クソゲー運営と家族の思い出
両親のことを思い出した。
俺は現場を見ていないからハッキリとは分からない。
脳によるダメージを受けて死亡し、証拠隠滅のため遺体に傷を付けて救急連絡をしたらしい。
病院からの電話では、交通事故だと聞いた。
その事件で死亡したのは3人。
俺の両親と、遺体を乗せてわざと事故を引き起こした運営の捨て駒が1人。
急いで病院に向かったが、生きているはずもなく、永遠に続くと思っていた家族の幸せは一瞬にして消された。
家族3人で過ごせる時間は少なかった。
両親は仕事で夜頃帰ってくる。
深夜に帰ってくることはなかった。たぶん俺が1人で家にいるからだ。
時間は少なかったけれど、両親は仲良かった。帰ってきたら毎日2人でご飯を作っていた。
疲れている2人がご飯を作るのだから、申し訳なさで、俺もキッチンに行くがもちろん何もできない。
皮むきと野菜を言われた通りに切るくらいしかできない。
たまに早く帰ってくる時があるのだが、その時は丁寧に料理を教えてくれた。
当時中学2年生だった俺は、両親が帰ってくるまでに晩ご飯を作っておけば喜ぶだろうな、と健気にネットで勉強した。
練習していて、失敗した分は証拠隠滅のため、花壇の土に植えて有効活用してやった。もちろん花壇の花は栄養過剰摂取で全部枯れたが。
ある日、両親の帰りが異様に遅かった。
9時には帰ってくるはずの両親は、10時を過ぎても帰ってこない。
残業か、ぐらいの気持ちで、俺は野菜炒めとサツマイモの味噌汁を作る。
両親をテレビを見ながら待つが、12時を回っても帰ってこなかった。
電話をしても繋がらない。
お泊り残業会か!とできるだけプラス思考をしていたが、次の日の電話で俺は事の重大さを知った。
吐きそうだった。喉がえづく感覚が永遠と消えない。
それを必死で堪えながら全力で自転車をこいで病院に向かった。
耳が切れそうなくらいの寒風が俺を叩く。
病院に着いた頃には遅かった。
というかどう頑張っても間に合わない。
医者曰く、取引先から会社に帰宅中に事故で死亡したとのこと。
俺はおかしいと思った。
日頃テレビは見ないので、何が面白いか分からない。
そこで、適当に流していたニュースをボヤーッと見ていた。
それによって、3人が即死するくらいの事故をニュースで放映しないのはおかしいのでは?という考えにたどり着いた。
ただ、俺に何かできる力はない。
重い足取りで家に帰ると、一冊のノートを発見した。母の物だ。
見ちゃいけない物かもしれないが、興味本位で開いてしまった。
多くの料理メニューや、節約術が書かれていた。
それを見て、これは俺宛だとすぐに分かった。胸が苦しくなった。
最後のページには俺宛のメッセージ。
『これを見ている頃には私達はたぶんこの世にいません。
まずは、一緒に過ごす時間が少なくてごめんなさい。もっと一緒にいたかっです。
あの仕事を始めてしまった以上、私達は辞めることができなくなってしまいました。いい訳です。
海は私達の仕事に興味を持っていたようだけど、言うことはできません。
私達がいなくなっても困らないように、このノートを作りました。
それでも困ったことがあったらお隣さんや、友達を頼りなさい。
家のローンとお金は気にしなくていいからね。銀行口座の暗証番号は16ページに書いています。
そして最後に、
今から言う3つのことは守ってください。
・整った生活習慣を送ること
・前を向いて進むこと
・私達の敵を探さないこと
天国で待っています。 父、母より』
「ごめん父さん母さん、友達いない」
涙を袖で拭き取りながら呟いた。
3つ目の約束は守れそうにないや。
さっそく、俺は銀行口座から金を下ろし、弁護士の元に向かった。
「君は中学生?ガキがなんのようかな?」
「事故で世間に広まっているものが事件ではないかという相談です」
「君がそう思いたい気持ちはよくわかる。でもね、残念ながらご両親の死は、この世界ではありふれた不幸の一つでしかない。ニュースにもならない。それに、君が持ってきたそのノートだって、ご両親が君を案じて、君の未来を託した希望のメッセージだろう? それを事件の証拠だなんて歪んだ解釈をして、亡くなったご両親の気持ちを踏みにじるようなことをするな。ご両親は君に幸せになってほしかったんだ。敵討ちなんて、そんなくだらないことを望んでなんかいない」
長々と説教された。
俺の親の命には価値がないみたいな言い方だった。
怒りを表に出すことさえできず、俺は胸を押さえながら頷き続けた。
それでも俺は事件だと確信している。
遺書ノートでは『敵を探さないでください』と書いてあったので、それが逆に事件であることを証明している。
その後、高額な探偵依頼をして、両親は『ネクサス・コア』というゲーム会社のディザリオン開発チームに所属していたという情報を手に入れた。
俺はそこで心に決めた。
ディザリオンをぶっ潰す。
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