表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/150

第92話 再追放!?

「――あなたたちの、ノルディアスギルドからの追放を()(わた)す!」


 ギルドマスターの声が、静寂(せいじゃく)()()くように(ひび)く。


 窓から()()む夕暮れの光が、部屋(へや)を赤く染めていた。

 華美(かび)装飾(そうしょく)のない石造りの部屋(へや)で、その光は不気味なほどの存在感を放っている。


 ……この場面、どこかで経験したことがあるな。

 前回とは(ちが)う街だけど、状況(じょうきょう)がなんだか似てる。


「ちょっとちょっとー! 追放ってどういうこと!?

 久しぶりに(もど)ってきた凄腕(すごうで)コンビに対してさぁ!」

「そうだそうだ、このメガネ野郎(やろう)! シャルたちのことを知らねぇのか!?」

「ええい、(だま)(だま)れ! 個別面談中ですよ、散りなさい!」


 部屋(へや)の外から茶々を入れてくるギルドメンバーたちが、ギルドマスターによって()(はら)われる。

 (みんな)、元気そうで何よりだ。パッと見たところ、ゴルドーはいないみたいだけど。


「そもそも、その『久しぶり』というのがおかしいんです!

 長期不在、連絡(れんらく)なし。これはギルド規約違反(いはん)第13条に明確に違反(いはん)する行為(こうい)ですよ!」


 机の向こうでそう告げる男性は、(わたし)の知らない顔だった。

 前ここにいたギルドマスターのアルバートとは(ちが)い、まだ30代半ばといった年齢(ねんれい)で、規律を重んじる雰囲気(ふんいき)(ただよ)う。

 黒縁(くろぶち)眼鏡(めがね)(おく)で、神経質そうな目が光っている。


「半年以上の無断不在は、重大な違反(いはん)行為(こうい)。それだけで追放に(あたい)します。ギルドの信用に(かか)わる問題なのですよ!」


 (かれ)の後ろの(かべ)には、ノルディアスギルドの紋章(もんしょう)(かか)げられている。

 石造りの建物の中、その紋章(もんしょう)だけが光を帯びているように見えた。

 外から聞こえる街の喧噪(けんそう)も、この部屋(へや)では遠い音のように感じられる。


「んー、そりゃ確かに連絡(れんらく)はしてなかったけどさー。

 そもそも東方大陸まで行ってたんだよ? そんな遠くからどうやって連絡(れんらく)取れってのさ!」

「規則は規則、です! 例外は認められません!」


 ギルドマスターはメガネを光らせながら机を(たた)く。

 なんだかイライラしているようだ……。机の上の書類が()れ、インク(つぼ)(あや)うく(たお)れそうになる。


「我々は組織として機能しているのです。個人の都合で長期離脱(りだつ)されては、ギルドの運営に支障をきたし――」


 その時、突然(とつぜん)(とびら)が開く音が(ひび)いた。

 重厚(じゅうこう)な木の(とびら)が勢いよく()()けられ、廊下(ろうか)の冷気が部屋(へや)(なが)()んでくる。


「ギルドマスター! 大変です!」


 ()()んできた受付係の女性の声には、明らかな動揺(どうよう)が混じっていた。

 彼女(かのじょ)の手には一通(いっつう)の書簡。封蝋(ふうろう)(あわ)てて()がされた形跡(けいせき)が見える。


「なんですか。落ち着いて報告を」


 ギルドマスターの声が、改めて神経質に放たれる。表情には緊張(きんちょう)()かんでいた。


「北方の、その、ヴァルス村が……消えました」

「消えた? どういうことだ」

「黒い(きり)に包まれ……朝になったら、村が跡形(あとかた)もなく……!」


 受付係の言葉に、ギルドマスターが(まゆ)を寄せる。

 机の上の羽ペンが、(ふる)える手から転がり落ちた。インクが石の(ゆか)()みを作る。


「それだけではありません。(ほか)の村々からも同様の報告が。

 黒い(きり)と共に、村ごと人が消えてしまったと。目撃者(もくげきしゃ)によると、(きり)の中に巨大(きょだい)(かげ)を見たとか」

巨大(きょだい)(かげ)? 具体的に何が……」

「はい。目撃(もくげき)証言では、(きり)の中に城のような(かげ)が見えたそうです。そして、(きり)が晴れると人も村もなく……」

「何それ!? めっちゃ大変じゃない!?」


 シャルが身を乗り出す。その動きに椅子(いす)がきしむ音が(ひび)く。


(……そういえば。前にここの事件を解決したとき……)


 (わたし)は色々ありすぎた記憶(きおく)()(かえ)し、ここノルディアスでの出来事を()(かえ)る。


 (わたし)たちはグラハムのギルドを追放されてからここのギルドに所属し、地下組織「石の密議」の野望を阻止(そし)した。


 組織の目的は、このノルディアスの現体制の破壊(はかい)

 それに加え、石像兵を用いて「外敵」に備え、強いノルディアスに生まれ変わる……とか言っていたはずだ。


 もしかしてこの(さわ)ぎは、その「外敵」……なの?


「くそっ、厄介(やっかい)な事態に……これは、すぐに対応を」


 ギルドマスターが、深く息を()く。

 その声には明らかな疲労(ひろう)が混じっていた。メガネの(おく)の目が、(あせ)りを(かく)せない。


(ほか)近隣(きんりん)ギルドにも協力を要請(ようせい)しましたが、すぐには動けないとのこと。

 この時期、(みな)魔物(まもの)の活発化に対応で手一杯(ていっぱい)で……」

「あの、それなら!」


 シャルが勢いよく立ち上がる。その声には、どこか期待に似た(ひび)きが(ふく)まれていた。


「あたし(たち)に任せてみない?」

「あなたたちに? 今まさに追放しようとしてるのにですか?」

「そうそう! でもほら、あたし(たち)には実績があるでしょ? 石の密議との戦いのこともあるし!」


 シャルの声に、(わたし)も小さく(うなず)く。

 その言葉に、ギルドマスターが(かんが)()素振(そぶ)りを見せた。どこか忌々(いまいま)しげな表情をしている……。


「……そうですね。確かに、あなたたちにはその件での功績がある。それに、ギルドメンバーもやかましいですし」


 (かれ)は一度目を閉じ、ゆっくりと息を()く。


「いいでしょう。今から日没(にちぼつ)までに、初期調査の報告を。それができれば、追放の件は保留としましょう」

「やったー! ありがと! あたしとミュウちゃんに任せとけば万事(ばんじ)解決だよ!」


 シャルが声を上げる。その勢いに、受付係が思わず苦笑(くしょう)する。


「それにしても……」


 ギルドマスターが、不思議そうに(わたし)たちを見る。

 その目には、明らかな疑念が()かんでいる。


「東方大陸から(もど)ってきたばかりだというのに、随分(ずいぶん)と元気ですね。本当に働けるのですか?」

「当然でしょ! ていうかあたし(たち)(つか)れてないしね!」


 その言葉に、ギルドマスターの表情は怪訝(けげん)なものに変わる。そりゃそうだよね……。


 しかし、今の(わたし)のMPは実質的に無限。体力の回復もいくらでもできる。

 あんまり無茶して連続で働かないようにお(たが)い約束はしているけど、体力は基本いつでも満タンだ。


(考えてみたら、ずいぶん遠くまで()たな……)


 ここで改めてギルドの冒険者(ぼうけんしゃ)になり、マトモに依頼(いらい)を受けたりした。

 あの(ころ)はMPも今よりかなり少なくて、全体完全回復魔法(まほう)だけで息切れしたりしてたっけ……。


 ゆっくりかもしれないけど、(わたし)も成長してるんだ。

 当然、それはシャルも。彼女(かのじょ)の姿がいつになく(たの)もしい。


「い……行こう、シャル」


 (わたし)の言葉に、シャルが満面の()みで(うなず)いた。



 ギルドの厩舎(きゅうしゃ)で一頭の馬が(いなな)く。

 純白の毛並みを持つその馬は、ギルドの中でも優秀(ゆうしゅう)な個体だという。


 調査にあたって、ギルドのメンバーが紹介(しょうかい)してくれたのだ。

 冬の毛並みに変わり始めた体は、夕陽(ゆうひ)を受けて(あわ)い金色に(かがや)いていた。


「えっと……ほ、本当に、(わたし)も……?」


 (わたし)は不安げに馬を見上げる。ずいぶん高い位置から、大きな黒い(ひとみ)(わたし)を見下ろしている。

 (くら)まで地面から優に150センチはありそう……つまり、(わたし)の身長と同じか少し高いくらいの位置だ。


「もちろん! 徒歩じゃ色々(おそ)いでしょ? ほら、あたしが後ろで支えてあげるから! この子、白雪って言うんだって」


 シャルは(みが)()げられた(くら)に軽々と(また)がると、(わたし)に手を()()べる。

 装飾(そうしょく)された(あぶみ)が光を反射し、白馬も相まって、その仕草はまるで舞踏会(ぶとうかい)(さそ)うかのように優雅(ゆうが)だった。


(……なんかかっこいい……)

「ミュウちゃん、足を()けて。片足ずつでいいからね。(あぶみ)に乗せたら、あたしの手を(つか)んで」


 シャルの声に(うなが)され、おずおずと馬に近づく。

 白雪は大きな耳を(わたし)に向け、興味深そうに首を(かし)げている。


「ヒヒィィィン!」

「……っ!」


 馬が少し動いただけで、思わず後ずさってしまう。声が大きいし体も大きい! (こわ)い!


大丈夫(だいじょうぶ)大丈夫(だいじょうぶ)! この子、とっても(かしこ)い子なんだよ。ほら、大人(おとな)しいでしょ?」


 シャルが馬の首筋を()でながら言う。

 たしかに、人の言葉が分かるような(かしこ)そうな目をしている。

 長い睫毛(まつげ)の下で、黒目がきらきらと(かがや)いていた。


「まずは左足を(あぶみ)()けて。そう、ゆっくりでいいよ。白雪も待ってくれてるよ」


 シャルの指示に従い、(ふる)える足を(あぶみ)()ける。

 金属が冷たい。(かわ)のにおいと、馬の体臭(たいしゅう)が鼻をくすぐる。


(うぅ……この時点で結構高い……)


 シャルが手を差し出す。その手を(つか)み、体を引き上げる。反対の足を()り上げ――


「……! あっ……あわわ……!」


 バランスを(くず)し、そのまま反対側に転げ落ちそうになる!


「よいしょっと」


 シャルが素早(すばや)(わたし)の体を支える。

 温かな(うで)の中で、(わたし)安堵(あんど)の息を()いた。彼女(かのじょ)の体温が、背中全体に伝わってくる。


 体が引き上げられ、(わたし)はシャルの前で馬に(またが)った。

 (くら)は意外としっかりしていて、(すわ)心地(ごこち)がいい。


「ふふ、ミュウちゃんってば。ついこの前はもっとヤバイのと戦ってたのにねぇ」

「……(ちが)うもん」


 小さく抗議(こうぎ)の声を上げる。戦闘(せんとう)と乗馬はまったく別の話だ。

 それにあれは()(せま)った危険だったし……!


 後ろからシャルの(うで)が回され、(わたし)の体を(やさ)しく(つつ)()む。

 彼女(かのじょ)の胸が背中に当たり安定感が増す。()く息が首筋にかかって少しくすぐったい。


「これで落ちる心配はないよ。あとは白雪を信頼(しんらい)するだけ! ね、白雪?」


 シャルが手綱(たづな)を取り、馬はゆっくりと歩き始める。(ひづめ)の音が木の(ゆか)(たた)く。


 (うまや)を出ると、道行く人々が(わたし)たちを見上げる中、ノルディアスの出入り口に向かっていく。

 うぅ、人目が気になってMPが減る……。


「行くよ!」


 シャルの()(ごえ)と共に、馬が()()した。

 冷たい風が(ほお)()で、(かみ)()れる。

 建物が次々と後ろに流れていき、やがて街の外へと出る。


 舗装(ほそう)された道が土の道へと変わり、馬の(ひづめ)の音も(やわ)らかくなる。

 周りには広大な草原が広がり、遠くには森が見える。

 黄昏時(たそがれどき)の空気は冷たく、白雪の息が白い(けむり)となって(ただよ)う。


 北方へと進むにつれ、空気がより冷たくなっていく。

 グレイシャル帝国(ていこく)の気候をふと思い出す。

 夕暮れの空が徐々(じょじょ)に暗さを増し、遠くで雷鳴(らいめい)のような音が(ひび)いている。


「んー、たしかに村がなくなってる……ていうか、地図に書いてある場所に何もないね」


 シャルは地図を確認(かくにん)しながら馬を器用に走らせる。

 (わたし)の体を支える(うで)(ゆる)めることなく、もう一方の手で手綱(たづな)(あやつ)る。

 白雪は(あるじ)の意図を完璧(かんぺき)に理解しているかのように、安定した足取りで進んでいく。


 音信不通だという村をいくつか見て回るが、やはり跡形(あとかた)もなくなっていた。

 本来なら民家や畑があるはずの場所に、ただ()()が広がっている。


 寒風が()きすさび、シャルの(かみ)(わたし)(ほお)()でる。

 思わず身を縮めると、彼女(かのじょ)(うで)がより強く(わたし)()きしめた。


「寒い? もうちょっとくっついてていいよ。白雪の体温も結構暖かいでしょ?」


 言われてみれば、馬の体から伝わる(ぬく)もりが心地(ここち)よい。

 白雪の呼吸に合わせて体が()れる感覚にも、少しずつ慣れてきた。


「その黒い(きり)ってやつが村を消してるみたいなんだよねぇ。

 となると、その(きり)を探さないと……あ、白雪も気配を感じてるみたい」


 白雪の耳が立ち、首を北に向ける。何かを察知したようだ。


 馬はやや小高い(おか)を登っていく。

 石ころの多い悪路なのに、それを感じさせないほど足取りは(かろ)やか。

 長い(あし)が地面を()(たび)に、確かな力強さを感じる。


「あ! ミュウちゃん、見て!」


 シャルの声に、(わたし)は目を()らす。遠くに、黒い(きり)のようなものが見えた。

 その中に、何か巨大(きょだい)(かげ)()らめいているような……。


「あれが(きり)ってやつかぁ。けっこう不気味だね。白雪も警戒(けいかい)してるよ」


 シャルの言葉通り、ただの(きり)にしては(みょう)雰囲気(ふんいき)を放っている。

 近づくにつれ、尋常(じんじょう)でない寒気が背筋を走る。

 白雪の足取りも慎重(しんちょう)になり、時折不安げな息を()らす。


「……魔力(まりょく)、を感じる。強い、魔力(まりょく)

「そう? ミュウちゃんがそう言うってことは、ただの天候じゃないってことだよね」


 馬の速度が少し落ちる。この子も(きり)警戒(けいかい)しているようだった。

 耳を後ろに(たお)し、全身の筋肉を緊張(きんちょう)させている。


 その時、シャルの(うで)の中で(わたし)の体が(かす)かに(ふる)えた。

 風が強くなり、(きり)の中から低い(うな)(ごえ)のようなものが聞こえる。


「ミュウちゃん? まだ寒い?」

「……ううん。ただ、その……落ちないか、心配で……」

「あはは、そっちなの? 大丈夫(だいじょうぶ)、あたしが絶対(はな)さないから!」


 シャルの明るい声に、少しだけ緊張(きんちょう)が解ける。

 彼女(かのじょ)(うで)の中は温かく、不思議と安心感があった。

 このまま背中に寄りかかっていても、気恥(きは)ずかしさはない。


「……ありがと」


 小さな感謝の言葉に、シャルはにっこりと笑う。

 この距離(きょり)なら――というか、最近はシャルと話すときだけはMPがあまり減らない。

 慣れというより、安心感なのかもしれない。


 (わたし)たちは馬に乗ったまま、ゆっくりと黒い(きり)へ近づいていく。

 白雪の(ひづめ)の音が、不吉(ふきつ)(きり)()()まれていく。

 その中に(ひそ)む「何か」を、これから明らかにしなければならない。


 シャルの(うで)の中で、(わたし)は静かに決意を固めていた。

 彼女(かのじょ)(ぬく)もりと、白雪の確かな足取りを心強く感じながら。

面白い、続きが気になると思ったら、ぜひブックマーク登録、評価をお願いします!

評価は下部の星マークで行えます! ☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ