あの人のいない日
とある、量販店。
今日もいつものように、年齢も性別も違う従業員たちは働き始めようとしていた。
だが…、開店準備の時間になっても、あの人の後ろ姿が、見当たらない。
棚の影に静かに立つはずのその姿がないだけなのに、フロアはどこか落ち着かない。
レジ担当の青年がぽつりとつぶやいた。
「今日はいないんだな」
品出しの女性も周囲を見回しながら、小さく笑った。
「なんだか変な感じね」
普段全く話さないのに、いないだけで空気が少し違って感じられるのが、不思議だった。
昼過ぎ、バックヤードで休憩している誰かが言った。
「あの人、休みなのかな」
誰もシフト表で名前を見た覚えはない。
そもそも、あの人の名前を知っている者はいない。
互いに顔を見合わせる従業員たちの間に、妙な静けさが漂う。
夕方、仕事がひと段落した従業員たちがバックヤードに戻って来た時、いつもあの人が整えていた棚が少しだけ乱れていることに気がついた。
慌てて並べ直そうとしたベテランパートに、アルバイトの青年が声をかけた。
「そこ、あの人が整頓してるから…触らない方がいいかも」
ベテランパートは手を止め、呟く。
「あの人、明日は戻ってくるよね?」
その言葉に、誰も答えられなかった。
あの人のいない日は、妙に静かで、少しだけ…心に引っかかる。
明日、またあの後ろ姿が見られるのかどうか、それは誰にも…分からなかった。




