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十二話

こんにちは。

Steamウィンターセール、何を買いましょうかね…。


 (遅くなってしまったな…)


 カイル様とのお茶会が終わってから、なるべく早くと急いでセリウス様の研究室にやってきたが、いつもならもう寮に帰る頃の時間になってしまった。


 もういらっしゃらないかも、そう思いながらとりあえず扉をノックしてみる。


 「入れ」


 ノックに返事が返ってくる

 よかった、まだいらっしゃるようだ。


 ただ、ノックした相手も分からないのにそのまま通すのもいかがなものか。

 五大貴族の方ともあろう方の私室(?)の扉を開けることに抵抗があり、過去に一度扉が開くのを待っていたら、「なんて非効率的なんだ?」と言われてしまったことがある。

 仮にも密室、お部屋に一人きりでいらっしゃるのだから、警戒してもしても足りないと思うのだが、「ノックして返事がなくとも一旦ドアノブを回せ」というお望み(命令)を遂行することにしている。


 そんな小言を思い浮かべていると、レオン様のお世話焼きな部分が私にうつったみたいだ。


 「セリウス様、サンベルジュです」


 セリウス様は部屋に入ろうとこちらに目も向けないことが多かったため、とりあえず自分なりのルールとして、入る時は名乗ることにしている。


 その肝心のセリウス様は…なんだか少し苛立っている様子だ。


 「やっと来たか。今日は来ないのかと思っていたところだ」


 いつもより机上が散らかっており、なんだかやりたいことも溜まっている、という様子。

 

 ひぇ〜〜〜〜っと恐れをなしながら、とりあえず詫びを入れる。


 「遅くなりました…な、なにかあったんですか?」


 「擬似実験がうまくいかない。いつもと違うサンプルで行ったから原因の特定に苦戦している。」


 言葉通り、机の上にはセリウス様が最近熱心になられている実験の跡がある。


 「へぇ~、今日はなにがあって違うサンプルにしたんですか?」


 何気なくそんな質問を投げてしまってから、すぐにそれが馬鹿げた質問だということを理解する。


 「なにがあって…?」


 セリウス様が先ほどよりピリついたのが分かる。

 やらかした!そう思ってからでは遅い。


 「君が来なかったから以外に理由があるか?」




 (きゃ〜〜〜〜〜!!私が原因だ〜〜〜〜〜〜!?)




 「ごごご、ごめんなさい〜っ!!」


 心の中で悲鳴にも近い叫びがあがったのを確認して、とりあえず謝罪をする。

 こんなもんで許してもらえるほどセリウス様は甘くないだろう。

 今日明日くらいは追撃の小言が…と予想していたのだが。


 「…ふん、まぁ来たならそれでいい。」

 

 想像よりもあっさりとした態度で許して貰える。

 あれ?本当はご機嫌が良いのかしら?と思ってセリウス様の隣から作業を盗み見る。


 セリウス様の最近熱心になられている実験とは、「魔力生成物の変換実験」だそうだ。

 ロジックは私に理解できていないが、簡単に言えば魔法で作り出した生成物(例えば水とか)を自動で解析し、もう一つの生成物と同じ成分に変換する魔法を研究しているらしい。

 器具を通さずとも魔法として確立できれば…とにかく便利になるらしく、私は基本的にはそのお手伝いといった感じだ。


 「そこの中身、片付けておいてくれないか。

 今回の結果は使わない。」


 「あ、はい。」


 普段は私が魔法で出した水とセリウス様が魔法で出した氷でこの変換実験を行うのだが、今日は魔力石を代用したようだ。

 今日はこの研究室が少し散らかっているのも、普段は私が整頓しているからで、私がいないとダメなのかな?と思ってしまったり。


 そんな邪な考えが浮かんだと同時に、先ほどまでのことを思い出す。


 「…セリウス様は、カイル様とも仲がよろしいのですか?」


 「カイル?まぁ……最近は会っていないが」


 「レオン様よりもまた一つ年が離れてしまいますもんね。」


 セリウス様は私と同じ今年度の入学生。レオン様はその一つ上の前年度入学生。カイル様はそのまた一つ上の前々年度の入学生だ。


 「あいつはパーティーだなんだに出てばかりで幼い頃以来きちんと会話してないな。

 まぁ仲は悪くない。」


 …セリウス様の主観では、数年程度会っていなくても、仲の良さは変わらない、と…。


 「他の方々は?」


 「話すのはレオンくらいだ。他の奴は…会ったことあるくらいか?」


 セリウス様は今の五大貴族のご子息の方々の中でも特に幼い頃から有名だったが、社交界デビューである年になっても中々姿を現さず、そのお姿を実際に見たことがある人も少なかったようだ。

 本人もこの様子なら、隠れて出席していた訳でもなく、本当にそういう場を避けていたのだろう。


 「レオン様とセリウス様が大変親しそうだったので、五大貴族の方は皆さん仲が良いのかと思ってました。」


 「レオンは誰とでも仲良いんじゃないか?同い年にもいるだろ、あのー…」


 「……リシュア様ですか?」


 「そいつだ。」


 仮にも五大貴族のご子息に対して、名前を忘れた挙句、「そいつだ」と言って許されるのはこの学園でセリウス様だけではないだろうか。


 「入学式のパーティーの時も、レオンの補佐として参加してたはずだ。カイルもいたし、今年いなかったのは第五席くらいだろう。」


 「珍しいですね?他の五大貴族の方々のご動向を覚えていらっしゃるなんて」


 参加状況を覚えていらっしゃるより、同じ五大貴族のご子息の名前を思い出せないセリウス様の方が正直イメージ通りだ。


 「挨拶くらいしろと入学早々レオンにやっかまれたからな。」


 そう答えたセリウス様は嫌なことを思い出したような顔をしていて、この前みたいにお説教を食らったのかな?と想像して笑ってしまう。


 「やっぱり仲がよろしいんですね?」


 「そうか?結局露ほども話していないが」


 こういう所で素直に答えてくれるセリウス様を見ると、レオン様が世話を焼きたくなる気持ちも分かってしまう。


 正直、クラスが同じと分かった時は、こんな風に他愛もない話ができるようになるとは思ってもみなかった。


 私はこの時間が素直に楽しいのだ。


 何も話さない時間でさえ、かけがえのない時間のように感じる。


 この時間を共に過ごすようになった初めの頃、気まずい空気になってはいけないと思い、何かと話そうとしていた私に、セリウス様は「話しかけるまで話さなくていい」と言ってきた。

 クラスへ案内した時にも聞いたその言葉は「話しかけてくるな」という意味だとばかり思っていたが、その真意はまさかの「無理して話題を作ろうとしなくていい」ということだったのだ。


 そんなことがあるかと驚いたものだが、「わざわざ話を考えてもらう必要を感じない。」と聞いた時に、セリウス様らしさを感じて笑ってしまった。

 返事が面倒とか、人に興味がないとかもあるかもしれないけれど、この人は相手にご機嫌取りなんてさせないんだ、と思わされたのだ。


 こんな意外な一面を知っているのが、クラスで私だけなのだという事実に、嬉しさを感じないわけがない。


 「祝賀会はどうされるんですか?」


 「ああいうのは嫌いだ。その辺で時間を潰す。」


 祝賀会は絶対参加だ。五大貴族となれば尚の事。

 参加はするけど顔は出さない。

 セリウス様らしいなぁ、と思ってまた、クスっと笑ってしまう。


 私達は研究者と、そのお手伝いで、嬉しいことに、同じクラスメイト。

 もっと欲張ったら、友人と言ってもいい関係ではないだろうか。


 そう、欲張るなら、私たちは友人のはずだ。



 私が感じているこの温かさは、まだ氷を溶かすほどじゃない。

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