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雪華遼遠  作者: Shellie May
15/18

春(2)

今日も来ている…。

私は、此処で微睡んでいたいのに…。

とても甘く、優しく呼ばれる。

私は、あの人が好き…でも、あの人の所には行っちゃいけないの。

怖い事、悲しい事がたくさん、たくさん…。

もう、傷付くのは嫌、いや…。

でもあの人は、毎日やって来る。

以前は、私を追い回して、とても怖かった。

最近は、そんな事は無くなったけれど、それでも近くに行くと、捕まえようとする。

とても、とても悲しい目をするの…胸が痛い…。



今日は、あの人の近くまで行った。

あの人は座っていて、自分の隣に座らないかと誘っているみたいだった。

もう少し近付いてもいいかしら?

そう思っていると、いきなり手を掴もうとする。

すんでのところで逃げる…。

あの人は、悲しい顔をして、何故と問う。

涙が…どうして、こんなに悲しいの?

あの人は、不安な事は無いと言う。

私を愛してると言う。

私に、戻って来いと言う。

胸が痛い…辛い…あの人の想いが流れ込む…。

いや、いや…。

あの人が近寄って来る…涙が溢れ…私は逃げ出した。

あの人の側にいたいのに…。

あの人に触れて欲しいのに…。どうして…。



今日もあの人はやって来た。

でも、いつもみたいに呼んでくれない。

どうしたの?

そっと近付く。

あの人は、膝を抱えている。

具合が悪いの?

何かあったの?

そっと触れてみる。

あの人は、少し顔を上げて、何時もよりそっと私の手を掴み、顔の下に持っていく。

私の指先が濡れる…泣いてるの?

私はたまらなくなって、あの人の身体を包んだ。

あの人は顔を上げ、私の腰に手を回し、顔を押し付ける。

私は驚いて逃げようとするけれど、離して貰えない。

どうしよう…。

あの人の心が、震えているのがわかる。

淋しくて、淋しくて、どうしようもなくて…自分も此方の世界に来ると言う。

それは駄目…私は被りを振った。

あの人は、それじゃあ自分は、どうすればいいと問う。

お前の居ない世界は、もう耐えられないと言う。

私は、こんなにも愛されている。

私の胸に、暖かい光がさした。

でも、まだ怖い…。

自然に身体が震える。

あの人は立ち上がって、私を抱き締めて言った。

お前の事は、俺が支える。だから、俺の事はお前が支えてくれ。

そうやって、2人で共に歩いて行こう。

結婚しよう、ミサオ…。

愛してる…永遠に…ミサオ…。

私は、この人に名前を呼んで貰うのが好き…。

この人の、腕の中が好き…。

そして、甘い口付け…。

私は、彼の腕の中で溶けていった。



**************



俺は、満ち足りた気分で目覚めた。

俺の腕のなかには、操が静かな寝息を立てていた。

やっと、夢の中の操を捕まえる事が出来た。

寝入る時は、最悪な気分だったが、寝起きは何時ものやるせない気分ではなく、最高の気分だった。

思わず操を抱き締めてキスをする。

その時、

「…ん…。」

と反応があった。

まさかっ!!

俺は、操を抱き抱え、必死に名前を呼びながら、携帯で兄貴を呼び出した。



「君の名前は?」

「…ミサオ…。」

「名字は、わかるかな?

彼女は、被りを振る。

「年齢は?」

「16歳。」

「学生かな?」

「多分…。」

「学校名は?」

「わかりません。」

「他に、覚えている事は?」

「頭の中に、靄が掛かったみたいで…。」

「名前は、どうしてわかったのかな?」

「誰かに…ずっと呼ばれていたんです。ミサオ…って。」

「…そう。じゃあ、操ちゃんと呼んでいいかな?」

「はい。」

「僕は、操ちゃんの主治医の鷹栖武蔵です。」

「鷹栖…?」

「どうかした?」

「いえ…どこかで聞いた気がしたものですから…。」

「こっちは、同じく主治医の、鷹栖小次郎です。」

「…鷹栖…小次郎。」

「宜しく…。」

「…宜しく…お願いします。すみません、少し、疲れました。」

「そうだね。先ずは、体力を戻さないとね…。ゆっくり、お休み…。」

俺は、操をベッドに寝かした。

「お休み…。」

「…お休みなさい。」



「記憶の混濁があるみたいだな。」

「戻るのか?」

「戻るだろう。お前の名前にも反応した。」

「そうか!」

「但し、焦りは禁物だ。時間が係るかもしれん。」

「わかった。」

「しばらくは、触れ合う事は出来ないぞ。彼女に受け入れられるまで、じっくり待つんだ。」

「わかってる。目覚めてくれて、話が出来る…それだけで、一生待てる気がする…。」

「ならいいんだがな…。」

兄貴は、微妙ないい方をして、部屋を出て行った。



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