表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/150

第32話 潜入、魔法科学省!

魔法(まほう)科学省とかいうとこに潜入(せんにゅう)するよ!」


 …………。


「……はっ!?」


 思わず声が出てしまった。ルークも目を丸くしている。

 夕暮(ゆうぐ)れの街の喧噪(けんそう)が遠くに聞こえる中、シャルの声だけが異様(いよう)に大きく(ひび)いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! それは危険(きけん)すぎる。

 魔法(まほう)科学省は厳重(げんじゅう)警備(けいび)されているんだ。簡単(かんたん)に入れるような場所じゃないぞ」


 ルークの声には(あせ)りが混じっている。(かれ)の額に()かぶ(あせ)が、夕日に照らされて光る。


 しかし、シャルの目は(すで)に決意に満ちていた。

 その(ひとみ)には、冒険(ぼうけん)への期待が燃えている。

 ……こうなったシャルを止めても無駄(むだ)だ。まあ、(わたし)は止めたこともないけど。


「だからこそでしょ! アーサーのやつ、絶対(うら)でなんかやってる」

「だから待て。その証拠(しょうこ)根拠(こんきょ)もないだろうに。

 (かれ)はただ熱心に研究し、暴走を抑止(よくし)する装置(そうち)を作っただけかもしれんのだぞ!」

「いーや(ちが)うね! あたしの(かん)がヤツは悪人だと言ってる!

 ミュウちゃんの(かん)もね!」

「!?」


 シャルが急にこちらを向く。

 ルークまでも、こちらを見下ろして「そうなのか!?」みたいな顔をしている。

 いや、あの……。


「い、いや、あの、その……」


 言葉につまる(わたし)の声は、かすれて小さい。


大丈夫(だいじょうぶ)! あたしはミュウちゃんの気持ちはわかってるよ。

 あの(あや)しいオッサンを調べ上げてやろう!」


 シャルの声には自信が満ちていて、その勢いに圧倒(あっとう)される。私はカクカクと(うなず)いた。


「……う、うん」

「無理やり言わせてるじゃないか!」


 ルークの(するど)いツッコミが飛ぶ。

 まぁそうなんだけど、たしかに(わたし)(かれ)(あや)しいと思っている。


 というのも、どうもこの魔法(まほう)暴走によって、王家の威信(いしん)が低下している様子が市民から見て取れた。


 障壁(しょうへき)の暴走で国王が()()められているせいか、現状魔法(まほう)暴走に対処(たいしょ)できているのはあの「魔法(まほう)科学省」とかいうところだけらしい。

 それに(したが)い、国民の信頼(しんらい)は王家から魔法(まほう)科学省に移りつつある。


(……でも、もしそれが最初から魔法(まほう)科学省による仕込(しこ)みだったら?)


 アーサーが魔法(まほう)暴走を引き起こし、王を(しろ)()()め、その間にマッチポンプで暴走を止めて国民の信頼(しんらい)魔法(まほう)科学省に集める。

 そういう陰謀(いんぼう)だったとしたら……?


「ぜーんぶ暴くには、向こうの本拠地(ほんきょち)()()むしかないんだよ!」


 シャルの声が、夕暮(ゆうぐ)れの街に(ひび)(わた)る。

 近くの通行人が()(かえ)るほどの大声だ。やばい計画を大声で(しゃべ)るのはやめようよ!


 ルークは何か言いかけたが、シャルの熱意に()()られてしまったようだ。

 (かれ)は深いため息をつくと、(あきら)めたように言った。


「わかった。だが、(わたし)一緒(いっしょ)に行けない。

 君たちの冒険(ぼうけん)(たん)見届(みとど)けたい思いはあるが……立場というものがあるからね」

「オッケー! じゃあルークは外で見張り役ね!」

「えっ、見張りはさせられるのか!?」


 シャルは勝手に話を進めていく。

 彼女(かのじょ)の声には、もう冒険(ぼうけん)潜入(せんにゅう)への高揚感(こうようかん)()んでいる。


 結局その夜、(わたし)たちは魔法(まほう)科学省への潜入(せんにゅう)を決行することになった。



 (よる)(とばり)()りた(ころ)(わたし)たちは魔法(まほう)科学省の裏手(うらて)(しの)()っていた。

 建物は月明かりに照らされ、不気味な(かげ)を落としている。

 冷たい夜風が(わたし)たちの(ほお)()でる。


 ルークは建物の構造や警備(けいび)システムについて、(おどろ)くほど(くわ)しい情報を教えてくれた。

 どうやってそんな情報を手に入れたのかは(なぞ)だが、とにかく裏手(うらて)若干(じゃっかん)警備(けいび)手薄(てうす)だそうだ。


「よし、ここから侵入(しんにゅう)するよ。ミュウちゃん、準備はいい?」


 (めずら)しく小声のシャルに、(わたし)は小さく(うなず)いた。心臓(しんぞう)が高鳴っている。

 その鼓動(こどう)が、耳元で大きく(ひび)く。


 シャルが(かべ)突起(とっき)(つか)んで身軽に登っていき、(かぎ)のかかっていない2階の(まど)を開け、中に(すべ)()む。

 (まど)を開ける音が、静寂(せいじゃく)を破る。


「よしミュウちゃん、頑張(がんば)って!」


 そう言ってシャルは(まど)から地面に(なわ)()らした。……えっ。


(も、もしかして(わたし)も登らなきゃだめなの!?)

「いけるいける! ミュウちゃん頑張(がんば)れ! まず(なわ)(つか)んでみて!」


 後衛職の筋力(きんりょく)のなさをあまり(あま)く見ないでほしい。

 ……(わたし)はとりあえず、できるだけ高いところを(つか)む。


 (なわ)手触(てざわ)りは予想以上に(あら)く、手のひらが(いた)い。

 足を(はな)しぶら下がると、(かた)(うで)に一気に負荷(ふか)が伝わってくる……!


(むっ、無理……! ここから(うで)を上げて登っていくの……!? 手、手を(はな)すことすら……!)

「おっけー! そのまま(つか)んでてね!」


 すると、(なわ)が勝手に上に登りはじめる。(わたし)の体が()()げられていく。


 どうやらシャルが(なわ)ごと上に引っ張ってくれているみたいだった。

 (なわ)()れに合わせて、体が左右に()れる。目を()じると、めまいがしそうだ。


(で、でも、(うで)が限界……っ)

「手を()ばして、ミュウちゃん!」


 体が限界を(むか)えそうな寸前(すんぜん)で、シャルの声が聞こえ、(わたし)は無意識で手を()ばす。

 彼女(かのじょ)の力強い手が(わたし)(つか)み、一気に引っ張られる。

 シャルの手は少し(あせ)ばんでいて、温かい。


「よっ、と! 頑張(がんば)ったね!」


 気付けば(わたし)はシャルの(うで)の中に(かか)えられていた。

 半ばいつものポジションになりつつあるお姫様(ひめさま)()っこだ……。シャルの体温が伝わってくる。


「さあて、潜入(せんにゅう)といこうか!」


 シャルが(わたし)(ゆか)に下ろす。(さわ)(わたし)心臓(しんぞう)呼吸(こきゅう)(はん)して、内部は(おどろ)くほど静かだった。


 しかし、その静けさが逆に不気味に感じられる。

 廊下(ろうか)には魔法(まほう)(あか)りが(あわ)(とも)っていて、(わたし)たちの(かげ)を長く()ばしている。


 数歩進んだところで、突然(とつぜん)(ゆか)が光り始めた。

 青白い光が、足元から広がっていく。


「なにこれ! 警報(けいほう)装置(そうち)!? やばっ――」

(状態異常(いじょう)回復魔法(まほう)


 (わたし)咄嗟(とっさ)魔法(まほう)を発動させた。青白い光が(ゆか)(つつ)()む。

 その光は、まるで生き物のように(うごめ)いているように見える。


 すると警報(けいほう)()(ひび)く前に光が消えた。間一髪(かんいっぱつ)だった。

 静寂(せいじゃく)(もど)り、(わたし)たちはほっと息をつく。


「おお! やるねミュウちゃん!」


 警報(けいほう)装置(そうち)の作動を「異常(いじょう)」と(とら)えて「回復」したことで、装置(そうち)そのものが停止したようだ。

 以前、ゴルドーと一緒(いっしょ)に入った古代の遺跡(いせき)でも使用したやり方だ。


 (わたし)たちは慎重(しんちょう)に歩を進める。時折現れる警報(けいほう)装置(そうち)も、同じ方法で突破(とっぱ)していく。

 足音を立てないように気をつけながら、ゆっくりと前に進む。


 しばらく歩いていると、大きな(とびら)にたどり着いた。

 (とびら)には「研究室」と書かれた札が()かっている。


「ふーん。ここが研究室みたいだね……中に何かあるかも」


 (とびら)を開けると、そこには様々な魔法(まほう)器具や実験装置(そうち)(なら)んでいた。魔法(まほう)薬の(かお)りが鼻をつく。


 そして、その中に少し目を引くものがある。

 それは、美しく(かがや)(けん)だった。(けん)身から(ただよ)魔力(まりょく)が、(はだ)()れるのを感じる。


「わぁ……なんかすごい(けん)!」


 シャルが目を(かがや)かせながら(けん)に近づくと、そこに説明書きがあった。


『試作品:魔力(まりょく)増幅(ぞうふく)(けん)

魔力(まりょく)(そそ)()むことで、一時的に(けん)斬撃(ざんげき)力を飛躍的(ひやくてき)に高める。魔法(まほう)を発動させる必要はなく、魔力(まりょく)のみで動作する』


「……いいね。すっごく便利そう! ちょっと借りていこうか」

(……!?)


 やばいよシャル……!

 これでもしアーサーが何でもない普通(ふつう)嫌味(いやみ)な人だったら(わたし)たち、ただ犯罪を重ねてるだけだよ!?


 (わたし)はそんな思いを()めて彼女(かのじょ)を見つめたが、結局シャルが(けん)を手に取るのを止められなかった。

 (けん)を持ったシャルの表情には、子供(こども)のような喜びが()かんでいる。


 そのとき、廊下(ろうか)から足音が聞こえてきた。(わたし)たちは(あわ)てて(かく)れる場所を(さが)す。

 心臓(しんぞう)が口から飛び出しそうなほど(はげ)しく鼓動(こどう)している。


「こっち!」


 シャルが小声で言い、(わたし)を引っ張り、大きな実験装置(そうち)(かげ)に身を(ひそ)めた。


 (とびら)が開き、(だれ)かが入ってきた。

 重々しい足音が、静寂(せいじゃく)を破る。白髪(しらが)の頭のてっぺんがかすかに見える。

 ……アーサー・グリムソンだ。


 (かれ)部屋(へや)の中を歩き回り、何かを(さが)しているようだった。

 そして、ある装置(そうち)の前で立ち止まる。

 装置(そうち)からは、かすかに魔力(まりょく)()れ出ているのが感じられる。


「あったあった、これさえあれば……」


 (かれ)の独り言が聞こえてきた。その声には、底知れぬ野心が(にじ)んでいる。


 (わたし)たちは息を殺して、(かれ)の様子を(うかが)っていた。

 (わたし)心臓(しんぞう)は高鳴り続けていた。アーサーの足音、(わたし)たちの殺した息、そして実験装置(そうち)のかすかな稼働(かどう)音だけが、静寂(せいじゃく)の中に(ひび)いている。


 ……しばらくしてアーサーが(とびら)を開けて去り、部屋(へや)静寂(せいじゃく)(もど)った。

 実験器具のかすかな振動(しんどう)音だけが、耳に(とど)く。


 (わたし)たちはしばらく息を(ひそ)めていたが、廊下(ろうか)の足音が完全に遠ざかったのを確認(かくにん)してから、ようやく(かく)れ場所から出た。


「ふう……(あぶ)なかったね~!」


 シャルがため息をつく。その声には、緊張(きんちょう)興奮(こうふん)が入り混じっている。

 (わたし)は無言で(うなず)いた。心臓(しんぞう)鼓動(こどう)がまだ(おさ)まらない。

 自分の脈拍(みゃくはく)が、耳元で大きく(ひび)いているのが聞こえる。


「よし、アーサーが(さわ)っていた装置(そうち)を調べてみよう」


 シャルが意気揚々(いきようよう)と言う。その目は好奇心(こうきしん)に満ちていた。


 (わたし)たちは慎重(しんちょう)装置(そうち)に近づいた。

 それは、大きな金属製の箱のような形をしていて、表面にはいくつもの複雑な魔法陣(まほうじん)(きざ)まれている。

 かすかに魔力(まりょく)()れ出ているのが感じられ、(はだ)がちくちくするような感覚がする。


「ふーん……なんだろうこれ」


 シャルが首をかしげながら装置(そうち)(なが)める。彼女(かのじょ)の指が、魔法陣(まほうじん)凹凸(おうとつ)をなぞっていく。


 (わたし)も注意深く観察した。すると、装置(そうち)の側面に小さな引き出しのようなものが見えた。


「あ」


 思わず声が()れる。シャルが(わたし)視線(しせん)の先を追う。


「おお、なんかあるね。開けてみよう」


 シャルが引き出しに手をかけた。ゆっくりと引き出しが開く音が、静寂(せいじゃく)の中で異様(いよう)に大きく(ひび)く。

 金属同士が()れる(かわ)いた音が耳障(みみざわ)りだ。


 中には、小さなカプセルが整然と(なら)んでいた。

 それぞれのカプセルは親指ほどの大きさで、半透明(はんとうめい)外殻(がいかく)の中に複雑な魔法陣(まほうじん)(ふう)()められているのが見える。

 カプセルからは、かすかに魔力(まりょく)のようなものが()れ出ており、空気がわずかに(ゆが)んで見える。


「これ、なんだろう……」


 シャルが一つのカプセルを手に取る。その瞬間(しゅんかん)、カプセルが(あわ)く光り始めた。

 青白い光が、シャルの指の間から()()す。


「わっ!」


 シャルが(おどろ)いて手を(はな)す。カプセルが(ゆか)に落ち、転がる。硬質(こうしつ)な音が静寂(せいじゃく)を破る。

 その音に、(わたし)たちは身を(ちぢ)めた。しかし、幸い廊下(ろうか)からの物音はない。


 落ちたカプセルは、(ゆか)()れることはなかったが、光の強さが増している。

 そして、周囲の空気が少しずつ(ゆが)(はじ)めた。

 それを見ていると少し頭痛(ずつう)がする。目の前がちらつき、()()さえ感じる。


(これは……!)


 (わたし)咄嗟(とっさ)に回復魔法(まほう)を発動させた。青白い光がカプセルを(つつ)()む。

 すると、カプセルの光が弱まり、空気の(ゆが)みも消えていった。頭痛(ずつう)(やわ)らいでいく。


「ミュウちゃん、これって……」


 シャルの声が(ふる)えている。(わたし)も同じことを考えていた。


 これは魔法(まほう)暴走を引き起こす装置(そうち)。それも、量産可能な小型のもの。

 この(ゆが)みが魔法(まほう)の暴走を引き起こすのだ。


「やっぱりアーサーのやつ、悪いことしてたんだ!」


 シャルの声には(いか)りが(にじ)んでいる。その声に、実験器具が共鳴するかのように(かす)かに(ふる)える。


 (わたし)はカプセルを拾い上げ、慎重(しんちょう)に観察した。

 確かに、これは魔法(まほう)暴走を引き起こすための装置(そうち)(ちが)いない。

 カプセルは冷たく、表面はつるつるしている。しかし、なぜこんなものを……。


証拠(しょうこ)を持って帰ろう。これがあれば、アーサーのやつを――」


 シャルの言葉が途切(とぎ)れた。廊下(ろうか)から再び足音が聞こえてきたのだ。

 重厚(じゅうこう)な足音が、次第(しだい)に近づいてくる。


「しまった、(もど)ってきちゃったよ!?」


 シャルが小声で(さけ)ぶ。(わたし)たちは(あわ)てて(かく)()所を(さが)す。


 しかし、今度は間に合わなかった。


 ドアが開き、アーサーが入ってきた。ドアの(きし)む音が、(わたし)たちの耳に(いた)いほど(ひび)く。そして、(かれ)の目が(わたし)たちに止まる。


 一瞬(いっしゅん)静寂(せいじゃく)。時間が止まったかのように感じる。


「おやおや……」


 アーサーの声が、冷たく(ひび)く。

 その目には(いか)りと同時に、何か計算するような色が()かんでいる。


「これはこれは、お(じょう)さん方とこんなところでお会いするとは」


 (かれ)の口調は丁寧(ていねい)だが、その声には明らかな皮肉が()められている。


「アーサー! あんたが魔法(まほう)暴走の黒幕(くろまく)だったんだね!」


 シャルが(さけ)ぶ。彼女(かのじょ)(すで)(けん)を構えている。その手に(にぎ)られているのは、さっき「借りた」魔力(まりょく)増幅(ぞうふく)(けん)だ。

 アーサーの目が、一瞬(いっしゅん)その(けん)に止まる。


「ほう、それは面白(おもしろ)いものを手に入れましたね。

 しかし、あなた方こそ、国の建物に(しの)()んで試作の(けん)(ぬす)むとは……なかなかの犯罪者ぶりです」

「うっ」


 シャルが一瞬(いっしゅん)たじろぐ。確かに、(わたし)たちのほうが先に違法(いほう)行為(こうい)をしているのは間違(まちが)いない。


「まあ、いいでしょう」


 アーサーが続ける。(かれ)の口元に、不敵な()みが()かぶ。その()みに背筋(せすじ)(こお)る。


「どうせ、ここから無事に出られるとは思っていませんよね?」


 その言葉と共に、アーサーが(つえ)を取り出した。(つえ)先端(せんたん)が、不吉(ふきつ)な光を放っている。

 ただの木である(わたし)(つえ)とは大違(おおちが)いの近代的な武器だ。

 その(つえ)から放たれる魔力(まりょく)が、空気を(ふる)わせている。


「一応聞くけど、なんで暴走なんか起こしてたわけ?」


 シャルの声が(ひび)く。しかし、アーサーの表情は変わらない。


「知りたいですか? いいでしょう。

 ……もはやこの国に王など必要ありません。

 これからは、魔法(まほう)科学省が……いや、この(わたし)が国を導くのです。これはそのための足がかりだ」


 アーサーの声には狂気(きょうき)()み、(へび)のような(かれ)の目が異様(いよう)な光を放っている。


「さあ、おとなしく(つか)まりなさい。そうすれば、(いた)い目には()わせません」


 アーサーがゆっくりと近づいてくる。(かれ)の足音が、重々しく(ひび)く。


 シャルは(けん)を構え直し、(わたし)の前に立ちはだかる。彼女(かのじょ)背中(せなか)から、緊張(きんちょう)が伝わってくる。


「ミュウちゃんは()げて。あたしが食い止めるから」

「……!」


 シャルの声が、小さく(ふる)えている。

 この潜入(せんにゅう)が犯罪スレスレという自覚はあるのだろう。(わたし)()()まないように、だろうか。


 しかし、(わたし)は首を横に()る。()げるつもりはない。

 たとえ(つか)まってもシャルとは一緒(いっしょ)だ。


 アーサーの(つえ)が、さらに強く光り始める。空気が重く、()()めていく。魔力(まりょく)の波動が、(わたし)たちの(はだ)()すように感じられる。

 戦いの予感に、(わたし)の体が(ふる)えた。

面白い、続きが気になると思ったら、ぜひブックマーク登録、評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ