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013,最近、紅茶、紅茶って言い過ぎでは?

翌日。朝のラグネア邸・キッチン。


ユウト・ラグネアは珍しく真面目な顔で、湯の温度計をにらんでいた。


「よし。適当に……78度。中途半端で、なんかイヤな感じ。いいぞ」


葉の量も目分量。抽出時間もタイマー無し。

カップは、わざとお気に入りじゃないやつ。


「これでもかってくらい“雑”にしてやる」


昨日のクラリスの言葉が頭をよぎる。


「たまには、“人間らしい不出来”を感じてみたいのよ」


「……まったく、めんどくさいお嬢様だな。そこがいいけど」


そんな独り言とともに、ユウトは“わざと失敗作”の紅茶を淹れた。


テラスに運ぶと、クラリスはすでに椅子に腰かけて、例の如く美しい笑みを浮かべていた。


「……今日は、どんな紅茶なのかしら」


「名づけて、“深夜に寝ぼけて抽出しちゃった紅茶~再現版~”だ」


「不安しかないわね」


クラリスがそっとカップを手に取る。


一口。


……沈黙。


(よし、まずいって言ってくれ。これでバランス取れる)


そう思ったユウトの前で、クラリスは――


「……これ、すごくいい香りね」


「……え?」


「苦味も控えめで、まろやか。なんだか、安心する味……」


「ちょっと待って。え? 待って?」


「何をそんなに動揺しているの?」


「だって、これ“失敗作”だぞ!? 温度もタイミングも葉の量も全部“間違えて”るんだぞ!」


「それが、かえって“力の抜けた優しさ”になってるのよ。……普段の紅茶は完璧すぎて緊張するけど、今日は……ふふ。なんだか、あなたそのものみたいで」


クラリスはにっこり笑った。


「“雑な優しさ”も、あなたの魅力ね」


「…………解せぬ」


「なにか言った?」


「いや、もうこれ、“雑にやっても完璧”ってことになってない……?」


クラリスはそっと頷いた。


「ユウト・ラグネアの失敗作は、常人の成功作を超える。――それは、ある意味で最も厄介な才能ね」


「いやそれ、俺の努力をどう評価すればいいの?」


「心配しないで。私はちゃんと見てるわよ。“怠けながらも天才”なあなたを」


「それ、ほめてんのか……?」


そんな曖昧な会話の中――


テラスには、穏やかで少しだけ甘い、失敗作の香りが広がっていた。




その日の午後。

テラスにはまだ、ユウトの“失敗作のはずだった紅茶”の香りがふわりと残っていた。


クラリスが席を立ち、静けさが戻った頃。

ユウトがカップを片づけようとしていたその瞬間――


「――あ゛っ、それ飲み終わってませんよね!? ちょっと! 待った待ったッ!!」


まるで風のように、キッチンから一人の少女が駆け込んできた。


「……フェリア。落ち着け。なんかこぼれたぞ」


「いいんですっ、それより、その紅茶!! さっきクラリス様が“今までで一番落ち着く味”って言ってたやつですよね!? 飲ませてください! いや、飲みます!」


「いや、それ……わざと“雑”に作った失敗作なんだけど……?」


「は!? この香りで!? 待って、嘘でしょ!? じゃあ私、今まで何を目指して……!? ちょっと失礼します!!」


――ぐいっ


「……あーもう。勝手に飲むなって言っても無駄だよな」


「………………」


数秒の静寂。


フェリアは、カップを置いた。目を閉じて、ぐっと唇を噛む。


「…………」


「……なんだよ、まずかった?」


「――弟子にしてください」


「またかよ」


「前のは冗談でした。でも今回は本気です! この紅茶……これを、“狙って失敗する”ってどうやってやったんですか!?」


「いや、だからそれ“狙ってない”んだって」


「じゃあどうやったら“偶然を再現できる才能”が身に付くんですか!? ねえ、ねえユウトさん!! 私、あなたの背中が今、ちょっとだけ神に見えてる!!」


「やめろ、背中がかゆい」


「この“ゆるさと計算の同居”……もはや魔法です! これが“天才型怠惰”の紅茶技術……!」


「その言い方やめてくれないかな。なんか強キャラみたいで落ち着かない」


「クラリス様、飲んでましたよね? 笑ってましたよね? あれ、最高の“成果”ですってことじゃないですか!!」


「……あの人、“本音隠すのが下手”になってきてるからな……」


「つまりあなたが“クラリス様を本気で笑わせた”という歴史的事実がここに!!」


フェリアは机をばんばん叩きながら、目を輝かせて叫ぶ。


「これはもう、弟子志願……いや、“紅茶騎士団ラグネア派”創設です!! 初代副団長に私が就任します!!」


「……なんで勝手に団体できてんの?」


「団長、命令を! 次の紅茶テーマを与えてください!!」


「うるさい、団長は昼寝するんだよ」


「やっぱり団長って言ったァーッ!!」


──こうして、フェリアによる「弟子志願2回目」は、

ややヒステリックに、しかし全力の熱意とともに爆発的に幕を上げたのだった。


 


クラリス(遠くの窓辺から):

「……あら、また始まったのね。まったく……本当に、放っておけない人だわ」

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