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十五話

こんにちは。

クリスマス投稿したかったのですが、バトルファクトリーでムーミンに予想外の2タテされてしまい、できませんでした。


 「カイル様…!い、いつから…!!」


 まさかこの修羅場に意中の相手が登場するとは思っていなかったようで、ヘレナの顔はどんどん歪んでいく。


 「いつからもなにも…少なくとも、君が彼女に水をかけたところは見たよ。」


 「それは…!違うのです!私はそんなこと……!」

 

 好きな人に己の愚行を窘められるとは

 こうなってくるともはやグロテスクだろう。


 「別に…君が誰と仲が悪かろうと僕には関係ないが、この子に手を出すのはやめてもらおうか。」


 そう言ってカイル様は私をこの場から連れ出そうとする。


 「お待ちください!!私は…!私は腹いせや嫉妬なんて醜い感情で行動に移したわけではありません!

  その娘は…!良くない噂があります!

  入学初日からずっと、五大貴族の方々に媚を売ったり…!

  禄に社交界にも顔を出していなかったくせに、学園に入って急に近づくなんて、何か裏があるに違いありませんわ!」 


 必死の形相で自身の弁明をする辺り、本気でカイル様の身を案じているのか、はたまた嫌われたくないと思っているのか。


 ただ、入学初日に先に話しかけてきたのはカイル様だし、入学式のパーティーでリシュア様とぶつかったのは偶然。

 クラス案内の前でセリウス様と会った時は、顔を知っている者も少なく、一般生徒も皆、彼の存在に気付いていなかった。

 その後セリウス様の研究室でレオン様にお会いするなんて、誰が予測できるのか。


 「言わないってことは、確証はないんだろう?

  ただのこじつけじゃないか…。」


 カイル様が呆れたようにヘレナに言い返す。


 さすがに五大貴族相手に言い合うようなことはないかと思っていたが、どうやらヘレナの根性は底無しらしい。


 「カイル様はご存知ないだけなのです!

  その娘を庇うなんておかしいです!

  一度でいいから、ヘレナを信じてください…!」


 こんな大衆の前でよく、知らないだけとか、おかしいなんて言えたものだ。

 だが、カイル様はそれを問い詰めている気はないようで、むしろ形勢の悪いヘレナよりも焦っている様子。


 「今は聞いてられない、また、君の意見も聞くから…」


 「なぜそんなことをおっしゃるのですか…!?」


 どうにかその場を離れたいらしいカイル様と、この場を絶対に逃がさんとばかりに引き止めてくるヘレナ。

 私が責め立てられていた時よりむしろ、顔の知れた二人が言い合っている今のほうが注目を浴びている。


 「とにかく離れるべきですわ!

  カイル様になにかがあったら、私…!」


 さらにヘレナの目には涙が浮かび始めた。

 この事態にギャラリーがギャラリーを呼びはじめている。

 かなりまずい、どうにかせねばと口を開きかけたその時。


 「なにをしている。」


 お互いに膠着状態だった私達に、パリッとした精悍な声が響き渡る。


 群衆をかき分けて出てきたのは、周りの生徒よりも頭一つ高い青年だ。

 栗色の短髪に深緑のような緑の瞳。

 私達よりもいくつか年上に見えるこの青年は、社交界に疎い私でも知っている。


 (ジ、ジーク・ハウゼン卿……!)


 五大貴族第五席、ハウゼン家の嫡男で現当主と言っても差し支えない。


 「言えないようなことか?」


 突然現れたハウゼン卿に誰も返答できず、騒がしかった周囲もいつの間にか静かになっている。


 「…こじれていそうだな。場所を変えよう。

  ここにいた者も、当面このことは口外しないように。」


 そう言ってハウゼン卿は、連れていた従者にギャラリー達を捌けさせる。

 当の本人はこちらを量るように一瞥してくる。


 「サンベルジュ嬢…か。


  ロザリア卿、グリムヴァルド嬢とサンベルジュ嬢、二人を連れてついてこい。」


 「…!分かりました…。」 


 返事をしたカイル様の表情は些か不安そうだ。

 無言のまま、3人でハウゼン卿の後をついていくしかなかった。



 案内された部屋はハウゼン卿が学内に持っている執務室のような場所らしく、私達が入室した後、ハウゼン卿の従者が扉に鍵をかけた。


 部屋の中央部分にはデスクがあり、1人掛けのソファにハウゼン卿が腰掛けていて、その前に私達3人が並ばされる。


 「_……それで、公然の場で揉めていた理由を聞かせてもらおうか」


 様子を察するに、ハウゼン卿はこの学園で風紀を乱すものを取り締まっているのだろう。

 グリムヴァルド嬢の黙り方を見ても、想像以上に大事になってしまったという予感がする。


 「…彼女達が揉めていた。水をかけられたようだったから僕が仲裁に入ったが、逆に事を荒立ててしまった。」


 「…ほう、それは本当か?グリムヴァルド嬢」


 ハウゼン卿の問いかけに、ヘレナがビクッと肩を震わせる。


 「……手に、持っていた水を、零してしまっただけですわ。」


 答えるヘレナの声は震えている。

 ハウゼン卿の前でも、白状するつもりはないようだ。


 「…ふん。なるほど。

  まぁ、大きく取り締まる必要もないだろう。

  ここまで連れてきたのも、あの場に居続けることが良くないと判断しただけだ。」


 そう言って視線を落としたハウゼン卿を見て、隣にいるヘレナが少し安堵したように肩を落とす。


 「ただし」


 部屋の空気をハリつかせるような声が響く。


 「今後も同じようなことが何度もあれば、こちらも出方を考える。」


 「…………………!!!」


 そう言って凄むハウゼン卿に、隣のヘレナが体の芯から冷やされたように震える。

 責められている訳でもないのに、隣りにいる私まで足が震えそうだ。


 「もういい。グリムヴァルド嬢を連れて行け。」


 ハウゼン卿の指示を受け、従者の一人が部屋の外へヘレナを連れて行く。


 ヘレナが外へ出たタイミングでハウゼン卿が大きなため息をつく。


 「カイル。お前は学内で痴話喧嘩をするような者ではないと思っていたが?」


 「痴話喧嘩じゃないですよ…ちょっと、やり方を間違えただけだ。」


 先ほどヘレナを問い詰めていた時よりは些か砕けた雰囲気だが、部屋にはまだ緊張感が残っている。


 「まだ女子生徒同士の揉め事程度なら分かるが…お前が渦の中心にいた時は驚いた。」


 「…、僕も、あなたが来た時は驚きましたよ…。」


 二人の会話には、お互いに信頼はあるが、親しさはないように見受けられる。


 「カイル、お前ももういい。注意などしなくても、二度目はないだろう。」


 そう言ってハウゼン卿がカイル様を解放する。

 が、依然解放されない私を見てカイル様が口を開く。


 「…彼女は?」


 「用事がある。先に出ろ。」 


 用事…、私に……、?


 大した交流のない私に、五大貴族であるハウゼン卿から用事があるだろうか。


 位の高い二人が先に解放され、一人だけ残されることに不安を覚える。

 もしかして、先ほどの騒動の責任を全て自分がとることになるのではないか。


 大事ではない。でも、何でもないと流せるようなことではない。

 きっと先程の事象は遅かれ早かれ学内での噂になり、両家の印象に関わってくる問題になるだろう。


 緊張していた体から、ドクドクと心臓の音が聞こえ始める。


 ハウゼン卿の言葉に緊張した私の様子を察してか、カイル様が様子を伺うように異を唱える。


 「彼女は被害者です。責任なら僕がとりますから…」


 そう弁明してくれたカイル様は依然として焦った様子なのに対し、ハウゼン卿はゆったりと構えている。


 「彼女も責めるつもりはない。状況的にも被害者なのは分かっている。

  …話があるだけだ。」


 「…じゃあ、僕も一緒に。」


 そうまでして部屋を出ることを渋るカイル様に、ハウゼン卿が疑うような目で問いかける。


 「なぜそこまで固執する。ここは私の執務室だ。出ていけと言ったら出ていくのが礼儀だろう。」


 若干ピリつき始めた室内の空気感にカイル様が動揺するのが見える。



 「カイル様…大丈夫です」


 私がそう言うと、カイル様がハッとこちらを見る。


 「大丈夫ですから…お先に行ってください。」


 「君が…そう言うなら……。」


 そう言ってカイル様が些か苦しそうな表情を見せ、部屋を出る。


 「さて…ミレイユ・サンベルジュだな。」


 部屋を出るカイル様を見届けて、ハウゼン卿が私に向き直る。


 「…はい。」


 室内に、静かな緊張が張り詰めていた。

やっと五大貴族全員を出すことができました!

更にめでたいことに、始めて週間ランキングに入れたり、日間ランキング100位に入れたりしました!


どれもこれも作品を読んでくださる皆様のおかげです!

皆様には感謝しかございません!

今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

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