っ込む。
上半身はビタビタだけど、今はそんな事気にしている場合じゃない。
まずは、血圧を上げてしっかりしなきゃ…。
しばらく水に打たれいたら、後ろからそっと肩を掴まれた。
「気が済んだか?寮官さん。あんたの状態は、そんな事で治る程度のものじゃ無いと思う。大人しく、俺の言う通りにしてくれないか?」
そう言って、蛇口の水を止めた。
凄く気遣ってくれているのが分かる。
全然知らない人達なのに…。
「救急車は嫌なんだろ?今、自家用車呼んだから、もう少しで到着する。」
そう言うと、カバンから出したタオルで、私を拭いてくれた。
そんな事、自分でするのに…でも、身体中痺れて動かない。
歩く事も出来なくて、昇降口まで運んでもらう。
「しっかりしろ、寮官さん。車が来た。」
「…寮官…さん…な…い。」
「?」
「私…かん…ざ…き…み…さお。」
地底に吸い込まれる様に、私の意識が深く深く墜ちた。