十四話
こんにちは
-150度の中、野宿させされるコロニー形成ゲームがあるみたいですね
あれから少し経って、私の生活は変わりつつあった。
前まで静観していたはずのクラスメイト達は、私が五大貴族の方々と親しいと知って、遠巻きに持ち上げるようなことが増えた。
授業で良い功績を残せば、「セリウス・アルメルトを破る期待の星」だと言ってくる者もいるし、逆に「あの実力があるからこそお似合いだ」なんて言う者もいる。
最初は好意的に受け取っていたその言葉も、次第にその真意がセリウス様を貶めようとするものだったり、逆にその権威を利用しようという魂胆であることに気付き、私は近付いてくるクラスメイトを避けざるを得なかった。
待ち望んでいたはずのクラスメイトとの交流を避けなければならなくなった理由はもう一つある。
五大貴族の方々を敬う者の中で、私をよく思わない人々からの嫌がらせが表面化してきた。
以前から影で何かと言われがちではあったが、その人達がいよいよ行動に移してきた、というところだろう。
同じ[A1]クラスに所属するグリムヴァルド家のヘレナ嬢は特に私のことが嫌いなようで、授業で使う魔導器具に細工を仕掛けられたり、すれ違う度にぶつかられたり、といったところだ。
ヘレナ嬢は噂によるとカイル様の熱心なファンだったようで、カイル様から手にキスをされたあの日も居合わせていたらしく、自分よりも贔屓される私のことが許せなくなったようだ。
そんな事もあって人目を避けてもカイル様と会うことが憚られ、むしろ会わないことで事態の収束を測るも、今のところ効果は見られない。
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(正直しんどいな…)
教室にいると、私に嫌がらせをするグリムヴァルド派と、私を色々な理由で持ち上げたい派からの視線が痛く、息が詰まる。
嫌われているだけなら謙遜していればいつか落ち着きそうなものの、変に持ち上げたい派閥がいるせいでなかなか鎮火せず、むしろその勢いは増すようだ。
束の間の休憩として食堂に避難するも、この状況をうっすらと知っている生徒も多く、見物ショーのようになってしまう。
ただ、こうして見物人が多いからこそ、目に見えた嫌がらせもされにくいので、助かってもいるのだが…
「あら?サンベルジュ嬢ではないですこと?」
げっっ
この声は……!
「グリムヴァルド嬢…」
赤みがかった赤茶の髪を2つにまとめ、目はキリッと強気そうな印象。
容姿は完璧な有力貴族の令嬢といった感じで、その実成績も優秀。
家柄も五大貴族の方と交流のある由緒正しい家系だ。
そんな彼女が私に執着することもないのに、と思わなくもないが、本人の気が収まらないとどうしようもない。
「こちらで昼食でしたのね。そそくさと教室から逃げ出されたから、なんのやましいことがあるのでしょうと思っていましたのに。」
ヘレナ嬢がそう言うと、彼女の取り巻きらしい令嬢達がクスクスと笑う。
「お食事、ご自身で作られたの?勤勉ですのね。
そのような習慣は地方特有のものなのかしら?」
そう言って私の食事を指差す。
どうやら寮の自室で昼食を作ってわざわざ持ってきていることを、田舎臭いと馬鹿にしたいらしい。
確かに農地特有の習慣かもしれないが、大して馬鹿にして楽しいようなことなのか?
「…領地は大きな農村でしたので。見苦しかったでしょうか?」
「そんなことおっしゃらないで。農民の生活を見苦しいと私が言ったみたいじゃありませんか。
毎日自分でお料理だなんて、お母様から習うのかしら?」
…!
こうやって自分の言いたいことを、そんなつもりがないと言い回し、言い回し伝えてくるその頭の良さにはむしろ感動する。
お母様を出してくる時点で、家ごと馬鹿にされたのは間違いがない。
要は見苦しいアピールはやめろ、家庭的な技術のアピールなんて貴族のすることではない、お前の家は農民同然だと言いたいのだ。
農民の生活だと言われて苛立つことはないが、仮にも領地をもつ伯爵家である家を馬鹿にされることは許せない。
「…少々なにをおっしゃりたいのか分かりかねます。」
「あら。私はお家でどのような教育を受けていたのか気になっただけですのよ?」
地方貴族だからと家ごとサンドバッグにしても問題ないと思われていることに苛立つ。
確かに名のある家柄ではないが、広大な農地を持つ立派な領地だ。
「人の家の教育に口を出すなんて、失礼なことかと思いますが」
耐えられなくなって口答えした私にムカついたのか、ヘレナ嬢の顔が歪む
「な…っその物言いの方が失礼なのではなくて?」
少々ラインを越えそうな話題をしていたことに自覚があったのか、はたまた言い返してくるとは思わなかったのか、返答の中身がスカスカだ。
「あら、私は指摘をしただけで、グリムヴァルド嬢に恥をかかせようなんて思ってもいません。」
さぁ、今恥をかいているのはお前だぞ、と周りにも聞こえるような声で言ってやる。
いつものヘレナ嬢のやり口でやり返してやると、顔が赤くなってさらに歪んでくる。
今回の結果は私の勝ちと言っていい。
初の反撃で私の勝利。我慢していた分、言い返してやると気分が良い。
勝ちを確信した私はしたり顔で食事を続ける。
そこへ、ジャバッと液体が振り落ちる。
「…はぁっ?!」
「あら、申し訳ありません。手が滑ってしまったようですわ。」
そう言ってヘレナは、手に持っていたグラスの中身を私と私の食事にぶちまけたようだ。
「な、なにをするんですか!!これはどう考えても度を越しているでしょう!!」
「手が滑っただけよ!!黙ってそのままお食べなさい!!」
なんて女なのか。
気に入らないというだけで人に水をぶちまけるか?
沸点の低さに流石に呆れてしまう
揉めている私達を見て周囲がざわつき始める。
このままだと大事になりかねない。
ただ、ここで水をかけられて引いたなんて家名に泥を塗るような気分だ。
そこへ突然、背後から声をかけられる。
「まさかここまでしてるとは思わなかったよ」
耳に馴染む、聞き覚えのある声。
揉め事から庇うように、後ろから腕を回されて、体を後ろへと引き寄せられる。
その人物の登場に、先ほどまで高慢な態度をとっていた女の顔がみるみる青ざめていく。
「カ、カイル様…!!」




