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アバウト・ザ・大富豪 ~貧乏男、金が全ての世界に転移しました~  作者: 生姜十兵衛
第1章 大富豪の屋敷
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9.宿屋でケモミミと一休み

今回もぎこちない文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。

 少々埃っぽいロビーのような一室で、サチは人の苦労も知らず居眠りをしていた猫耳女の耳を掴んだ。

「にゃ゛っ?!」

「起きろ、鍵取って来たぞ」

「もう、耳掴まないでよ敏感にゃんだから…って」


「本当に取って来れたの? 凄いじゃにゃいか!」

「大変だったけどな。はい、あと時計も」


よっぽど嬉しかったのか。アデラはサチから鍵と時計を受け取りながら、長い尻尾を左右に忙しなく動かした。


「そういえば、なんの鍵なんだ?」

「これはぼくの父が経営していた質屋の鍵にゃんだ。4年前に自殺しちゃってさ。理由は分からにゃい。でも答えは絶対にあそこにあると思っていたんだよ」

「なんでアデラのお父さんの店の鍵があの屋敷に?」

「この町の決まりにゃんだ。年間で300万カルノ以上の収益を得ていた店は、持ち主が死んで継ぐ人間が居にゃい場合、無条件でエヴァレット家に引き渡される」

「あんたは継げなかったのか」

「そこにゃんだよ。代々営んできた家業だったし子供はぼくしかいにゃかった。経営もそこそこうまく行っていたはずにゃのに、遺書に書いてあったのは店をエヴァレットに献上するということだけだった」


アデラの表情に一瞬の(かげ)りが見える。


「ずっと解せなかったけど、今日君のおかげで分かるんだ。本当に感謝しているよ。外の方でにゃかまの馬車を待たせてあるから、急ごう!」

「ああ」


2人は見つからないように階段を下りて屋敷の裏の森に出た。


  ◇


アデラがサチには聞こえない指笛を吹く。すると茂みから褐色肌のデカい獣人が出てきた。犬か狼だろうか。

「警笛隊員のウォルツだよ。狼の獣人」

狼だった。


「遅えぞ、アデラ。鍵と男は回収できたんだろうな」

「この通りだよ。もうじき領主様が戻られるから、急げる?」

「ならさっさと乗りな」


茂みを抜けた先には森の小道が伸びていた。サチとアデラが荷台に乗り込むと、ウォルツと呼ばれた獣人は馬車を走らせた。


「この兄ちゃんはお前んとこの宿に連れて行けばいいんだよな。お前はどうする? 質屋まで送ろうか」

「いや、今日はもう寝る。質屋は明日で良いよ」

「そうか」


2人の短い会話が終わっても馬車は暫く走り続けた。小道を抜けた頃にはもう空が暗くなっていたが、町の家々に灯る明かりのおかげか、むしろ夕方よりも眩しく感じた。


「着いたぞ」

「ありがとうウォルツ。おやすみ」

「おう」


馬車が止まったのは、小さな宿の前だった。アデラがサチに降りるよう促す。


「ここはぼくがいつも寝泊りしている宿にゃんだけど、今日一晩はぼくの部屋で過ごしてもらう」

「それって大丈夫なのか? すぐバレそうだが」

「ここのご主人は目が見えにゃいから大丈夫だよ。ラブカ様が捜索用の兵を呼んでも、着くのは明日の夜だろうから、今夜は安全だと思ってくれて良いよ」

「分かった」


  ◇


中に入ると、宿の主人と思わしき男性が奥に座っていた。その前を通って階段から2階へと上がる。アデラが部屋のドアを開けると、小さな部屋の隅に一人用のベッドと机が置いてあった。簡素だがしっかり整えられている。


「適当に座って。お腹は空いてる?」

「いや、あんまり」

「じゃあ水だけでも飲んどきにゃよ、はい」

「ありがとう」


アデラに渡されたコップ一杯の水を、サチは一気に飲み干した。


「随分疲れているね」

「しょうがないだろ。変な絵に話しかけられるし、炎男に襲われるし。そのときの火傷だって…あれ?」


そう言いながら自分の首を触ってサチは違和感を覚えた。痛くない。


「火傷?」

「いや、首を掴まれて頬まで行ったはずなんだが」

「ちょっと見せて」


アデラはサチをベッドに座らせて、彼の首を後ろから確認した。息遣いも分かるような圧倒的な近距離だ。


「うーん、それいつの話?」

「さっき鍵を取りに行ったときのはずだが…近いな」

「そうでもにゃくない? ていうか火傷の話だけどさ。確かにそれっぽい痕はあるけど、目立つ傷は見つからにゃいよ?」

「ええ、おかしいな」

「あそこに回復魔法でも仕込まれていたのかもね。もしくは君の例の性質のおかげじゃにゃいかな」

「そうか。まあ、治ってるなら良かった」

「良くにゃいよ。顔もにゃんだか赤いし目も死んでるし。今日はもう寝た方がいいんじゃにゃい?」

「どっちも余計だよ。でも確かにもう寝たいな」

「ぼくもそうするよ」

「うん」


サチは上着を脱いでベッドに横になった。目を瞑ろうとしたそのとき、サチの息が詰まり掛ける。


「どうしたの?」

「なんで隣にーー」


アデラも隣で眠ろうとしていたのだ。同じ()()()()()()()のベッドで。


「君はいちいちうるさいにゃあ…しょうがないだろ。部屋はここしかにゃいんだから」

「じ、じゃあ俺床で寝るよ」

「良いよ別に。ぼく軽いし問題にゃいから」


(こっちはあるんだよ!)


声に出しそうなのを慌てて堪える。


「俺が性癖隊体調とか言ったら怒ったのに」

「それとこれとは話が別だから! 死ぬかもしれない場所で探し物取って来てくれた人に、床で寝ろにゃんて言えないよ!」

「そうか。そうだな、ごめんごめん」


対するアデラも、「こいつ絶対童貞だよにゃあ」と口に出すのを笑いながら我慢していた。


「良いから早く寝ちゃいにゃよ。君がそんにゃんだと明日のぼくの行動にまで支障が出そうだ」

「す、すまん」

「別に良いよ。おやすみ」

「…おやすみ」


サチは訳もなく高鳴る心臓を無理矢理押さえつけて深呼吸した。少し覗き込むとアデラは、既にすやすやと眠っていた。


ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。次回は明日の20時40分頃に投稿予定なので9文字だけでも読んでいただけると幸いです。

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