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雪華遼遠  作者: Shellie May
10/18

10月(1)

10月末の文化祭が近付いて、学校内は何となく慌ただしい。

私は、文化祭の実行委員として走り回っていた。

「神崎君!」

文化祭の資料を運ぶ私を、呼び止める声がする。

「南先輩。」

「大変そうだね、僕が持とう。生徒会室でいいのかな?」

「はい、ありがとうございます。」

資料を私の手から奪う。

南先輩は、以前剣道部でお世話になった。

今は、文化祭実行委員長をされている。

「神崎君とは、ゆっくり話も出来ずにいたからね。気になっていたんだよ。」

「ありがとうございます。」

「その後、手の調子はどうなんだい?」

「左手は、駄目ですね。小指と薬指の麻痺が取れません。」

「勿体ないね…いい腕だったのに。」

「もう、諦めましたから。」

「そうか。」

生徒会室の鍵を開けていると、大和先輩が通りかかる。

「よぅ、寮官さん。忙しそうだな。」

「大和先輩。」

「大和、久し振りだな。」

「おぅ。」

「あれ、お二人共、お知り合いなんですか?」

「そうだよ。大和とは、去年クラスメートだったからね。」

「そうなんだ。」

じゃあ、先輩とも一緒だったのかな?

「寮官さん、仕事もう終わりか?図書室行くんだろ?」

「えぇ、もう終わりです。」

「じゃあ、一緒に行こう。」

「あ…はい。」

珍しい、大和先輩が図書室?

同じ事を思ったのか、南先輩も聞く。

「お前が図書室とは、珍しいな。」

「図書室に行く目的は、本を読むばかりじゃ無いんでな。行くぞ、寮官さん。」

「は、はい。南先輩、ありがとうございました。」

私は、半ば引きずられる様に、生徒会室を後にした。

「大和先輩、南先輩と仲悪いんですか?」

「いや、別に…。」

「大和先輩にしては、珍しく棘があったの、思い過ごし?」

「寮官さん。」

「はい?」

「南と、あまり2人きりで会わない方がいい。」

「どうして?それに、此処暫くは難しいと思いますよ。南先輩、実行委員長だし。」

「小次郎には、南の事言わない方がいい。」

「どうして?仲悪いんですか?」

「まぁな。」

「どうしよう…もう、言っちゃってますょ、私…。」

図書室のドアを開けると、珠ちゃんが迎えてくれる。

「お疲れ様、操ちゃん。お茶如何?」

「ありがとう。喉カラカラ。」

「お待ちかねですわよ。」

何時もの席で寝ている、ポニーテール。

その髪には、あの日以来ずっと、淡い藤色の組み紐が結ばれている。

「先輩方も、お茶に致します?」

「おぅ。貰おう!」

「小次郎様?」

「…。」

「爆睡中?」

「拗ねてんだよ。起こしてやってくれ、寮官さん。」

私は、先輩の隣の席に座り呼びかける。

「先輩?」

「…遅い。」

私が実行委員になってから、先輩の機嫌が悪い。

帰る時間も遅くなったりして、一緒に過ごす時間が少なくなったのが原因だと思う。多分…。

「お茶、入りましたよ。」

机にうつ伏せたまま、目だけ私を見上げると、皆に見えない様に私の手を握った。

「行きましょう。」

「あぁ。」

大和先輩と珠ちゃんの待つ、準備室に向かう。

たわいも無い雑談の後、大和先輩が言った。

「小次郎、今年お前のクラス、出し物なんだ?」

「劇だとょ。」

「出るんですの?先輩!」

「いや、出ない。」

「俺、聞いたぞ。お前、今年もミスコンだってな。」

「うるせぇよ。」

「男子校なのに、ミスコンですの?」

「毎年恒例なんだって。仮装してお化粧して、賞品だって出るんだよ。クラスと個人に。」

「こいつ、去年バックレたんだ。優勝候補だったのによ!」

「そうですってね。大丈夫、今年は逃がしません!」

先輩は、驚いた様に私の顔をみる。

「先輩のクラス役員さんに、頼まれたんですよ。先輩のヘヤメイクとコーディネート、私がするの。」

そう言って、満面の笑みを返した。

「なんで…お前…。」

先輩の顔が、凍り付く。

「クラス役員同士で、話がついてるみたいですよ。」

「あぁ、あの2人、お付き合いしていますものね。」

流石は珠ちゃん、情報通。

「という事で先輩、優勝目指して頑張りましょうね!」

「…。」

先輩は、その場に果ててしまった。

「寮官さん、楽しそうだな。」

「だって、先輩をいじめる機会って、そうそう有りませんから!」

「確かに、そうだ!」

笑い声が起こる。



「送って行こう、神崎君。」

「南先輩。」

実行委員の仕事で遅くなったある日、帰ろうとした私は、声を掛けられた。

校内とはいえ、夜道は気持ち悪い。

ましてや、以前襲われた道を夜1人で歩きたく無い。

「ありがとうございます。」

「本当に君には、迷惑を掛けるね。」

「いえ、そんな事…。」

「ガサツな人間ばかりで、細かい事は、君に任せきりだ。」

「楽しいですよ、皆さんとご一緒出来るの…。」

「君は、本当に良い子だね。」

そう言われて、照れてしまう。

「神崎君は…誰か、お付き合いしてる人、居るの?」

「…さぁ、どうでしょう?」

この質問が来た時、私は何時もこう答える。

「鷹栖と付き合ってるという噂があるけど…。」

マズいよね、やっぱり噂になってるんだ…。

「僕が…立候補する余地は、有るだろうか?」

「えっ?」

急な告白に、私は面食らった。

「鷹栖が、君の事をストーカーしているという噂も有るんだ。」

えっ?そんな噂!

「それに彼の暴力で、君がDVを受けているという噂もある!」

むちゃくちゃな…。

南先輩は、話す程に興奮し、私の手を取り熱弁を振るう。

「もし、君が困っているなら、僕なら君を守って上げられる。」

「いえ…私別に…。」

「いいんだ、君の苦しみは良く分かる。彼の様な乱暴者に纏わりつかれ、迷惑しているんだね?」

「だから…」

「僕が守って上げるよ、神崎君!」

そう言って、抱き付いて来る。

南先輩って、思い込み激しいんだ…。

「あの、南先輩…。」

私が言うのと、

「神崎!!」

よく知った声が響くのは、同時だった。

瞬間、南先輩は離れ、私を後ろに庇う。

「鷹栖…。」

「南、好き勝手言ってくれるじゃねぇか。」

「違うと言えるのか!」

「…神崎、帰るぞ!」

私は、先輩に腕を掴まれ、強引に引かれる。

「あ…はい…。」

背中に南先輩の声が響く。

「神崎君!!僕は君の味方だから!!僕なら君を守れる事を、忘れないで!!」



私は、ズンズン進む先輩に必死に着いて行く。

「先輩…痛い…。」

寮官室に入り、事務所を通り抜け、寝室に入ると、先輩はくるりと振り向き私を抱き締める。

「…先輩…。」

「南の野郎、好き勝手言いやがって!」

私は、先輩の背中をさすりながら、

「落ち着いて下さい。」

と言った。

「お前が、実行委員なんかで遅くなるからだ…。」

「そうですね…。」

「お前が、南なんかに送って貰うからだ…。」

「そうですね…。」

「お前が南なんかに、告白されるから…!」

そう言うと、唇を奪われる。

何時になく激しいキス。

先輩は、貪る様に私を求めた。

「…落ち着きました?」

「…。」

ようやく解放された時、先輩はバツが悪そうに、私を抱きしめたまま動かなかった。

「迎えに来てくれたんでしょ?夜道が危ないから…。」

「…あぁ。」

「ありがとう、先輩。」

ハァと息を吐き、私の顔をじっと見る。

「あんな噂、あるんですか?」

「…。」

「ストーカーとかDVとか…。」

「…みたいだな。」

「酷い…否定しないの?」

「言いたい奴には、言わせておくさ。」

「私、嫌です。先輩が悪く言われるの…。」

「!」

「こんなに優しいのに…。」

「…。南の事だが…。」

「?」

「続けるのか?実行委員会。」

「続けますよ。後、一息だし。」

「お前…。」

「仕事は、仕事。最後迄キチンと果たします。」

「…。」

「私の事、信じられませんか?」

「いや…だが、先の事は分からないと、お前は言った。」

「じゃあ、今を信じて…。」

「ミサオ…。」

「恋人なんて縛りが無くても、私の心は先輩の物なんですよ。」



文化祭当日。

私は先輩が逃げ出さない様に、朝からずっと監視している。

といっても、大和先輩や珠ちゃんと一緒に、校内を散策しているだけなんだけど。

昼過ぎ、寮官室には、私達4人と、9組のクラス役員が衣装を持ってやって来ていた。

「…で、衣装は2パターンあるんだけど…鷹栖君、どっちが良いかな?」

消え入りそうな声…先輩、クラスでも怖がられてるんだ。

用意されたのは、ヒラヒラのレースやギャザー満載のゴスロリ服と、赤いサテン生地に金のドラゴンが付き、ものすごいスリットの入ったチャイナドレス。

「好きにしろ。」

「一体、何処から調達して来たんだ?しかも、男サイズじゃないか!」

大和先輩も驚く。

「いや、その筋のルートがありまして…。」

どんなルートだか…。

取り付く島も無い先輩に、クラス役員さんは私に助け船を求める。

「ツンデレのゴスロリと、クールビューティーなチャイナ娘、どっちがいい?」

「小次郎様なら…。」

「俺なら…。」

「クールビューティー!」

大和先輩と珠ちゃんの意見が一致する。

「という事で、チャイナドレスで良いですね、先輩?」

「あぁ。」

「じゃあ、早速準備しましょう!」

バタバタと用意し始める私。

それを傍観する面々。

「…てめぇら!全員出て行きやがれ!」

先輩が爆発し、全員アタフタと退出する。

「あ…先輩、トランクスじゃ無いでしょうね?」

「なっ!」

「駄目ですよ、ブリーフか、無ければ競泳用の水着、着て来てください。スリットからトランクスなんか見えたら、興醒めしちゃう!」

「…わかった。」

暫くして現れた先輩に、チャイナドレスを着せる。

「神崎、後ろ上げてくれ。」

後ろのファスナーを上げながら、服に付いているブラジャーを止める。

「胸の位置、良いですか?」

「苦しい…。」

「我慢して下さい。女性は、毎日苦しい思いしてるんです。」

「なぁ、やけに張り切ってないか?」

「優勝狙ってますから!」

「それは、わからねぇぞ。」

「優勝して貰わなきゃ困るんです!」

「?」

私はヘヤアレンジに取り掛かる。

組み紐とゴムを外し、カーラーで前髪を巻く。

後ろは下ろして、左右に三つ編みを巻いて大きな渦巻きを作り上げた。

もみ上げには、適度な量の髪を下ろす。

「痛く有りません?」

「いや…上手いもんだな。」

先輩は感心する。




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