あの人の声
とある量販店には、年齢も性別も違う従業員たちが多数働いている。
開店前のフロア。
まだ静けさが残っている、店内。
バックヤードで、誰かの「おはようございます」という声が響く。
その声をきっかけにして、眠そうだった空気が少しだけ動き出す。
ある日、レジ担当の青年が、ふと…つぶやいた。
「あの人の声、なんだか落ち着くんですよね」
彼が指さしたのは、普段は目立つことのない、品出し担当の女性。
確かに、彼女の声は大きくないのに、不思議とよく通る。
染みわたるような、穏やかな声。
心が癒されるような、優しい声。
誰かが困っていると、そっと寄り添うように声をかけるのも印象的だった。
従業員たちは、互いの“声”について、話し始めた。
元気いっぱいのパートさんの声は、忙しい時間帯の励ましになるねと。
新人のぎこちない声が、少しずつ自信を帯びていくのがうれしいと。
ベテラン社員の低い声は、トラブルのときに不思議と安心感を与えてくれると。
スポーツ用品担当のアルバイトさんは、放送の時だけ人気アーティストそっくりの声になると。
店の中には、それぞれの声が織りなす…調和とリズムがあった。
誰かの声が誰かの支えになり、誰かの声が誰かの背中を押す。
そんな小さな連鎖が、慌ただしい日々を少しだけ優しくしてくれる。
……今日も量販店には、さまざまな声が響いている。
それぞれの声が、それぞれの物語を…抱きしめながら。




