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冒険姫リーベ 〜英雄の娘はみんなの希望になるために戦う道を駆け抜ける!〜  作者: 丘引みみず
第1章 英雄の娘、冒険に出る

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019 魔法の基礎訓練


東門を出たそこではヴァールとフロイデが木剣を打ち合わせていた。


 両者の体格差は圧倒的で、まさに大人と子供だ。しかしフロイデはそれを感じさせないほど果敢に喰らい付いていて、その勇敢な姿にリーベは目を奪われた。


「くっ!」


 上段からの振り下ろしに押され、彼は苦悶する。


「お前はチビなんだから力でやり合うな!」

「――っ! チビじゃ、ない……!」


 叱咤(しった)の声に呼応するように、相手の剣を左側面へ流し、その隙に肉薄。左腕を相手の腕に絡めて剣を封じ、右手に保持した長剣を喉笛へ突きつける。


「ふう……ふう…………!」

「そうだ。それでいい」


ヴァールの声を最後に戦いは――いや、組み討ちは終わり、2人は険を取り払い、剣を下ろした。


 弟子がだくだくと汗を流す一方、師匠は微かに汗を滲ませているだけだった。グローブの甲で狭い額を拭うと、小さな目をリーベに向けてくる。


「よう。ちゃんと買えたみてえだな」 


 陽気な言葉と共にクマのような大きな手を軽く上げた。


「うん、見て見て!」


 リーベは駆け寄ると肩に回したベルトに難儀しつつもスタッフを取出し、見せつける。


「なんだ、お前にしちゃ、随分地味じゃねえか」


(おじさんたらすぐ意地悪言うんだから!)


「違うよ! これは(いぶ)し銀なんだから!」

「だはは! 物は言いようだな!」


 大口を開けて笑うから唾が飛ぶ。リーベは咄嗟にスタッフを掲げて逃したものの、代わりに顔を汚す羽目になった。


「ぬう……」

「ふふ、気に入って貰えたようで嬉しい限りです」


 リーベが顔を拭う傍らでフェアが微笑むと、ヴァールは苦笑した。


「たく、オモチャじゃねえんだぞ?」

「わかってるよ!」


 反論していると、むっつりと口を閉ざしていたフロイデと目が合う。

 もの言いたげに見えたがしかし、ぷいっと目を背けられてしまう。


「?」


 首を傾げる彼女を他所に、師匠2人は話を進める。


「魔法の訓練をするには手狭ですし、あそこへ行きましょう」

「おっそうだな。行くぞフロイデ」

「……うん」


 2人が歩き出す中、リーベはフェアに尋ねる。


「行くって、どこにですか?」

「それは着いてからのお楽しみです。それより、私たちも参りましょうか」

「あ、はい!」


 テルドルの東門から延びる街道は緩やかに傾斜していて、北東の平地を目指してゆったりと大きな弧を描いている。故にその道程は酷く単調で、おまけに景観にも変化がないのだから、リーベが途方もないという感想を抱いてしまうのも致し方ないことだろう。


「うへえ……どこまで、行くん、ですか……?」


 坂を下るのにも存外体力を使うもので、厚着に武装していることもあり、彼女はすぐに疲れだした。


「もうそろそろです――と、ここです」


 街道の脇に大きな広場が現われた。外周は木の柵で囲われている他、鳴子が施されている。

手前には小屋があり、奥の方には金属製の的が4つ立てられている。


 この光景に彼女は以前、冒険者の客が『練習場が――』という話をしていたのを思い出す。


「こ、ここが練習場、ですか……? ふう……」

「そうです。街の近くで魔法の練習をするのは危ないからと、冒険者ギルドが作ったんですよ」

「へえ……でも、その割には人がいないですね」


 率直に問い掛けると彼は苦笑した。


「ええ。街にいるときくらい、ゆっくりしたいという方が多いんですよ」

「なるほど……」


 痛いほどに共感していると、フェアは言う。


「では、少し休憩したら訓練に入りましょうか」

「わかりました」


 適当なところに腰を下ろし、一息つく。すると遠くで剣士2人が木剣を振るっているのが目に付いた。


 リーベらがスタッフを選んでいる時から剣を振っていたにも関わらず、その動作にはキレがあった。さすが冒険者だとリーベは感心させられたが、同時に、自分もあれくらいの体力を付けなければいけないのだと思い知らされる。遠大極まる目標に溜め息が零れるも、やる気が損なわれることは無かった。






 10分ほどの休憩を終えると、リーベは早速指導が始まった。


「冒険者における魔法使いの役割とは、なんだと思いますか?」

「ええと……魔物を倒すことです」

「いいえ。違います」


 意外な言葉を耳にした途端、自然と疑問が口に上った。


「だって、おっきい炎を出したり、氷を打つけたり出来るんですから、その方が早いんじゃないんですか?」


 思うままに言うと彼は満足そうに笑んだ。


「そう思うでしょう。しかし実際は違うんです」


 例えば、と手で器を作った。


「ここにお金が山ほどあるとします。これはリーベさんの自由に使えるお金です。このお金をあなたはどうしますか?」

「ええと……服を買ったり、美味しい物を食べたり――じゃなくて! 貯金します!」

「それは何故です?」

「使ったらなくなっちゃうから……本当に必要な時に困るからです」

「では、お金を魔力だと思ってください」


 その言葉を聞いたとき、リーベは自身の魔力量『361』を思い浮かべた。


「魔力は魔法として、火を起こしたり、水を生み出したり、はたまた害敵を倒したりと、無限の使い道があります。さて、あなたはこれをどうしますか?」

「温存します」


 お金の例もあった為、自然とその言葉が口に上った。


「そうです。魔法はその多様さ故に、その有無が命に直結するんです」

「なるほど……魔物を楽に倒そうとして魔力を減らしちゃったら、本当に必要な時に困っちゃいますもんね?」

「そのとおり。リーベさんも段々と分かってきましたね?」

「えへへ……」


 フェアは微笑むと続ける。


「魔法使いにおいて最も重要なのは、効率良く戦うことです。そのために必要なのは、剣士との連携です」


 彼は練習場の隅へ顔を向ける。


 視線を追うと、そこには相変わらず木剣を打ち合わせる2人の姿があった。


「剣士は魔物と戦い、魔法使いを護る。そして魔法使いは剣士を支える。これが最も効率的な戦い方です。それを実現するために私たちが培うべき素養は3つ」


 向き直ると、彼は手を翳し、人差し指を立てた。


「1つ目は制御技術。これがなくては始まりません」


中指を。


「2つ目は判断力。どんな状況で、どんな支援が必要か。それを迅速に、適切に見分けなければなりません」


 薬指を。


「そして3つ目。絆です」

「……きずな?」


 唐突に出てきた抽象的な言葉にリーベは戸惑うも、フェアは至って真面目だった。


「剣士の性格や技量、癖といったものを深く理解すること。これができなくては魔法使いの役割は果たせません」


最後の一言が彼の矜持(きょうじ)に火を点けたのか、彼の弁舌は一層熱心なものとなっていく。


(ひるがえ)って、如何に技術に優れようとも、知性に溢れていようとも。仲間と絆を紡げなければ優れた魔法使いとは言えません」


 フェアらしからぬ力強い主張だった。それだけに彼の主張は真実みを帯び、真実を超えた真理としてリーベの胸に深く刻まれるのだった。


「……絆」


 呟くと、彼ははにかんで言う。


「話が脱線しましたね。先に挙げた内、今のリーベさんが身に着けるべきは制御技術です。シェーンさんから魔法を教わっていると聞きますが、冒険者に求められるのはより高度なものです」

「うう……難しそう」

「心配には及びません。料理に活用できているということは、基礎ができているということですから」

「だと良いんですけど……」


 彼女が不安がる一方、彼は空を見上げていた。目線を追った先では太陽が南中しようとしていた。


「時間はたっぷりあります。それに明日も明後日もあるのですから。焦らず、着実に修得していきましょう」


 優しい言葉にリーベは励まされ、不安はそのまま、やる気となった。


「はい!」



 魔法使いの役割と当座の目的を理解したところで本格的な指導が始まった。


「杖の選定の時に体験したように、スタッフは仕手の魔力に敏感です。なのでまずは魔力を抑える訓練をしなければなりません。スタッフを出してください」

「はい」


 リーベはスタッフの柄を握り絞めると武器屋で暴発しかけたのを思い出し、微かに恐怖した。それを見かねてフェアが微笑む。


「失敗してもカバーしますので、どうぞご安心ください」

「は、はい……」


 頼もしいが、それでもやはり怖いもので。リーベは柄を握る手に力を込めた。


「それでは早速、訓練に移りましょう。スタッフにゆっくりと、ほんの少しずつ魔力を籠めてください」

「は、はい……むむむ!」


 魔力をゆっくり籠めたつもりが、思いのほか珠が煌めいてしまい、慌てて引っ込める。


「ふう……難しいです……」

「反復あるのみです。さあ、もう一度」

「はい……!」


 それから何十回か繰り返して、ようやくゆっくりと魔力を籠める事に成功した。


「で、できた!」


 淡い輝きに目を灼かれつつ感動を零すと、フェアさんが次なる指示を飛ばす。


「今度は減らしていってください」

「やってみます!」


 魔力を籠めるのに成功していたからか、はたまた魔力を弱める方が簡単だったのかは彼女には分かり兼ねるが、何れにせよ、師匠の指示を無事にこなせたのだった。


「ふう……できました」


 額を拭いながらフェアの方を見ると、彼は「重畳(ちょうじょう)です」と微笑んだ。


「これをあと10回やったら一度、休憩を挟みましょう」


 先の1回でコツが掴めたようで、苦労しつつも成功を重ねられた。


 この調子で感覚を焼き付けたいところだったが、休憩を挟まねばならない。リーベはそれが口惜しく思いつつも休息を始め。すると彼女は自分が自分で思っている以上に疲労していたことに気付く。肩に重くのし掛かるそれに喘ぐ。


「うう……なんか気怠い気がします」

「魔法を使うと気力を消費してしまいますからね。体もそうですが、何より頭を休めるようにしてください」

「わかりました……はあ」


 頭を空っぽにしようとする仲、ヴァールたちの声が聞こえて来た。


 物を考えないように。目と耳を、受け入れるままにして振り向くと、そこには汗だくになった剣士2人の姿があった。


「よう、そっちは順調か?」

「ええ。元々魔法が扱えるお陰で呑み込みが早いです」

「そうかそうか! そんならまたすぐに冒険に出られるな!」


 満足げに言うと彼女を見ると、ヴァールはその小さな目を丸くする。


「どうした? フロイデみたいにむっつりしやがって」


 彼の隣では当人が不服そうな顔をしていた。


「頭を休めてるの……」

「意識してたら却って疲れるんじゃねえの?」

「……確かに」


リーベが納得するとヴァールは小さく笑い、相棒に呼び掛ける。


「それよか、水入れてくれ」

「……ぼくも」


 そう言って2人はフェアに水筒を、口を開けた状態で差し出す。


 それに対し彼はせっかくのロッドを使うことなく、指先から魔法を――水を生み出した。

 熟練者は杖を必要としないというのはリーベは知っていたが、いざ目の当たりにすると感嘆させられた。


「すごい……」

「リーベさんもいずれは出来るようになりますよ」


(スタッフの扱いにさえ苦戦してるのに、そんな凄いことが出来るようになるのかな?)


 未熟という切実な現状に気圧されるも、『できない』と悲観することはなかった。


 今は出来ずとも、いずれ出来るようになればいいのだ。


 幸いにして、リーベはそれが許される環境にあるのだから。




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