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六話

こんにちは。

今回は前半が全て、設定の話です。

物語だけでいい人は、*まで飛ばして見てね。

 「本日の授業は自身の中に秘めている魔力量をどれだけ発現できるかの授業になります。

 今までの授業ではコントロールに重きを置き、少ない魔力でいかに威力を増幅させるかを工夫していましたが、今回の授業では自分の中に秘めている魔力をなるべくたくさん出力することを目標としています。」


 魔力量…体内に保有する魔力の量は生まれながらに決まっていて、その総量は死ぬまで変わらないことが一般的だ。

 魔法の扱いが得意でも、魔力量だけを見れば平民とあまり変わらない、という国家魔術師も少なくはない。

 それでも戦闘力が桁違いなのは、魔力のコントロールや回復スピードを訓練で鍛えているからだ。 


 魔力量が多いに越したことはないが、魔力のコントロールが上手ければ無駄な消費を抑えて、少ない魔力で強力な一撃を放つことができる。

 それに、魔力の総量が少なくとも、回復スピードがそれを上回っていれば常に全力の一撃を放てるということ。

 

 それ故にこういった教育機関では魔力のコントロールを中心に訓練し、優秀な魔術師を一人でも多く排出することを目標としているのだ。


 「今日まで魔力コントロールの練習をしてきたので、入学前よりも格段に全力を出せるようになっているはずですよ。

 それに、皆さんの制服についている魔石のブローチは、魔力の回復スピードを格段に上げてくれるものです。


 本来魔力量が0になると人間にとっても非常に危険な状態となりますが、そのブローチを身に着けていれば、まずデッドラインを超えてしまうことはありません。」


 魔術師同士の戦いでは『魔力死点』というポイントをいかに超えないように調節するかということが重要とされている。


 『魔力死点』とは言ってしまえば魔力量が0になってしまうことで、それによって魔力のコントロール・回復が困難な状態に陥る。

 その状態になればもちろん戦いを続けることは不可能で、運が悪いと死に至ることもある。

 その『魔力死点』を超えて死んでしまうことを、魔術師の間では『デッドラインを超える』と呼ぶのだ。


 (この制服についたブローチに、そんな効果があったなんて)


 戦場でもしも戦うことがあれば、己の限界を知っていることが重要だ。

 己の限界を見極められず、無理な特攻で無惨にも命を落としてしまう…先の戦争ではそんな悲しい出来事が多かったらしい。

 教育の場で己の限界を知り、戦術を極める。


 (さすがこの国一番の高等教育機関ね…)


 戦争なんて百年以上この国では起きていないが、この高等な教育を受けた国家魔導軍を抱えているという事実が、この国の平和を支えているのかもしれない。



 「それでは実際に、魔導器具を使って魔力を最大限に出力してみましょう!」


 いくつかのグループに別れて生徒が魔導器具に魔力を注ぎ始める。


 「この魔導器具は瞬間的な魔力の発動量に応じて光を放ちます。

 このガラス球になっている部分全体が光るくらい出せたら、大抵の高等魔術の出力はできると考えて良いでしょう。」


 「…っ!これ、魔力を吸い取られる…!」


 「はぁ〜〜っ、代わるよ、これ、すごく疲れる」


 今までの授業で汗一つ見せなかったクラスメイト達が、器具を前に倒れ込んでいる。


 「これは発動者の最大限の魔力量を試すために、強制的にリミットを解放させようとする動きを見せます。

 普通に魔法を使うよりもすごく疲れるから、あまり無理はしなくていいですよ。」


 ひ、ひぇ〜…あんなに優秀なクラスメイト達でも、ガラス球全体が光っている人は数えるほどしかいない。

 もし、光らせることもできなかったらどうしよう…


 そんな悪い考えが浮かんだと同時に、おおっ…!と感嘆の声が上がる


 「セリウス様…!素晴らしいですわ…!」


 声がした方を見ると、大勢の生徒がセリウス様と発動する魔導器具を囲っていた。

 多くの人でセリウス様の手元は見えないが、魔力が有り余るように器具が光り輝いているようで、その周囲一帯に薄い影を作るほどである。


 「器具全体だけでなく、周囲まで照らしてしまうなんて。さすがのお力です!」


 「セリウス様がいれば次代のアルメルト家も安泰ですわね…!」


 一見するとお世辞にも聞こえる賛美の言葉だが、女生徒達の表情から見るに、あれは恋慕の感情だろう。

 熱っぽい視線が彼を取り巻き、返事のない彼のその佇まいにさえ陶酔している。


 一定時間大きな輝きを放つと、器具はゆっくりと光を落としていった。


 「さすが、アルメルト家のご子息。すごい魔力コントロールですね。最大出力の状態を保つというのはかなり難しいことです。」


 すごい…同い年とは思えない…

 やはりセリウス様が天才魔術師と呼ばれることに納得させられる。

 セリウス様を普段よく言わない派閥の人々も、こればかりは息を呑んで見守っている。


 「皆さんには普段無意識のリミッターがかけられていて、本来の魔力量全てを一度に出力できる人は多くありません。

 皆さんは1年生ですから、焦らず自分のペースで、高等魔術の訓練が始まるまでに全力を出すイメージを培えれば大丈夫ですよ。」


 本来の魔力を全て放出…

 そういえば、いつも魔法を使う時は怖くて、変な所へ暴発しないようにと考えることが精一杯だった。


 「ふぅっ…サンベルジュ嬢、あなたの番ですよ」


 「あ、ありがとう…」


 制限はない。

 全力を出すイメージで、力を込める…!


 「……ふぅっ…!!!」





 ぎゅっと力を込めたその瞬間、部屋全体に閃光が瞬いた。






 「…!?きゃぁッ!!!」 

 「うわぁっ」




 途端に周囲から悲鳴がこぼれる。

 


 「…!?な、何事ですか?」


 「さ、サンベルジュ嬢が…」




 わ、私…?

 今の閃光は、私がやったの…?


 「サンベルジュ嬢…?」


 「は、はい……」


 確かに、私が力を込めた途端の、出来事だった。




 叱られる…?


 「素晴らしい力です…!こんなに大きな輝き、教師として初めての経験ですわ…!」 


 不穏だった空気から一転、満開の花のような笑顔で教師に詰め寄られた。


 「えぇっ…!?ほ、本当ですか…?」


 「ええ!普段の授業はあまり得意でなさそうだったから心配していたのだけれど、これだけの魔力量があるならついてこられそうね。

 たくさん訓練して、この力を使いこなせるようになりなさい。

 あなたはきっと稀代の魔術師になれますよ。」


 …嬉しい。

 今まで知らなかった。私にそんな魔力量があるなんて。


 嬉しさのせいか、世界が遠く、広く、回って見えて―…


 「あぇ?」


 「サ、サンベルジュ嬢!!」

 


 その声と共に、私の意識は遠のいた。

誤記があったので修正しました(12/22)

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