十一話
こんにちは。
書き溜めが尽きてます。
世界が早すぎる!
「未来が…分かる?ど、どういうことですか?」
「ごめんごめん、急だったね。
なんていうか、君が次に話す言葉が分かるとか、そういうものじゃない。
これから起きる出来事とか…大まかな内容なら分かる、って感じかな。」
「は、はぁ…」
突拍子がなさ過ぎて、気の抜けた声で返事をしてしまう。
そんな様子の私を見たカイル様が、ぷくーっと膨れてこちらを叱る。
「あー。信じてないな?
じゃあ予言をしてあげよう。」
「えっ
本当なんですか?冗談じゃなくて?」
私の言葉にいたずらな笑みでカイル様が返事する。
「冗談じゃないよ。本気♡」
…本気、かぁ。
絶対に冗談だ。本気な訳がない。
でも、予言や占いなんてものは、聞きたくなるのが人の定めだ。
さぁ、なにがでる?
そう思ってつい、カイル様の口から出てくる言葉に惹き込まれそうになる
「君は___…
僕と会う回数を増やせば幸せになれるでしょう♡」
二人の間につかの間の沈黙が流れる。
(……口説き文句かいっ!)
「か、からかわないでください!!」
「あちゃ。これじゃ信じないか。」
意外、とでも言わんばかりのとぼけた顔でカイル様が言う。
「信じるとかそういう話じゃないですっ」
カイル様と話すのは楽しいけど、時々あるこういったご冗談には悩まされる。
嫌な訳じゃないが、そういった関係でもないのに特別な扱いをされるのは困ってしまう。
「待って。そうだなぁ…」
カイル様が少し考えるような素振りを見せる。
次は何を言うつもりなのか。
騙されまい……と身構えている私に、カイル様の視線が被さる。
「君はこれから大儀な身分と運命を背負うことになる。とか」
さっきまでの甘い空気から、突然の真剣な空気感に一瞬怯んでしまう。
どうかな?と言いたげな表情に咄嗟に言葉が出ない。
「……それは、どういう…」
いつもとカイル様の雰囲気が違うような気がして、それ以上言葉を続けられない。
さっき私にかけられたカイル様の視線が、突き刺さるように感じる。
いや、刺さるというよりは、貫通する、だろうか?
なんと返すべきか測りかねている私にカイル様が続ける。
「…苦しいこともたくさんあるだろうけど、全部僕が守ってあげるよ。」
…
「ど……!
ま、またからかったんですか!?」
「違うよ~いつだって本気!」
緊張していた空気が急にほどけて脱力する。
初めからこのつもりだったのか、となんだか騙されたような気分になって、ぐっとカイル様を睨んでみる。
「なにそれ?かわいい。不満?」
「不満ですっ……!」
そっかそっか、とあしらう様子からして、私をからかって楽しもうという魂胆に違いない。
「君を守るのは僕だから、他の奴らに可愛いところ見せないでよ」
「もうこれ以上からかわないでくださいっ!」
ダメだ、顔が赤くなってる。
そもそも、年頃の男性にこんなことを言われて照れない女性がいるだろうか?
「じゃあ、残りは我慢するから、ちゃんと予言、守ってね。」
そう言ってカイル様が頭をポンポンと撫でてくる。
これが年上の魅力ってやつだろうか?
危うく流されそうになるのを堪えられたので、せめて精一杯の抵抗を見せたい。
「ま、まだカイル様が未来予知できるなんて、信じてませんっ……!」
そう言うとカイル様がきょとんとした顔でこちらを見つめてくる。
そうして途端に笑いだし、また私の頭をふわふわと撫でる。
「はははっ結構思い切ったんだけど!
信じないならそれはそれでいいや。
僕も、君をただ幸せにしたいだけだからさ。」
そう言って笑うカイル様は本当に愛おしいものを見つめるような表情で、理由は分からないが、本心から可愛がってくれているのだと感じ取れる。
「でも、友達が出来るって予言してあげたりしたと思うんだけど……」
カイル様がクククッと笑う
(た、確かに……!!)
なんだかからかわれていると思って「信じてない」なんて言ってしまったけれど、そういえばそんなこともあったのだった。
「えっ!!じゃあホントのホントに未来が分かるんですか!?」
「あー嘘だよ嘘♡ 君のことはなんでも分かっちゃうだけ。」
「は、はぐらかさないでください〜!!」
*
*
*
お茶会をお開きにして帰ろうとする私に、カイル様が声をかけてくる。
「そうだ、再来月の祝賀会についてなんだけど
君のこと、予約してもいい?」
「あぁ、………ってえぇ!?」
祝賀会とは、以前は統治者が定まっていなかったこの国が統一され、1つの大国として成立したことを祝うパーティーで、学園に通う全生徒が参加する。
祝賀会では交流を深めるという目的で男女でダンスを踊ることが一般的だが、その相手は自らの階級と同じ者であることが普通だ。
さらに五大貴族ともなると少しでも交流を得ようと数々の名家の令嬢が押し寄せるはずなので、私のような地方伯爵の娘が踊れる相手では到底ない。
「いいんですか……?」
「もちろん。祝賀会の間はずっと側にいてよ。」
また平然と、突拍子もないことを言う……
「それは流石に……」
そう言ってはにかむ私に「本当だよ?」と言ってくるのさえ、この人が多くの人から好意を寄せられる理由だと直感する。
「絶対に、祝賀会後半のダンスは、君と踊りたい。約束してくれないかな?」
(あ、また真剣な表情)
私はこの人の、時折見せる真剣な表情に適う日がくるのだろうか。
なんだか断れなくて、そのまま頷いてしまう。
「やった。
じゃあ、約束守ってね。」
これも予言だから、と微笑む顔が嬉しそうで、つい絆される。
浮ついた気持ちのまま、温室を後にした。




