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アバウト・ザ・大富豪 ~貧乏男、金が全ての世界に転移しました~  作者: 生姜十兵衛
第1章 大富豪の屋敷
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7.探し物までの道のりは心臓と肩に悪かった

今回もぎこちない文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。

 少々埃っぽいロビーのような一室で、サチとアデラは昇降装置の到着を待っていた。


「開いたら中にあるレバーを下ろして下に降りるんだよ。ぼくはここで待っているから」

「分かった…分かったが一旦休ませてくれ」


機嫌良く鼻歌を歌うアデラに対し、サチの顔には早くも疲労の色が浮かんでいた。その理由は約20分前に遡る。


   ◇


『邪神』の影響から来る馬鹿力のおかげで、サチは案外あっさりと檻を破ることができた。しかし大変なのはそこからだった。


初めは単純に扉から、外もしくは他の部屋に出るものとばかり思っていた彼だったが、実際のところあの檻がぶら下がる空間に正規の出入口など存在しなかった。


「どっから出ればいいんだよ。まさかあの窓じゃないだろうな」

「大正解だよ」

「嘘だろ?!」


アデラは慣れた手つきで檻のてっぺんまで登ると、そこからジャンプして高い位置にある窓に移動した。


「ほら、君もおいでよ」

「無理だよ」

「ええ、そうなの? しょうがにゃいなあ」


彼女はわざとらしく肩をすくめ、サチに向かってロープを伸ばした。


「石が積み重なって壁になっているのが分かるでしょ、そこの隙間を足場にして登るんだ」

「それならなんとか出来そうだ」


サチはロープを掴んで意地で登った。幸い一度も落ちずに済んだが、凝った肩にはかなりきつかった。


 窓から外へ出てからも大変だった。

 

サチが閉じ込められていた建物(名称不明)は、アデラ曰く本館と別館の間に位置するのだが、両者へ繋がるはずの渡り廊下は意図的に崩された跡があった。


「ここざっと3階ぐらいの高さだぞ。どうやって下に降りるんだ」

「降りる必要にゃんて無いよ」


先ほどのロープに鉤爪(かぎづめ)に似た金属をくくりつけて別館の屋根に向かって投げる。くくりつけていない方の端には大きな結び目を作った。


「実はこのロープ、スチールワームが吐く糸で作られているんだ。特別頑丈だからぼくらが2人で乗ってもちぎれにゃいよ」


そう言うとアデラはサチの背中にしがみついた。いとも自然に。その瞬間サチの鼓動がエンジンのごとく加速する。


「どうして止まっているのかにゃ? 早くそこの結び目に乗りにゃよ」

「何で俺の背中に」

「そりゃあ、二人で一気に行った方が効率が良いだろう? ぼくはこう見えてもれっきとした雌だよ。いくらにゃんでも君が背負う側じゃにゃいと」

「そうか、そうだような。うん、すまん、そういうことだよな。まあ分かってはいたが―」

「早くしてくれにゃい? それとも怖い?」


アデラの無意識の煽りにサチは男らしく答えたつもりだったが、若干声が震えてしまった。


「た、ターザンロープみたいな感じだよな。怖くないさ。うん」


サチは深呼吸して結び目に飛び乗り、スリル満点のターザンロープを死ぬかと思うほど楽しんだ。


「もう二度とやりたくねえ」

「無事地下3階まで辿り着くことができたら、次は地上から降りれるだろうね」

「やけに詳しいな」

「そりゃあ毎日のように忍び込んでるからね」

「は?」


  ◇


 その後は渡り廊下の伸びる別館の扉から中に入った。そして今に至る。サチは慣れない運動と死と隣り合わせの移動により体力をかなり削られていた。RPGで言うならばライフは残り2つもないだろう。


「ここは滅多に人が来ないから、少し休憩しても良いよ。でもそんにゃに長くは休んでいられにゃい。ラブカ様は夜の8時に帰ってくるらしいからね。安全を確保するために、少なくとも日没までにはここに戻ってきて欲しい」

「日没か…今は何時だ?」


サチの問いにアデラは懐中時計を取り出して見せた。


「昼の3時。今の時期だと、5時頃には日が沈み始めるだろうね。この時計を貸してあげるよ」

「お前は一緒に行かないのか」

「この先には少し特殊な仕掛けが施してあってね、ぼくは一度失敗したからもう入れないんだ」

「仕掛け?」

「悪いけど詳しく教えることはできにゃい。でも、あまり鍵を探すことだけに集中しすぎないでね」


歯車の音がして扉が開く。アデラはサチの背中を押した。


「日没までだよ。日没までに仕掛けを掻い潜って鍵を取って戻ってくるんだ。ぼくはここで待っているから」

「ああ、分かった」


正直聞きたいことは山ほどあったが、扉が今にも閉まりそうだったので、サチは慌てて中に入った。扉は軋んだ音を立てながら閉まる。


言われたとおり壁掛けの絵の右下にあるレバーを降ろすと、大きな振動が床に走った。それと同時に、壁の絵の中のモノクルをかけた女性が、サチに向かって語りかけ始めた。


「よくぞ来られた、新たな客人よ。君の望む品は何かな?」


女性の瞳とサチの目が合う。サチは叫び出すのを咄嗟に堪えた。


「鍵だ…鍵を取ってくるように頼まれた」

「うむ、質屋の宝箱か。地下3階の準備はできている。降りよ」


再び扉が開く。その先にあるのは長い廊下だった。奥の方に蝋燭の灯りのようなものが見える。


「突き当たりに部屋がある。そこで自分の欲しいものを探してこい。間違えたらワタクシの仲間とともに初めからだよ」


サチは拳を握りしめ、大股で廊下の奥へと進んだ。


今回もここまで読んでくださり本当にありがとうございます。次回は明日の20時40分頃に投稿予定なので7文字だけでも読んでいただけると幸いです。

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