あの人の正体
……かつて、学生だった頃。
俺は、人気の量販店でアルバイトをしていた。
今は建設会社に就職し、現場監督として働いている。
ある冬の日。
担当することになった現場の資料を見た俺は、思わず息をのんだ。
そこには、あの量販店の名前があったのだ。
老朽化のため解体工事が始まるという店を、久しぶりに訪れた。
もうずいぶん前に営業をやめたという量販店は、あらゆるシャッターが閉まり、看板も色あせ…とても同じ店だとは思えなかった。
だがしかし…それでも、俺の胸には、あの頃の喧騒や、従業員たちの声がよみがえった。
……棚の影にいつも立っていた“あの人”の後ろ姿も。
工事初日の朝。
俺は現場を見回っていた。
薄暗い店内の奥、まだ什器が残るフロアの中央。
視線の先に…、見覚えのある背中を見つけた。
……あの人が、静かに立っている。
思わず駆け寄ろうとした、その瞬間。
「そろそろ始めていいっすかねー?」
作業員の声が、響いた。
返事をし、指示を出した後振り返ると…その姿は消えていた。
解体が進む中、俺は何度も同じ場所を見に行った。
だが、あの人の姿を見ることは、二度と…なかった。
やがて店は骨組みだけになり、最後に更地になった。
工事の最終日。
俺は更地の中央に立ち、静かな風の音を聞いた。
……あの人は、まだここにいるのだろうか。
それとも…、どこか人の集まる店舗を探しに、出てしまったのだろうか。
もしかして…、ここに新しい店が建つ日まで、静かに待っているのだろうか。
答えは分からない。
ただ、あの後ろ姿だけは、今も胸の奥に残っている。




