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あれから1ヶ月があっという間に過ぎた。
君華も拓也も受験生なので学校にいる時は付き合っているということを忘れるくらいに普通だった。おかげで私もそんなに傷つくことなく過ごせていた。
ただ帰りは辛かった。2人とも帰り道だけが唯一のデート時間のようなもので、私は明らかに邪魔者のはずなのに、こちらが遠慮しても意地でも3人で帰ろうとするのだ。もうほっといて欲しいのが本音なのに。
そんなある日の帰り道、ふと2人のカバンにお揃いのキーホルダーが付いているのを見つけた。
その視線に君華が気付いてわざわざ教えてくれた。
「こないだ塾の帰り道にあるゲーセンでね、拓也が取ってくれたの。」
「いつもは行ってないからな⁈模試の結果か良かったから1回だけやってみたら取れたんだよ。」
「へーーすごいね…」
さくらは声に抑揚をつけるのを忘れて返事をした。なんだろう、ものすごく心が重くてしんどい。この1ヶ月わりと平気に過ごしていたのに。
「じゃあまた明日」
さくらはいつもの角で2人に手を振り別れる。でもその日は何となく2人を振り返ってしまった。見なきゃ良かったのに。見えてしまった。
2人は見つめ合い、照れくさそうに笑い合って、その手はしっかり指を絡めて握り合っていた。
その瞬間、心が一瞬で凍って粉々に割れ落ちていくのを感じた。さくらは走った。家までどうやって帰ったのか覚えていない。自分の部屋のベッドに倒れ込み、顔を埋めたまま泣いた。わんわん泣いた。
ーーなに?なんなのよ!2人とも本当は私の気持ち分かってんじゃないの⁇ わざと一緒に帰ってんの?嫌味な奴ら!!
どんどん黒い闇に覆われていくさくらを鳥籠の中からピイちゃんが心配そうに見つめていた。
❄︎❄︎❄︎
翌日、さくらは昼休みに学校の裏庭にある桜の木のところに来ていた。
今日は朝からずっと辛かった。お揃いのキーホルダー、クラスでこそこそと目線を合わせて笑顔を交わす恋人同士の友人。私はずっと我慢していただけだった。平気なフリをしていただけ。本当は心が潰れそうだったのに。拓也のこと好きだったのに。君華のことだって一番の友達だったのに。どうしてこんなことになったの?
さくらは心の中で叫んだ。
ーーーもういっそのこと2人とも消えればいいのに!!
ザアァ…と所々紅葉してきた桜の木が風に吹かれて枝葉を揺らした。
目を瞑りながら酷いことを祈ったさくらは我に返った。
「なにやってんだか…はぁ…戻ろ…」
そういってクラスに戻ったさくらは違和感を覚えた。
ーーあれ?席替えした?
いつもの場所に2人の席がない。
それに教室の中をぐるりと見渡すも、2人の姿がない。どこかにお昼を食べに行ったのだろうか。
しかしその後、昼休みが終わっても、午後の授業が終わっても2人は姿を見せなかった。やはり席はなく、先生もそれに気づいてないような素振りだ。
ホームルームが終わり皆が帰り支度をしている時についにさくらは前の席の沢田に聞いてみた。
「ねぇ、君華と拓也ってどこに行ったか知らない?席もどこやったんだろ」
すると沢田は何言ってんだ?という顔で聞き返してきた。
「だれ?そいつら。」
「へ?あの、島田君華と小野拓也…って同じクラスだし、拓也とはサッカーも一緒だったでしょ!」
と突っ込みながらフルネームで友人の所在を尋ねたが、返ってきたのは信じられない言葉だった。
「いやまじで誰?聞いたことないわ。」
「え?」
さくらは思考が追いつかずにそのまましばらくその場で固まっていた。