2.めっちゃ喉が渇いたから通りすがりの馬車を襲ってみた
前話同様拙い文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。
薄暗い部屋の中。窓に止まる灰色のホトトギスを見つめながら、赤毛の少女は鬱陶しそうに口を開いた。
「こんな早朝に何のつもり?」
部屋に置かれた柱時計はちょうど午前5時を指している。
ホトトギスは喋り始める。
『生贄を捧げた…金銭欲の邪神だ。近々お前さんのところに来るだろうね』
「まあ、貴女ともあろうお方が? よほど手こずっていらしたのね」
少女は窓を開けて艶っぽく笑った。
『最近は市場が混乱しているからね。どうしようも無かったんだよ』
「私にどうしろと?」
『奴が満足したらやがて土に還るだろう。私はしばらく東の方に出向かなければいけないんだ。だから暫くの間、神殿から一番近いお前さんが世話をしてやってくれないかい』
「嫌」
『引き受けてくれたら、次の競争には無条件に手を貸そう』
「…」
『2週間だ。それとは別に報酬も払おう、いくらが良いかな?』
「140万」
『決まりだね』
最後に一声鳴くとホトトギスは不規則に羽を動かして、そのまま地面へ落ちて行った。
◇
男の名前を石根サチといった。
「しっ、死ぬ!」
彼は気づくと寂れた神殿の中に座り込んでいた。慌てて服を確認するが、濡れても破れてもいない。ただ掴んだはずの万札は消えていた。
「あれ? 生きてる…良かった」
自分の身体に傷一つないことを確認すると、男は安堵の声を漏らした。
しかしそれも束の間、彼は唐突な体調不良に襲われた。油汗がジワリと浮き出て来て、口の中がひどく乾いた。水がどこかに無いものかと探してみたが、周辺の水瓶は全て割れている。
サチは仕方なく千鳥足で神殿の外まで歩いた。日が低く照っているが、風が吹いていて涼しい。
(水…水が欲しい…)
目を開いているのも億劫になってきたとき、彼は小川を発見した。そこに流れるように駆け込むと両手で水をひとすくい。グビグビと音を立てて飲み干したが、喉の渇きは収まらない。次から次へとサチは水を口に入れたが、その口渇は満足することを知らなかった。
「助かったのにまた死ぬのか…」
しゃがれ声で弱音を吐いていると、どこからか聞き覚えのある音が聞こえてきた。
(金の音だ。あの化け物に飲まれるときに、しきりに鳴っていた金の音だ)
恐怖に再び襲われる。逃げなければ、逃げなければ。そんな意識とは裏腹にサチの両脚は地面を蹴った。
途端、砂埃が空中ヘ舞う。彼には音の出どころが分かっていた。ジャラジャラと擦れ合う大量の金属。そして強くなる錆びの匂い。それらを嗅ぎ分けて、聞き分けて、辿り着いたのは明け方の峠を走る荷馬車だった。
『…せよ』
頭痛と共に身の毛もよだつ低い声が頭の中で囁き始める。
『欲せよ』
『欲せよ欲せよ欲せよ欲せよ欲せよ欲せよ欲せよ欲せよ』
「欲しい...」
その声はサチの人間としての理性を吹っ飛ばした。そして彼の脳内を欲でいっぱいにした。
ただ満たされたい。それだけ考えてサチは馬車の荷台に飛び乗った。急にかかった重力に、馬が大きく悲鳴を上げる。
「うおっ、急にどうしたんだ!」
慌てて馬をなだめようとした御者は、荷台を振り返り驚愕した。
「あ...あ...」
震えながら護身用のナイフを突きつける切っ先には、ギラギラと目を光らせて積まれた麻袋を嚙み千切る人型の化け物の姿があった。
「は、離れろ! そいつ、そいつは俺の金だあっ!」
化け物が裂いた袋の中から大量の金貨が溢れ出す。男の怒鳴り声を気にも留めずに、「化け物」はその金貨を眺めて満面の笑みを浮かべるのだった。
「ああ、クソッ」
御者はパニックになりナイフで化け物の背中を突き刺した。直後「うぅっ」とうめき声が上がる。御者がナイフを抜こうとすると、化け物は立ち上がって彼の腕を爪で貫いた。
「アアアア”!!」
想像を絶する痛みと死への恐怖に御者は絶叫した。そんな彼に情けをかけるわけもなく、化け物は自分の満ちてゆく潮をせき止める男の存在をこの世から消そうとした。
今回もここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。次回も2文字で良いので読んでいただけると幸いです。