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土曜日なので受験生の3年生は誰も学校に来ていない。来ているのは1.2年の部活のある生徒だけだ。
なんだか浮いている気がして、先生に見つかるのも嫌だったので早足で裏庭に急いだ。
ピイちゃんはお出かけ用の小型のゲージに入れてきた。大人しくしているので助かった。
「着いた…」
たった2週間の間に空気は冷え込み、紅葉が進んだ桜の木はとても綺麗だ。
さてどうしたものか。人気はないが、2人を返してと声を出すのは恥ずかしい気もする。いや声に出す必要はない、2人が消えた時も心の叫びだったのだから。さくらは桜の木を見つめて願った。
ーー2人を返してください…!!
するとゲージの中で突然ピイちゃんが激しく騒ぎ始めた。
「ど、どうしたの?…出たいのかな?」
ガチャッと扉を開けてやると、勢いよくゲージから飛び出し桜の木の方へ飛んでいってしまった。
「だめ!ピイちゃん戻って!!」
「ピィーーー!」
そうひと鳴きした後、ピイちゃんの声は聞こえなくなり、姿も見えなくなっていた。
「え?うそでしょ、ピイちゃん!」
ーーおかしい。どこか遠くの空へ逃げたわけじゃない。確かに木の方へ飛んだのに、突然見失うなんて…
さくらは暫く探したがやはり見つけられず、諦めて空になったゲージを持ち上げ、突然の別れに感情が追いつかず、呆然としたまま家に帰った。