二話
二回目です。
調子よく出せたらよいと思っています。
「本日は魔力量の検査をして、明後日にはそれぞれのクラスで授業を受けていただきます。
クラスは魔力量が高く優秀な者達を集めたプライムクラスと、魔力量は直接関係しない、その人の素質や努力を評価するノーブルクラスがあります。
どちらのクラスでもこの国最高峰の教育が受けられますから、魔力量に自信のない方もご安心ください。」
「そうは言っても、絶対プライムクラスに入りたいよね!」
「うんうん!卒業後の待遇も全然違うって聞いたもの!」
どこかの令嬢たちの話す通り、学園側の説明と実態のクラスには大きな隔たりがある。
優秀な血筋で魔力量も多い都会の貴族たちはどんな手を使ってでも子供をプライムクラスに入れたがる。
対して私のような学園に入学するだけでも精一杯な地方の貴族の子供たちは、その狭き門を実力で潜り抜けなければプライムクラスには入ることができない。
(私も地方では魔法が得意と言われていた方だけど、大して習慣的に使っていたわけでもないし、プライムクラスに入るのは難しいだろうな…)
それに、一流の貴族たちに紛れて授業を受けるのもきっと息が苦しい。
(あぁでもっ!プライムクラスに入って父上や母上にご報告出来たらどんなに良いか!)
こういうところでがっつかなくては貴族社会で生きていけない。
憧れの学園なのだから、私自身も憧れの人になる第一歩目を踏み出すべきだ。
「それと皆さん、明日の夜には入学祝のパーティーがあります。
今在学中のヴァルストリア公爵家、レオン様のご挨拶もありますから、楽しみにしていてくださいね。」
レオン様……五大貴族の第一席を務めるヴァルストリア家の嫡男で、誰にでも優しく美しいとお噂の方だわ。
在学中にもかかわらず騎士団にも在籍しておられるそうだ。
将来有望な彼を、既に王国騎士団がスカウトしているらしい。
直接お顔を見たことはないけれど、明日実際に見ることができるのよね?
(楽しみ…)
それに、生徒同士の交流が盛んになる初めての場でもある。
朝は急いで着席してしまったせいで誰とも話せなかったから、明日が次の正念場だ。
(友達きっとできるよね…)
*
*
*
(って、考えが甘かったーーーーー~~~~~)
一人でいる地方出身っぽそうな令嬢にお声がけしようと思っていたけれど、既にグループができていて話しかける隙が無いっ!
(どうしよう、このままじゃ学園生活を一人で過ごすことになっちゃう)
焦って周りを見渡しても、話しかけられそうな令嬢はいない。
そうして辺りを見回していると途端に照明が落ちる。
「キャッ、何?」
「紳士淑女の皆様、ご入学、おめでとうございます。」
スポットライトに照らされた一人の青年に向けて、いたるところから拍手が向けられる。
この暗闇の中あんな目立つところで一人演説するなんて緊張するだろうに、その青年は一切微動だにせず、むしろ凛々しいそのお姿に見ているこちらが一瞬動揺してしまう。
「皆様、ありがとうございます。私、在校生を代表して祝辞を述べさせていただきます。レオン・ヴァルストリアと申します。」
あぁ、あれが、レオン・ヴァルストリア様…
会場内の全員が目を奪われている理由が分かる。
スポットライトに照らされて輝く髪は金糸のようにゆらめき、はっきりとしたお顔立ちがその金色のベールから覗いている。そのベールから時折見える深い海のような青い目が皆に向けられる度、皆が息を呑んでしまう。
会場全体が彼の発する言葉一つ一つに耳を澄ませ、その声にうっとりと聞き惚れている。
かくいう私もその例外でない。
「…以上です。
それでは、皆様が素敵な学園生活を送れますよう、祝福を捧げます。」
そう言って彼が手を挙げると、会場内の暗闇を突然光が舞いだした。
(これって、星?)
天井からいくつも星が降り注ぎ、何かにあたると、そのあたりをわっと照らして儚く消える。
「すごい…綺麗…」
辺りから静かに感嘆の声が漏れる。
これはきっと王国史にもある、『星夜の祝福』を模しているのだろう。
この国の創始者である御君が魔の物を倒す旅に出た夜、精霊たちは彼の旅路に素晴らしい祝福があることを願って空にいくつもの星を降らせたという。
その祝福を受けた御君は無傷でその旅を終え、国に莫大な利益を持ち帰ったのだ。
その歴史から、この国では門出の日に流星群が見えると必ず成功して戻ってくるというジンクスがある。
(そのジンクスを魔法を使ってこんな風に表すとは、すごい…)
「それでは、この後も存分にパーティーをお楽しみください。」
会場全体から盛大な拍手が巻き起こり、壇上の彼を包み込む。
「レオン様、なんて素晴らしい方なのかしら」
「私、同じ学園に在籍していることを本当に誇りに思いますわ」
(わかる、私もすごく感動した。)
彼と同じ学園で過ごすことができる、そう思うだけで胸が高鳴るのもおかしくない。
生涯でこの経験ができたということにさえ、誰かに自慢したくなる。
そう思わない人はいないんじゃないか、と思わざるを得ない、素敵なパフォーマンスだった。
「もし、そこのご令嬢」
「へ?」
あれれ、また知らない方にお声をかけられてしまった。
なんだか困り顔で言い辛そう。
も、も、もしかして、
このあとのダンスに誘われちゃったりとか!?
「お腰のあたりが…」
「え」
そう指さされたところを見ると、自分のドレスの腰辺りにべっとりとなにかの液体が染みついてしまっていた。
「~~!?!?!」
「失礼、女性にお声がけするのも無礼かと思いましたが、気付いていないようでしたので…」
「~~~あっ、ありがとうございます!!!」
は、、、っ、恥ずかしい!!!
王宮魔導院の入学パーティーということは『王国の主催する夜会』も同然。
そんな大事な場でドレスを汚してしまうなんて!
(きっと祝福の魔法に気を取られて、暗闇のなかでなにかに当たってしまったんだわ)
私自身は代わりのドレスなんて持ち合わせていないけれど、たしか学園からドレスの貸し出しを行っていたはず。
こんな姿で廊下を歩いているところさえ見られるのが恥ずかしい。
(え~~ん、入学してから毎日学園内を走り回ってるわ!)
あそこを曲がれば控室で、誰かしら学園に仕えている方がいらっしゃるはず。
「ミレイユ!」
「え?」
突然後ろから腕を引っ張られて立ち尽くす
振り返るとすぐに目に入ったのは、あの美しい赤髪。
「カイル様…?」
どうしてここに?
「…うわ!」
「へ!?」
呆然と立ち尽くしていた私の背後から、またもや驚いた声が上がる。
「、…何をしているんだ、カイル…」
振り返るとまたそこには黒髪の美しい青年が立っていた。
「あ、や、ごめんリシュア、彼女に用事があったんだ。それで呼び止めたんだけど」
え?え?頭が追い付かない。
突然カイル様に呼び止められたと思ったら、後ろからまた美しい青年が出てきた??
「こんな曲がり角の近くで話す必要もないだろう。危うくぶつかるところだった。
…そちらのご令嬢は?」
「あ、こちらはミレイユ嬢。サンベルジュ家のご令嬢だそうだ。
ミレイユ嬢、彼はリシュア。え~~、と、まぁ、従妹みたいなもんかな。」
リシュア、リシュアってもしかして
「君と僕に血のつながりは無い」
「あ~~そうだけど、ほら、幼い頃からの知り合いじゃない?」
五大貴族のカイル様と幼馴染
親しげな様子
リシュアという名前
もしかして
五大貴族の第四席、リシュア・フェルナー様!?
確かに目の前の彼は外見のお噂とも一致している。
夜空を落としたような美しい黒髪、知性の宿った煌めく銀の瞳。
そのお美しいお顔にそぐわぬ、無機質な表情。
学園に入学されてからはご家業である文官のお勉強もされており、フェルナー家の跡取りとして申し分ない秀才と噂が絶えない。
「君、サンベルジュ嬢、だったね」
「は、はい!!」
「すまない、先ほどぶつかりかけた時に、私の持っていたインクが君のお召し物を汚してしまったかもしれない。」
「え?」
い、いろんなことが起きて忘れてた!私今、五大貴族のお二方にすごくみっともない姿を晒しているわ!
「いっ、いえ、!!これは先ほど会場で自分で汚してしまったのです。」
「あぁ、そうか。とはいえその姿で会場に戻ることも難しいだろう。汚れを取ろう」
「「え!?」」
…なぜかカイル様と声がそろってしまった。
というか、なぜそんなことに!?
「こういった繊細な魔法は得意なんだ。」
そう言ってリシュア様が私のドレスの汚れた部分に手を伸ばし、何かを唱える。
するとみるみるうちに汚れが浮き上がり、ドレスの生地と汚れの液体部分が別たれていく。
「すごい…」
そう私がつぶやいたのもつかの間、汚れていたドレスは一瞬で綺麗な状態に戻ってしまった。
「わぁ…ありがとうございます!」
「すごい…珍しいな、こんなこと」
「そうでもあるまい。」
そう言うリシュア様は、カイル様にすごいと褒められてうれしそう?
ふふ、と笑いそうになる私にリシュア様が向き直る。
「入学式だからとハメを外さないように。 …そこの男のように。以上。」
「え!?リシュア~それはないでしょ~」
行ってしまわれた…
無口な方とお聞きしていたけれど、カイル様と親しげにお話になられる様子、楽しそうだったな…
それに、無関係の私のドレスを直してくださった。
(お噂と違って意外と優しい方なのかも…)
「えっと…それで…」
「あ、…」
「カイル様はどうしてこちらに?」
そう聞くとカイル様は俯いてしまった。
「カイル様?」
「な、何でもないんだ。ただ、君を追いかけてきただけで…」
「へ?」
なんだかすごく照れていらっしゃる…?
美しい青年であることに変わりないが、カイル様はよく見ると愛らしい顔をしていらっしゃる。
そんな美しい顔が赤面していると、なんだかこちらまで照れてしまう。
「あの、カイル様…?」
「なんでもない、パーティーを楽しんで」
「あっ」
どうしてしまわれたんだろう、私を追いかけてきたとおっしゃっていたけど、その用事も分からないままだった…
それに、女性遊びの激しいと噂のカイル様があんな表情をお見せになるなんて…
(カイル様もお噂とは違って実は純粋な方だったり?)
なんて、勝手に想像して勝手に照れてるの、私やばい人かな!?
というか、ドレスの汚れもとれたし、もうここにいる必要もないのでは!?
「戻ろう!」
そうして私は廊下を後にした。




