クソゲーと女子会
ガンロワのプロと呼ばれる存在では、ほぼ全員が女性アバターを使って暴れ回っている。
少数派とはいえど、男性アバターで戦っている者もいるが、女性アバターの補正には敵わないらしい。
ガンロワでは当たり前に女性アバターを使う人が多いが、ディザリオンではどうだろうか。見た感じ半々に思える。
そんな中で俺は同級生、それも好きな子の前で女性アバターを使っていることがバレそうなこの状況、穴があったら入りたいとはこういう時に使うのだろうか。
「えーと……僕?」
「僕っ娘?」
ギリセーフなのかこれは……
「可愛い!」
モモちゃんは俺を抱きしめてくる。
初対面でこのスキンシップは正常なのだろうか。というか、俺の心臓が保たないからやめて欲しい。
「やめときなモモ、オッサンだったらどうするの?」
「大丈夫だよ!私がオッサンだったらこんな可愛いアバター恥ずかしくて使わないから!」
なんだろう。なんか皮肉を言われてる気がする。
「まぁ確かにそっか」
「じゃあ4人で買い物に行こう!」
すいません、その4人は俺も含まれているのでしょうか。
モモ、ミクの2人はノリノリだが、カルマは俺のことをいつでも殺せるからな、と睨んでくる。
「まず、セリオナちゃんの軍人服をなんとかしよーう!」
「え?僕金ないですよ?」
「いいよ!私が払ってあげるから!せっかくディザリオンで遊んでるのに可愛い服装してないとダメだよ!」
「そうですよ!せっかくですので、うーんとオシャレしましょう!」
「ほえ?」
俺の発言には聞く耳を持たない3人。
着せ替え人形の拷問を受けている。
水路に浮かぶ草舟の如く、流されるままに俺は3人に付いてきた。
「う〜!かっわいい〜〜!」
スボンとかならともかく、俺は今ミニスカートを履かされている。
下を見れば見慣れた男の足は無く、現実世界では考えられないような美脚が伸びていた。
このアバターには似合うだろうが、落ち着かない。
「僕にはこういのは……」
「とってもお似合いです!」
「じゃあ!次はこっちいってみよーう!」
モモとミクは次の俺の服を選びながら、「これも似合いそう!」と次から次へと積み重ねている。
カルマはというと、混ざっているフリしてこちらに敵意むき出しの目線を送ってくる。怖い。
「可愛い系のセリオナちゃんは、やっぱ綺麗系よりも可愛い要素100%の服装が似合うよね〜!」
さっき鏡で見た自分の姿は、間違いなくS級美少女と言えるだろう。
現実世界にいれば、男の視線を100発100中オートエイムで食らうことになりそうだ。自分でも釘付けにされたくらいだ。
ファンタジー風の世界観のくせに、女性が現実世界で楽しめそうな空気感なのは違う気がする。
これがディザリオンでの女子の楽しみ方だとするなら、否定はできないのだが。
「いつもこんな感じなんですか?」
「そうだよ!クエストでお金稼いで、稼いだお金で遊ぶ!現実世界とは違ってお金を気にせずに遊べるからね!」
「な、なるほどです」
「あ!」
モモが指を差しながら声を上げた。
「あそこのカフェのケーキめっちゃ美味しんだよ!」
「他の料理と美味しいですよね!」
これは本当にファンタジー世界なのか?!と、声を出しそうだったが喉の手前で抑えた。
「あ、もうログアウトしなくちゃいけないんだ〜」と言うのもなんだか申し訳ない。
俺は草舟、水路はまだ続いているようだ。
「あの席にしよっか!」
3人に付いて行き、俺は席に着く。
椅子の冷たい感触が伝わり、気付いてしまった。
このスカートの下……下着だ。
「何頼っかな〜」
「じゃあ私はこれにします!」
「うわ〜フルーツモリモリで美味しそうじゃん!」
ゲームごときで、ここまでリアルに細かく再現しなくていいだよ運営さん。
落ち着けない状況に、背筋だけが伸び切って、顔はずっと下を向けている。
俺の全身の神経と五感が、この状況を拒絶する。
「セリオナちゃんはどうする?」
「えーと僕はチョ、チョコケーキにしようかな〜!あはは」
「お〜いいね!」
とりあえず時間を乗り越えるしかない。
時間がすべてを解決してくれるはずだ。
店員NPCがケーキ4つを運んでくる。
それぞれが頼んだケーキがすべて魅力的で、甘い匂いが腹の虫を刺激する。
たがそんなことどうでもいい。早く終われ。
「う〜〜ん!美味し!」
「どんなに食べても太らないのが良いですよね〜!」
「いやそれな!」
モモが神ゲーと言うのはそういうことだったのか。
戦闘狂の俺達からすると異常な楽しみ方にも思えるが、彼女達にとって「コレがあるからやめられない」はこういった要素のことを差すのだろう。
「太らないのはいいけど、味神ってんのはズルすぎじゃね?」
怖い印象だったカルマも餌には弱かったらしい。
確かに、弱みを出せるくらいには美味しいが、腹には溜まらない感覚に微妙に違和感を感じる。
ディザリオン内での食事は、HP、MP、SPの回復ができるらしく、戦闘中に手軽に食べられる物は用意しておくべきだろう。
「はい!お待たせしました〜!こちら大人のお子様ランチでございます!」
「はい!ありがとうございます!」
いくら太らないからとは言え、食べ過ぎなミクさん。
このメニューには、特殊効果が付与されているのだろうか……いや、絶対違うな。
「美味しい〜!」
頬を押さえながらエビフライの美味しさに一発KOされている様子。
それはともかく、この人エビフライを尻尾から食べている。
「え〜!ミク尻尾食べる派なの?!」
「いや、そこじゃないだろモモ」
「え?エビフライの尻尾ってゴキブリの羽と同じ成分らしいけど?」
「てことはゴキブリの羽を食べられるということですか?!」
すごいこと言ってる。
ツッコめそうなのに、ツッコめない最強の返しをしたミクさんに圧倒されるモモとカルマ。
なんて女だ。
読んで頂きありがとうございます!
素で論破をかますミクさん……