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雪華遼遠  作者: Shellie May
12/18

12月(1)

師走に入り、街に慌ただしさがと活気が漂う。

数日前、私の所に綺麗な封書がられて来た。

院長先生から、クリスマスパーティー及び正月休暇のお誘い。

今回も、夏同様に全館閉鎖となってしまうので、私は早々に住み込みバイトを探していたのだが、バイトはあっても住む場所が無いという現実に打ちひしがれていた。

以前みたいに、ネットカフェという選択肢もあるが、先輩に見つかったら…。

寮って、結構不便…もし、先輩が寮を出て自宅に戻ったら、私も寮を出て1人暮らししようかな…。

正月休暇は兎も角、クリスマスパーティーには先輩と一緒に参加しよう。

家族だけのパーティーだと書いてあるし、院長先生との約束もある。

あれから何度か先輩に話してみたけれど、今の所自宅に戻るつもりは無いと言う。

以前よりは、良い親子関係を築きつつある先輩が帰らない理由…それは、私の存在だと思う。

やはり、先輩より先に寮を出るべきなんだ…私は色々思いを巡らせていた。



「寮を出るんですの!?」

「今すぐとは、行かないけどね…。進級するまでにはって、考えてるの。」

「小次郎様は、ご存知ですの?」

「絶対内緒だからね、珠ちゃん!前回みたいに連絡なんてしないでよ!」

「…わかりましたわ…でも、何故ですの?」

「休みの度に放り出されるのが、一番の理由かな…。」

「でも、それは小次郎様が…。」

「そんな、毎回迷惑掛けられないよ。」

「だって、ご家族公認の恋人なんでしょう?」

「…先輩と私は…恋人じゃないよ。」

「え!?」

「先輩と後輩って、関係…。」

「操ちゃん?」

「…。」

「先輩は、了承済みなんですね?」

「…うん。」

「恋人としての確証の無いまま、恋人同様にお付き合いされていたと?」

「そうね…。」

「それって、蛇の生殺しじゃありません?」

「だから…何とかしないといけないと思うの。」

「…お別れするつもりですか?操ちゃん。」

「…まだ…わからない…。」

「嘘!心の奥で決めていらっしゃる!」

「…適わないわね…。」

私は、寂しく笑った。

「約束したの…先輩のお父様と。先輩を実家に戻すって。」

「それとこれは、別問題ですわ。」

「一緒なのよ。巡り巡って、全て一本に繋がる。」

「頑なですわね。」

「そうね…そうじゃないと、生きて来れなかったもの…それに…。」

「それに?」

「住む世界が違いすぎる…。」

「そんな事!」

「学生の内は、良いのよ。でも、卒業したらそんな訳にはいかないもの…。」

「先の夢を見る前に…と、いう事ですの?」

「先輩の性格じゃ、すぐに切り替えるのは難しいと思うし…。」

「操ちゃん、まさか学校も…。」

「1人暮らし出来れば、何処でも行ける訳だし…先輩の様子を見て判断するつもり。」

「操ちゃんの気持ちは?」

「…好きよ。うぅん、愛してる。今は、自信を持って言える。」

「小次郎様も、同じ気持ちですのに…。」

「私は、先輩とご家族に、幸せになって欲しいの。色々考えたのよ、これでも。でも、どう考えても、其処に私が居ちゃいけないのよ…。」

「小次郎様と、相談すべきですわ。」

「先輩も理解しているの…きっとね。でも、心がそれを許さない。それが、若さ故の激情だとしてもね。」

「でも、そんな曖昧な事で!?先の事を考えて、今の幸せを全て投げ出してしまうなんて!」

「…今現在、私と先輩が一緒に居る事で、悲しい想いをされている人が居るのよ…。」

「何ですって!どなたですの?」

「…先輩の…婚約者…。」

「!小次郎様、そんな方がいらしたんですの!?」

「…。」

「然も、お会いしたんですのね?」

「…うん。」

珠ちゃんは、深い溜め息をついた。

「そういう事情なら、私が口を挟む問題ではありませんわね…。私としては、操ちゃんと小次郎様に幸せになって頂きたいのですけれど…。」

「ありがとう、珠ちゃん。」

私の頬に、一筋涙が流れた。



「本当に、こんな物でいいんですか?」

「あぁ、喜ぶと思うぞ。」

クリスマスの近付いた土曜日、クリスマスパーティーで渡すプレゼントを選ぶ為、私は先輩と街に来ていた。

「こんなの、何処にでも有るストラップですよ。」

「お前から、贈られる事に意義があるんだ。」

「そうですか?」

そう背中を押され、私はシルバーのストラップを2個、院長先生と先生の為に買った。

夕方、街を見下ろす陸橋で、私達は車のテールランプの行き過ぎるのを飽く事無く見ていた。

「先輩は、何がいい?」

「俺は…。」

突然私の背後に立ち、腰に手を回すと、私の耳の後ろにキスをする。

「あっ…。」

妙になまめかしい声を上げてしまい、先輩の腕に力が入る。

私自身が、先輩の事を好きだと確信し始めた頃から、私の身体は先輩の包容に微妙な反応を見せる事があった。

「…お前がいい…。」

無言で腕から逃れ様とする私を、優しくポンポンと叩きながら、

「…わかってる。心配するな。…だがな…」

再び、力一杯抱き締め肩に顔を埋めると。

「俺は、お前を強引に…泣かせてしまいたいと思う事がある…。」

と、言った。

先輩だって、若い男性だ。

今迄、私をいたわり我慢して待っていてくれた…しかし、それも限界が来ているのだろう…。

時間が無い…。

先輩の腕の上に、そっと手を重ねる。

「先輩、私ね…」

「ん?」

「クリスマスプレゼント、身に着ける物がいいな…高価な物じゃなくて、気軽に、ずっと長く着けられる物…。」

「わかった…。」

テールランプの列が、グニャリと歪む。

こぼれ落ちた涙は、先輩のコートの袖に吸い込まれた。



「本当に、こっちには来ないのか?」

「だからぁ、珠ちゃんと、ずっと前から約束してたんですよ。」

「…本当に?」

「疑い深いなぁ。本人に、聞いてみて下さいよ。」

先輩は、何も言わずに、携帯でメールを打っている。

クリスマスパーティー当日、パーティーには出席するが、正月休暇は珠ちゃんと一緒に過ごすという事に、先輩は驚きの色を隠せない。

珠ちゃんには、前もって口裏を合わせて貰っているが、先輩に面と向かって嘘を突き通す自信が無いと、当日まで隠していたのだ。

「信用しました?」

「…あぁ。」

先輩は、しぶしぶ返事をする。

本当は、夏同様に予定なんて無い。

パーティーが終わると、荷物を持ってネットカフェに直行し、不動産屋巡りをするつもりだった。



「今晩は、ご無沙汰致しております。」

「やぁ、操さん。」

院長先生は、そう言って私をそっと包んでくれた。

「元気だったかい?」

「はい…。」

「いらっしゃい、操ちゃん。」

「ご無沙汰致しております、先生。」

また、先生に包み込んで貰う。

私はこの先生には、私がしようとしている事、今後の先輩の事を、話しておかなければならないと考えていた。

「今日は、お招き有り難うございます。あの、コレ恥ずかしいですが、お二人にクリスマスプレゼントです。」

「これは嬉しい、ありがとう。早速着けさせて貰うよ。」

「いやぁ、素敵じゃないか…ありがとう。操ちゃん、準備を少し手伝ってくれるかい?」

「はい、喜んで。」

先生に付いて

控え室に行く。

「どういう事だい、操ちゃん?」

先生へのプレゼントの袋に、メッセージを書いていたのだ。

「後で、お時間を作って頂けますか?先輩には、内緒で…。」

「操ちゃん、まさか…。」

「…先生、何を運びましょう?」

私は、質問には答えずに控え室を見回した。

「じゃあ、そのワインを運んでくれるかい?僕は、こっちのグラスを運ぶから。」

「わかりました。」

先生の後に着いて、ワインを運ぶ。

先生が、リビングに入った途端、誰かが違うドアからリビングに入った気配がした。

女の人の話し声。

「小次郎っ!」

という、甘い声。

途端に、身体が震え硬直する。足がガクガクして、立っているのがやっとだ。

私の持っていたワイン瓶が落ちて、床を転がる。

「操ちゃん?」

先生が振り返り私の名を呼ぶのと、楓様が控え室を覗き込むのとは一緒だった。

楓様は、先生の前に進み控え室に入ると、後ろ手にドアを閉め鍵をかけた。

「…貴女。」

そう言いながら、私に近付いて平手打ちを放つ。

バランスを崩し座り込む私に、転がったワイン瓶を握り締め、滅多打ちに振り下ろした。

「何で、此処に居るのよ!?私、言ったわよね!泥棒猫みたいな真似しないでって!小次郎は、私の物だって、私の婚約者だって!!出て行ってよ!今すぐ此処から!!消えてよ!!貴女なんか、消えちゃってよ!!」

半狂乱で叫びながら、瓶が振り下ろされ、肩に背中に痺れる様な痛み…。

リビングからは、叫び声とドンドンというドアを叩く音…。

楓様が大きく瓶を振り上げると、鴨居に瓶が激しく当たり、頭の上で割れた。

白いワンピースを着た楓様の頭上から、赤ワインがスローモーションの様に降り注ぎ、真っ赤に染まった楓様が叫び声を上げる。

割れた瓶を持って、楓様が近付く。

「貴女が…悪いのよ…貴女が…。」

私に抱き付く彼女の怒りが、悲しみが流れ込み、私を満たし、差し込まれる。

頭からワインを被り、真っ赤に染まった楓様を…血まみれの楓様を見て、私は息が詰まった。

ようやく蹴破られたドアから、人々が口々に控え室に飛び込む。

「楓!!」

「操!!」

「二人共!」

「小次郎!!小次郎っ!!」

先輩にすがりつく楓様が見える。

先生が私に駆け寄り、

「操ちゃん、大丈夫か!?」

と、助け起こしてくれた。

息が詰まり、意識が飛びそうな私は、先生に必死に伝えた。

「お願い…連れ…出し…て…。」

私を抱き上げる先生を見て、先輩は頷いた。

そして、私をじっと見詰める。

私達の視線が、絡み合った。

涙が、目尻から流れた。

先輩…ありがとう…。

視線を切ったのは、私の方。

「お願…い…。」

先生は、混乱が続く控え室から脱出した。



先生は、私を2階に運ぼうとしたが、私は被りを振った。

「この家が、駄目なんだね?」

頷く私を見て、先生は、私を車に乗せて街に走り出す。

車の中で、私はホッとして…そして意識が途切れた。

「…操ちゃん?」

名前を呼ばれ、意識が戻る。

「…先生…此処は?」

「安心しなさい、僕のマンションだ。それより、診察させてくれる?」

「いえ…大丈夫です。」

「一方的に、暴力を受けていたと思うけど?」

「楓様の力位い、何て事ありません。其れよりも、楓様は?」

「しばらくしたら、落ち着いた様だ。何処にも怪我していないし…。」

「良かった…。」




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