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雪華遼遠  作者: Shellie May
11/18

10月(2)

「さぁ、メイクしますよ!」

まず、付け爪を付ける。

そして、化粧水と乳液で肌を整える。

「何時も、お手入れとかしてるんですか?」

「冗談だろぅ?何もやっちゃいない。」

男の人には珍しい程の、色の白いきめ細かい肌。

「髭は?」

「朝、当たった。」

あまり濃く無いんだ…。

ベースで整えて、ファンデーションを塗る。

眉を引き、頬紅を入れる。

アイラインを長く引き、アイホールに薄い赤を目の際に濃い赤をさし、紫のシャドーを加えて色っぽく…。

ツケマツ毛どうしよう…元々長くて量のあるマツ毛…。

私は、軽くビューラーで上げると、マスカラを塗り、目尻のマツ毛を長く整えた。

「口、開けて。半開き。」

真っ赤なルージュを引き、グロスで熟れた様な唇を…。

思い付いて、目の際下に泣き黒子を入れてみた。

「終わりか?」

手の止まった私を見て、先輩が問う。

「どうした?お前、顔赤いぞ。」

「先輩…。」

「何だ?どうかしたのか?」

「…奮いつきたくなる様な、美人です!!」

「ぐっ!」

廊下に待つ面々を迎え入れ、完成品を披露する。

部屋に広がる、どよめき。

9組のクラス役員さんは、優勝を確信したと喜ぶ。

「いい女だな、小次郎!俺と付き合え。」

「ぬかせ!馬鹿やろう!」

「耽美ですわね…中性的な魅力が、たまりませんわ!」

確かに、美人画と称する物も、これ程の美人には、そうそうお目に掛からない。

フンッ!と言いながら、姿見を見ていた先輩は、

「喜久子叔母の若い頃に似てるな…。」

と、言った。

そうか、私は知らず知らず喜久子様をイメージしてメイクしていたかもしれない。

「じゃあ、時間になったら、スタンバイお願いします。」

「俺達も、会場で待ってるからな!頑張れよ!」

そう言って、皆は、出て行く。

「このまま、逃げるか…。」

「駄目ですよ。」

「なぁ、コレは?」

と、組み紐を私に渡す。

「今は、結びませんけど?」

「じゃあ、手首に巻いてくれ。」

私は、言われる儘に、手首に巻きはじめたが、解いて二の腕に長く巻いた。

「ずっと、付けて下さってるんですね。」

「最近は、これを付けないと、落ち着かない。」

「…打ち合わせ通り、お願いしますね。」

「やるのか?本当に…?」

先輩は、躊躇する。

「お願いですから、真面目にやって下さい!」

「何をそんなにムキになる?」

「…。」

「ミサオ?」

「ご褒美、上げるから…。」

「褒美?」

「私が持ってる物だったら、何でも上げるから!」

「…ミサオ…。」

「だからお願い!優勝して!」

私は、懇願した。

「…わかった。最善を尽くそう。」

「…そろそろ行きます?」

「そうだな。」

赤いパンプスを履き、大きな中華扇を持ち、頭から赤い大きなオーガンジーの布を被る。

私は、先輩の手を取り、会場控え室に入った。

3年1組から順に発表するので、先輩の出番は一番最後。

私の方が、ドキドキしながら控え室を行き来していると、

「神崎君。」

と、呼ばれた。

「南先輩!ミスコン、参加してましたっけ?」

和装姿も艶やかな、これ又絶世の美女が其処にいた。

「いやぁ、急遽交代して貰ったんだよ。」

「どうして…?」

「どうしても、優勝賞品が欲しくてね。」

と、にっこり笑う。

「南先輩、それ職権乱用…。」

「優勝すれば、誰も文句は言わないと思うよ。」

「…失礼します。」

私は、先輩の所に戻った。

「…南先輩が出てます…。」

「…そうか。心配するな。」

そう言うと、

「…燃えて来た!」

と言った。



2年1組の出番、南先輩が舞台に上がると、

「ホゥ」

という溜め息が、会場全体に溢れた。

扇を巧みに操り、紙吹雪を散らす。

その洗練された美しさに、会場がどよめいた。

結果は、今迄に無い高得点。

マズイ…。

非常にマズイ…。

南先輩が、私の姿を見つけ、にっこりと笑う。

私は、先輩の所に飛んで行き、化粧直しを始める。

「落ち着いてますね、先輩。」

「こんなもんは、度胸だからな。」

「私、そろそろ客席に行ってます。」

「あぁ。」

「…。」

「心配すんな。」

「はい。」



いよいよ先輩の出番。

曲に合わせ、赤いオーガンジーの布を被ったまま、舞台中央に進み出る。

ジャーンという銅鑼の音を合図に、布を取り客席に投げる。

ワーッという歓声と共に、舞台をモンローウォークで歩き、ポーズを決め観客に流し目を送り、扇を広げ嫣然とした微笑みをたたえる。

綺麗…本当に色っぽい…ズルいよ先輩…。

その内に先輩は、パイプ椅子を持ち出し、色々悩ましいポーズを決めて、観客を挑発する。

先輩、そんなの予定に無い…。会場は、歓声で沸き返る。

最後の決めポーズでキスを投げる。

大きな歓声の中、先輩のステージは終わった。

得点は?

「満点だ!」

歓声が沸き上がった。

私の目に、涙が滲む。

表彰台で9組のクラス役員さんが、踊っていた。

コーディネーターが紹介され、私の名前が呼ばれる。

先輩が、舞台の上から手を差し伸べる。

私は舞台に上がり、先輩の隣に立って皆の歓声に答えた。

「神崎、褒美を貰うぞ。」

「え?」

先輩は、いきなり私の後頭部を持つと、舞台中央でキスをした。

赤い唇が、私を捉える。

水を打った様に、静まり返った会場。

たかだか3秒程の事だったと思う。

次の瞬間、ワーッという歓声の中、私はしゃがみ込み、先輩はガッツポーズを決める。

ヒューヒューという歓声が、絶える事無く続いた。



「まだ、怒ってるのか?」

「当たり前です!あんな、公衆の面前で…。」

「もっと、激しいやつお見舞いしても、良かったんだがな。」

「知りません!」

私は、むくれる。

「だが、あれで寮官さんに手を出す者が減るだろうな。」

「あら、それはどうでしょう?」

と、珠ちゃんが笑う。

「どういう意味だ?」

「我が校の女性の人気で、操ちゃん上位にランキングされているの、ご存知ですか?」

「何それ…。」

「どちらかというと、クールなイメージですのよ、操ちゃんは。ところが今日、新たな可愛らしい面を、公衆に曝してしまった。明日からのラブレターが楽しみですわ。」

「燃やしちまえ、そんな物。」

「あら、小次郎様もただ事じゃ無くなると思いますわ。」

「どういう事だ?」

「明日から、舞い込むファンレターの量、楽しみですわね!」

「ぐっ!」

「ところで、優勝賞品ってコレか?」

大和先輩が、包みをガサカザと開ける。

「それは…!」

中には、目覚まし時計が入っており、『優勝した貴方には、素晴らしい目覚めをプレゼントします。』と書いてあった。

「なんだ、目覚まし時計か。」

「あら、これ録音機能付きですわね。」

そう言って、珠ちゃんがボタンを押す。

「あ…駄目…。」

音楽が鳴り、メッセージが聞こえる。

『ダーリン、おはよう。まだ、起きないの?オ寝坊さんね。私のキスで、起こしてあげるわ。チュッ。まだ、駄目なの?じゃあ、私も一緒にお布団に入って、あ・げ・る♪』

「…。」

「…。」

「…これ、操ちゃんの声ですわよね?」

「やめてぇ。」

私は、耳を塞いでしゃがみ込む。

「こんな企画、よく通りましたね。」

「満場一致だったのよ!トップシークレットで扱ってたの…。」

「良かったですわね…これが流出しなくて…。」

「ね、消しましょ?録音解除の機能も付いてるはず…。」

「…駄目だ。折角の優勝賞品だからな。」

「たが明日から、この悩ましい声で起きるのか?朝から刺激強すぎるぜ!」

そうだ、先輩と大和先輩は、同室…恥ずかしい。

「そろそろお化粧、落としましょうか?」

「あぁ、頼む。」

「じゃあ、私達は、何処か散策にでも行きますか?大和先輩。」

「そうだな。」

そう言って、2人は出て行く。

髪を解き、化粧を落とし、着替えると、何時もの先輩が戻って来た。

姿見の前に座らせ、髪にブラシを掛ける。

「お前が、優勝にムキになっていた理由が、あれだったんだな…。」

「あんなの…誰にも聞かせたく無かったんです…。」

「消さないぞ…。」

「意地悪!」

「あんな声も、出せるんだな…。」

「止めて下さいよ…もぅ!」

髪を結い、組み紐を結ぶと、私は時計を見る。

「私、そろそろ仕事に戻らなきゃ。」

先輩が、肩越しに私の手を握る。

「優勝、おめでとう。先輩。」

私は、後ろから先輩の頬にキスをした。



文化祭も終わり、後片付けの為に走り回る私を、

「神崎君!」

と、南先輩が呼び止める。

「お疲れ様でした、南先輩。」

「あぁ、お疲れ様。ちょっといいかい?」

「はい。」

「鷹栖は、喜んでいた?例のアレ。」

「…。」

「あの後、鷹栖と話す機会があってね。」

「えっ?」

「僕が、君を救って見せると言ったら、彼『奪えるものなら、奪ってみるがいい!アイツは俺の女だ!』って、自信たっぷりに言うんだよ。」

私は、顔に火がついた。

「それに、今日のキスだ。君は、恥ずかしがったが、嫌がってはいなかった。」

「…済みません。」

「いいよ、君の気持ちはわかったから。」

「あの…先輩は何も弁解しませんが、ストーカーとかDVとか、そんな事絶対にありませんから!」

「わかった。」

「本当に、済みません。」

謝る私の頬にそっと手を添えて、

「彼は、幸せ者だよ。」

そう言って、南先輩は私の前から去って行った。






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