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アバウト・ザ・大富豪 ~貧乏男、金が全ての世界に転移しました~  作者: 生姜十兵衛
第1章 大富豪の屋敷
3/24

3.通りすがりの馬車を襲ったらケモミミの警察に捕まりました

前前話同様拙い文章の上に、少々長くなってしまいましたが読んでいただけると嬉しいです。

 「化け物」と化した石根サチが御者に向かって振りかぶったそのとき、森の方から赤い兵隊服を身にまとった誰かが馬車目掛けて走って来た。


「そこまでにゃ!!」


おかしな喋り方にサチが振り返ると、そこにはいわゆるケモミミをはやした女性が仁王立ちしていた。

「叫び声が聞こえたから急いで飛んできたにゃ! そこの男、御者さんをはにゃせえ!」

語尾から察するに猫の獣人らしい。極端に短い半ズボンの後ろから、こげ茶色のしっぽが見えている。コスプレだろうか。


「誰だよ...」


冷静さを取り戻そうとしていたサチに、また正体不明の苛立ちがつのる。


「ぼくはこの町の警笛隊隊長、アデラ。君、自分がにゃにしてるか分かってんの?」


普段なら怖気づいていたサチだが、今日はどうにも強気になれた。

「お前こそ、自分が何してるのか分かってんのか? こちとら食事中なんだよ!」

サチは自分の足元に転がる大量の金貨を指さした。


「「食事中?」」


彼は自分で言っておいて疑問が湧いた。それと同時にアデラといった警笛隊もオウム返しする。


「わけわかんにゃい…君はお金を食べるの?!」

「知らねえよ、食いたくなったんだよ。なのにこいつが邪魔するから―」


支離滅裂なサチの言葉にアデラは明らかに怒っていた。それを裏付ける証拠として、彼女はサチが喋り終わる前に彼の腹にこぶしを食らわせていた。


「ぐあッ」

「これ以上抵抗するんだったら、領主様に差し出す前に八つ裂きにしちゃうからね!」


そういうとアデラはサチの手首と足首を縄で拘束した。


   ◇


 先ほどまで薄暗かった空は鮮やかな青色に染まりかけていた。襲われた馬車を置き去りに、サチとそれを抱えたケモミミの警笛隊士は、植物が目覚め始めた森の中を物凄い速さで駆け抜けてゆく。今しがた憎まれ口を叩いていたサチだったが、その度にアデラが爪を目に突きつけて脅してくるのでやめた。


「…どこに行くんだ?」

「領主様のところ! 君を裁判してもらわにゃきゃ」

「裁判?!」


 サチは薄々感付いていた。ここは自分が今まで生まれ育ってきた場所ではないということに。この恐ろしく怪力の獣人といい、さっき走っていた馬車といい...まるでよくあるファンタジー小説の世界観とそっくりではないか。テーマパークにしても広すぎるし、第一そんなところで暴力沙汰の問題を起こしたら、コスプレイヤーではなくまず警察がくるはずだ。


 これが世に聞く「異世界」というやつなのだろうか。しかし、そんなことは今どうでも良かった。満たされたい。今の彼の脳の大部分はそれでいっぱいいっぱいなのだ。数分前に麻袋の中の金貨を(何故かは分からないが)数枚飲み込んだものの、今現在も()()()は聞こえてくる。


『欲せよ欲せよ欲せよ欲せよ』


「欲しい…欲しい...欲しい...欲しい」


アデラの小さな「気持ち悪っ」という声にも気付かずに、ぶつぶつ言っているうちに「領主様」なる人の屋敷に着いたらしい。


「ごめんくださーい。犯罪者を連れてきましたにゃ」


アデラがそう言うと、門番らしき強面の男が出て来て帳面を取り出した。

「名前は?」

「ぼく、昨日も一昨日も来たじゃにゃい。いい加減覚えてよ」

「ラブカ様のご命令だ。毎回聞くように言われている」

「はあ…アデレード・ベラスケス」

「職業は?」

「警笛隊…自警団体の隊長だよ」

「住所と出身地」

「ブローディア三丁目の...」


2人の質疑応答に退屈したサチは屋敷を見上げてみた。塀の奥に見える灰色の建物がそうだろう。石造りが空の色と対になって、やけに辛気臭い雰囲気を(かも)し出している。城と言うほどの大きさでもないが、随分ずっしりと構えているように思えた。


「で、その犯罪者とやらの名前は?」

門番がサチをギロリと睨む。

「俺は―」

「そんなのどうでもいいじゃにゃい! 早く領主様に合わせてよ」

「石根サチだ」と名乗ろうとすると、アデラはしびれを切らしたのかそれを遮った。

「それはできない。あのお方の敷地内に入る以上規則は絶対だ」

「じゃあ、ここに領主様を呼んで。早く!」

心なしか彼女の表情が更に猫っぽくなったように見える。感情が高ぶると獣らしくなる仕組みなのだろうか。それにしてもなぜそこまで怒るのかがサチには理解できなかった。


「…分かった。いつも町の治安を守る貴様のことだ。呼んではみるが、来なかったらお引き取り頂こう。良いな?」

そう言いながら門番はかごの中にいた鳩の足に赤い紐を巻き付けた。恐らく領主...ラブカといっただろうか、に来てほしいと知らせる方法なのだろう。

「かまわにゃいよ。こうしてる間にも犯罪者(クズ)どもは湧いてくるんだから」

サチの縄を握る握力が、すっかり強くなっている。眉間にはしわが寄っていた。


   ◇


 5分ほど経った頃に、鳩は足の赤い紐を失くした状態で戻って来た。門番がそれをかごの中に返してやると同時に、重そうな門がひとりでに(ひら)く。すると、いつの間にそこにいたのか。息を呑むほど美しい、黒いドレスを身にまとった赤毛の少女が一人、サチの方を見て微笑していた。

また、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。次回は明日の20時40分頃投稿予定なので、3文字だけでも読んでいただけると幸いです。

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