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七話

こんにちは。

そろそろ起が終わる辺りでしょうか?

 

 目覚めると知らない天井だった。


 (あれ…?私、なにしてたんだっけ…)


 

 ゆっくりと身を起こすと、少し頭痛がする。


 (うっ…そうか、私、授業中に…)



 先刻の魔力量を測る授業で全力を出し切り、大量に魔力を出すことに慣れていなかった私はそのまま倒れてしまったらしい。


 つまり、ここは学園内の病棟…といったところか。


 白くて清潔そうなベッドに寝かされており、天井からは大きなカーテンが吊るされている。

 誰かがここまで運んで寝かしてくれたのだろうか。


 (にしても…)


 倒れたのに誰も見ててくれないなんて!!(涙)

 

 

 そりゃあ友達一人もいないのだから当たり前かもしれないけれど…トホホ…

 倒れたことよりむしろ、誰も自分の看病をしてくれていないことに泣きそうになる。

 お母さまや侍女の皆に世話を焼いてもらえていたのって、贅沢だったんだな…


 これって、もう立っていいのかしら。

 時間を確認するともう授業後のようだ。


 ベッドから起き上がり扉に手をかける。

 授業が終わっているならばこんな所よりも、寮の自室に帰ってゆっくり眠りたい。



 そう思い扉を開けた途端、ちょうど向こうから部屋に入ろうとしていた人影とぶつかりそうになる。

 

 「へぁあっ!?」


 目の前に突然現れた人影に、というよりも、その予想外の人物に驚き、情けない声が出る。


 「ちょうどいいタイミングだ。サンベルジュ」


 白い羽のような髪。

 薄い薄氷色の瞳。

 一文字に結ばれていた唇は…いつもとは違って、楽し気に吊り上がっていた。



 セ、セリウス・アルメルト様…!!



 「な、なぜここに…!?」


 「理由なら今から分かる。ついてこい。」


 ふふふ、と笑いながらセリウス様が行先も伝えぬままどこかへと歩き去る。




 …正直、初めて見る機嫌のよさそうな顔に、戸惑いが隠せない。


 ついていく…しかないよね。

 早く行かないと、見失ってしまう。


 いや、ついていくしかない、などと言っているのは己についた嘘だ。

 普段の彼の様子を知っている人の中で、誰がこの好奇心を抑えられようか。


 今から何が起こるのかワクワクしてしまう。

 先ほどまで気を失っていたことも忘れて、私は急ぎ足でセリウス様の後を追った。



 「すごい…ここは?」


 「僕の研究室だ。入学を条件に作らせた。」


 セリウス様についてやってきたのは天井がステンドグラスになった小さな研究室だった。

 棚という棚には用途の想像すらつかない魔導器具が立ち並び、天井まで魔導書が詰められている。

 淡く光を放つ金属片や、宙に浮く球体。そのどれもが神秘的で、魔法のすばらしさを視覚的に訴えてくる。


 「すべて、セリウス様の物なのですか?」


 「当たり前だろう。僕のために作らせたのに、僕以外に所有権があってどうする。」


 そりゃそうか、と納得しつつも、多少なりの横暴さにハハハ…と呆れてしまう。

 

 「えっと…それで、どうして私をここへ?」


 「まぁ目的くらいは話しておくべきだな。”実験”のために。」


 じ、実験っ……!?

 って、何の…………!?!?


 耳慣れない少しばかり物騒な言葉に少々体が強張る。


 そんなこちらの様子は気にもせず、セリウス様は大きな一人掛けソファに腰かけ、もったいぶるかのようにこちらを見上げ直す。


 「僕の今の研究は『魔力死点』について。魔術師の限界が知りたいのさ。」



 「僕が今まで生きてきた中で、魔力量が多く枯渇しにくいのにも関わらず、自分で魔力死点にたどり着いたバカは二人だ。

 一人目ははもちろん君。サンベルジュ。

 先ほどの授業で見せてもらったバカの才能を、この天才的な僕が有効活用するために拾ってやったというわけだ。」


 これは…うん、全く褒められていない。

 もしかしたら褒めてもらったのかも、とポジティブに考えようとしたが、さすがに無理がある。


 「そして栄えある二人目にも今日、初の実験参加の許可を得てきた!」


 …今日まで培ってきた寡黙で無口なセリウス・アルメルトのイメージがどんどん瓦解していく。

 あまりに誇らしげな顔を前にすると、大興奮の五代貴族を前に呆れてしまって大した反応のできない私の方がおかしいかのようだ。


 ……今日、授業で彼に陶酔した表情を見せていた女生徒たちは、この姿の彼にどのような言葉をかけるのだろうか…


 「先ほど直に約束を取り付けてきたから、もうじき来るはずだ。」


 あー、セリウス様って、声を掛けたら来てくれるご友人が居たんだ…

 いや、五大貴族なら声を書ければ誰だってついてくるか……



 ハッ


 ……ダメだ…!!なんかすごく失礼なこと考えてしまう…!

 魔力死点を一度超えた影響か、疲労が出て余計な考えばかり浮かぶ。


 私の周りだけ空気が淀んできた。

 そんな考えが浮かび始めた頃に、扉からコンコン、と音が聞こえた。


 「来たか!入ってくれ。」


 そう言ってセリウス様が客人を迎え入れる。

 セリウス様のご友人、想像もつかないな…

 

 そんな風に考えていると、扉の向こうにいるらしい客人が声を上げる。

 

 「君は…!突然言伝だけ残して去るのはやめないか!

 こちらとしても予定があるんだぞ!」


 …?やけに親しげな様子だな…?

 座っている状態では、セリウス様の背中でお相手の姿を確認できない。

 セリウス様相手にそんな態度をとれるなんて、よほどのご友人か、それとも_…


 「あぁ、小言は後にしてくれ。今日はどうしても君を外せなかった。」


 「もしかしてまた君の”趣味”に付き合わせるつもりか…!?

 君が今までで一番大事な用だと言っていたから無理を言って騎士の訓練を抜けてきたんだぞ…!?」


 「うるさいな。先客がいるんだぞ。

 そんな風に人を責めるのは君らしくないとは思わないか?レオン。」


 レオン…レオンって……!!


 「先客……?」


 「~~~~~~!!??」


 レオン・ヴァルストリア様~~~~~~!?!?!?!?!

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