あの人の後ろ姿
とある、量販店。
今日も、年齢も性別も違う従業員たちが、慌ただしく働いている。
開店前、とあるフロアを歩くと、棚の影にひっそりと立つ一人の後ろ姿が目に入ることがある。
誰もが「あの人」と呼ぶが…、名前を知る者はいない。
ある日、レジ担当の青年がふとつぶやいた。
「あの人、いつも同じ時間に同じ場所にいるよな」
すると品出しの女性が首をかしげて言った。
「でも、話してるところ見たことない」
確かに、あの人はいつも静かに棚を見つめていて、声を聞いた者はいないらしい。
噂が広がりはじめ、従業員たちは自然とその後ろ姿に目を向けるようになった。
背筋はまっすぐで、動きはゆっくり。
まるで何かを探しているようにも、何かを待っているようにも見える。
誰かが勇気を出して声をかけようとすると、不思議といつの間にか…姿が消えている。
ある日、閉店後に青年がふと振り返ると、あの人が出口の方へ歩いていくのが見えた。
気まぐれに追いかけてみたところ、エレベーターの角を曲がった先には…誰もいなかった。
ただ、整えられた棚だけが、そこにあった。
そんな事があった翌朝も、従業員たちはいつものように働き始める。
……あの人の後ろ姿は、今日もどこかで見られることだろう。
誰も知らない、物語を抱えたまま。




