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ピイちゃんとの別れが受け入れられないまま月曜日を迎え、さくらはほとんど前を向けず、足元を見ながら土曜日のあの時を何度も頭の中で繰り返し再生していた。
ーーなんであの時ゲージ開けちゃったんだろ。ピイちゃんまで居なくなるなんて…
すると登校時にはあまり会うことのなかった沢田が後ろを歩いていたらしく、声をかけてきた。
「おはよ、どうした朝から?すごい絶望顔。」
「絶望顔ってなに…」
と返しながら、聞いたことない単語に少し笑った。
「受験が不安か?皆そうだよ。」
「んー…違う。」
「そうか?まあ元気出せよ。相川はいつもの面子で教室行くんだろ。じゃ俺先行くわ。」
「うん、じゃ…」
ーーえ?待って。いつもの面子って言った?
すると沢田が学校から3つ手前の角にある自販機前で誰か2人と挨拶して歩いて行った。
ーーうそっ…
それは久しぶりに見る幼馴染の顔だった。さくらは思わず走って2人に駆け寄る。涙を目にいっぱい溜めたまま。
「君華!拓也!」
「さくら…ってえぇ?なんで泣いてんの!」
「どうした?何かあったのか?」
2人の声と体温を近くに感じ、さくらは涙がどんどん溢れて止まらなかった。
「良かったぁあ2人とも!かえってきたぁあ」
「いや、意味わかんないよ、さくら…」
「寝ぼけてんのかな」
2人は訳がわからない様子で、それでもさくらが泣き止むのを静かに待ってあげた。
❄︎❄︎❄︎
2人の存在が消えていた2週間はまるで嘘だったかのように、当然2人はずっと居たかのように日常が回り出した。
それからあっという間に受験の時期が来て、それぞれの志望校に無事合格することができた。
君華は名門女子高校、拓也はサッカー部の強い強豪校へ。ちなみに沢田も拓也と同じ高校らしい。
私は平均よりちょい上の偏差値の高校だ。
あんな事があったのによく受かったものだと自分で自分を褒めたい。
そして中学卒業の日。
あの桜の木は満開で、これでもかと花びらを咲かせていた。
さくらはこれで見納めだなと、1人で足を運んでいた。
ーーピイちゃん…
結局ピイちゃんは戻ってこなかった。思えば出会った時も、さくらに拾われるまで待っていたかのように木の根元に居たのだ。もしかしたら桜の木の精霊か何かだったのだろうか。
そんなことを考えいると突然強い風が吹き、その風音の中で鳴き声を聞いた気がした。
ピイッ!
「っ!ピイちゃん…?」
ザザァ…
しかし桜の花がザワめく音だけで、もう鳴き声は聞こえなかった。
「やっぱりそうなんだね。ありがとう、ピイちゃん。」
また風が吹いて、桜の花弁が風に乗り、桜の肩にとまった。
これにて完結です!
もうずっと昔に作ったお話でしたが、やっと小説として書くことができました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。