WHITESHAKE
見てしまったのです!
紙のカップにストローをさして
アイスクリームを飲み干すようなこのドリンクが
ぼくは大好きなんだけど
オーダーするのはいつも真っ白なバニラ味
ピンクのストロベリー味や
ブラウンのチョコ味のもあるんだから
たまには色のついたやつにしなよって
ほかのを進めてくれるやつもいるけど
ぼくはそれにしたがう気などまったくしない
見てしまったんだ
みっつの味をひとつずつ注文したぼくらに
用意された紙カップへとそそがれたのは
みっつともおんなじ真っ白で そこに
ストロベリー味にはピンクのシロップ
チョコ味にはブラウンのソースがくわえられたのを
ふたつをかきまぜてやったら みっつのシェイクは
きちんと それぞれちがう色になって
ほかのふたりはピンクとブラウンにそまったやつを
さっきの衝撃の現場を目にしないまま
無知という名の暴力で勝ち取った幸せそうな笑顔で
ストローから すすっていた
ぼくはといえば いまさら
さっき目にした光景を忘れることなんてできずに
シロップやソースが混ぜ込まれる そのまえ
もとはおなじものだったみっつのうち
唯一 もとの色をしたままのバニラ味を
知りたくもなかったこの真相とともに
ゆっくりと なじませながら飲み干すようにして
ストローを噛んでいた
あいつらふたりは
ストロベリー味とチョコ味のシェイクは
カップにそそがれたときから
ピンクとブラウンをしているのだと信じて
それを疑うこともなく生涯を終えるのだろう
できれば ぼくもそんな生きかたがしたかった
そうすれば たまの気まぐれに
ぼくだって
ストロベリー味やチョコ味のシェイクを
オーダーできたかもしれない
だけど シロップやソースが混ぜ込まれるまでは
みっつとも おなじバニラ味だったことを
知ってしまったいまとなっては
もう しらじらしくて
ストロベリー味やチョコ味のなんて
えらぶ気にもなれないや
だからぼくはきょうも
真っ白なバニラ味をオーダーするよ
あの日見た あの光景を忘れないために
ぼくがその事実を知っている証のために
いつものバニラ味のシェイクは
きょうもおいしかった
知らないほうが、幸せでした。