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四話

四話です。乙女ゲームな展開が続きます。

 「あ、こちらです」


 「…どーも」


 無事天使の君(名前を聞いていないのでそう呼ぶことにする)を教室に送り届けることができたし、この先の不安も晴れたし、今日はいい日かもしれない。


 うーんがんばろうっ!

 人生元気が一番!気合が大事よミレイユ!


 私も教室に入ろう!大事なのは第一印象よ!素敵な笑顔で素敵な友人を必ずゲットするのよ!


 そう決意して、天使の君に続いて教室に入ろうとした瞬間、

 教室になにやらザワついた空気が走る。


 「あ…!セリウス様よ…!」

 「え、あの方が…?」

 「私、一度父の付き添いで魔導研究会に参加されているのを見たことがあるの…。

 …あの美しい銀髪、一度見たら忘れないわ…。」


 「…セリウス・アルメルトね…あいつがいたら俺たちに勝ち目はないだろうな」

 「しっ!聞こえるって…」

 「やべ…」


 え…なに?

 セリウス・アルメルト…?


 アルメルトってあの、五大貴族の第二席、アルメルト家のこと!?

 


 アルメルト家といえば魔導に精通した公爵家で、その一族の魔力量は他の貴族と比べ物にならないくらいだ。

 …噂ではアルメルト一家が集まれば、国の魔術師全ての魔力を集めても及ばないといわれている。

 中でも今代の当主はとてつもない魔術師で、歴代でも1,2を争う実力者らしい。

 その当主が娶った妻もまたその時王国最強の魔女と呼ばれたことのある実力者だった。


 そうして歴代の中でも最高潮の期待の中生まれたのが『セリウス・アルメルト』だ。


 セリウス・アルメルトは生まれた直後、産声と共に高位魔法を発動したともいわれる魔法の大天才で、幼い頃から王宮からやってきた家庭教師の凄腕魔術師達をたった5歳で全員王都へ送り帰したらしい。

 大きすぎた期待をさらに大きすぎる実力で跳ね返した彼は、齢10歳の頃には国を統べる魔術師だと持て囃された。

 そんなセリウス・アルメルトは社交界にはなかなか現れず、噂ばかりが一人歩きしていたため、存在自体が伝説だなんて噂もあったけれど…


 まさか、存在していた挙句、同じクラスなんて…!!


 しかも私、さっきまでその『セリウス・アルメルト』と一緒に仲良く教室まで来てたってこと!?


 事の恐ろしさに全身が脱力する。なんて恐れ知らずな行動だったの、私…。


「皆さん、席について」


 

 ザワついていた教室内が静まり、皆が席へと収まってしまう。

 (しまった、また誰かに話しかけられなかった…)



 プライムクラスの[A1]に配属された私の生活は悲惨なものだった。

 

 まず、私は魔法の扱いがすごく下手だった。


 領地では「恵みの雨だ」なんて喜ばれていた私の得意な水魔法は、ムラがあろうが範囲がずれようが構わない、田舎の広大な畑が相手だったからという事実が最初に判明した。

 授業では得意な系統の魔術で形を作るというもので、周りは五角形、六角形と進み星形などで躓いていたところ、私は丸の次の三角形すら攻略できず、しまいには暴発してびしょ濡れになってしまったところを他の生徒の魔法で乾かしてもらった。


 次に私は勉強が得意ではなかった。


 特に困ったことがなかったので気付かなかったのだが、評価としては”普通についていけていない”というのが最も適しているだろう。

 学んだことがすっぽり頭から抜け落ちてしまうし、何度も同じところを間違えてしまう。


 優秀な生徒が集まる[A1]クラスでこの二つは、交友関係の幅を狭めるのに大いに効果を発揮した。



 そして……

 友達がいないぼっち学園生活を見事に継続中、というわけだ。



 

 (寂しい…!!)


 フェリシア学園に入学して一週間ほど。大した身分もなく、実力もないただの田舎娘である私は、順調に入学時点での不安な将来像を叶えつつあった。


 (どうして私なんかが[A1]クラスに…)


 これならノーブルクラスで、友達と楽しく普通に授業を受けたかった。

 自分の身に余る高等な授業を受けられているのは分かっているが、内容が分からないのであればその価値を存分に活かせているとはいえない。


 このクラスで一人きりなのは私とセリウス様だけだ。

 皆、この学園で高等な教育を受けることは当たり前だが、社交界のつながりを作ることも目標としている。

 対した交友関係もなく一人で過ごしている私は、当初よりもさらに価値が下がっていることだろう。




 それに、今は物好きな人々の中で収まっているが、私が実力もないのに五大貴族に取り入ろうとしている身の程知らずの田舎娘だと揶揄されているような気がする。

 実際はセリウス様とは教室へご案内したあの日以来お話しすることはないし、他の方々にお会いすることもない。


 私が望んで近付いたわけでもないのに、偶然が重なって揶揄されるとは…


 そりゃお近づきに慣れて嬉しかったけれども、学園中を敵に回してまで一言だけでも話したいなんてメンタルは私にない。


 (午後が明けたらまた魔法の授業だ…)


 「サンベルジュ嬢?」


 「え?」


 (同じクラスのご令嬢が…私に話しかけてる!?)


 「な、何?どうしたの?」


 だめだ、嬉しさが抑えられない。変な顔してないかしら。


 「あの、ロザリア家のカイル様がお呼びになっているわ。」


 「え…?」


 そう言われて視線をやった先には、女性生徒に遠巻きに固められた、カイル・ロザリアが立っていた。


 美しい女性たちの中で一人立つ彼は、まるで庭園に咲く花々の中で一際目立って咲く一輪の薔薇のようで、つい見惚れてしまいそうになる。


 「えっと…私になにかご用ですか?」


 「あ…えっと、ちょっと話したいことがあって」


 話したいこと…?入学パーティー以来交流のなかったカイル様から、私に…?

 なんだろう、予想もつかないけど…


 そう思って内容を聞こうとした瞬間、周りの目線に気付く。


 注目を浴びすぎた。


 かぁっと顔が熱くなる。


 ふと、五大貴族に擦り寄る田舎娘、という噂が頭によぎる。

 根も葉もない噂だと思うようにしていたが、実際の自分の姿はどうだろうか。


 カイル様の取り巻きなのか、ただの偶然居合わせたギャラリーなのかは分からないが、一人一人がこの稀有な現象を興味本位で見ている。

 まるで目の前にいる正体不明の私を審査するような視線が己に向けられた無数の槍のようだ。


 (刺されてしまいそう…)

 

 一方的に注目される気持ちって、こんな感じなの?

 この包囲網が完全に閉じる前に、なんとか逃げ出したい。

 


 「あ、あの、話って」


 「あ、君の様子が気になって…その」


 私の様子?私の様子が、気になるとは?

 どういった理由か分からないが私のことを気にかけてくれたという喜びはある。


 ただ、それを凌駕するほど、状況がまずい。


 五大貴族の跡取り息子が、ただの田舎娘の様子が「気になって」?

 周囲の様子がまた変化する。


 完全に見物ショーになったこの状態に耐えられない。


 「あ、あのっ、別の所で話しましょう!!」


 そう言って彼の手を引き、人混みをかき分ける。

 

 遠のく群衆たちの注目が、走り去る私達の背中に集まっているのが嫌というほど分かってしまった。

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