表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/150

第24話 湖底探索

 朝日が湖面を()(はじ)めた(ころ)(わたし)たちは湖畔(こはん)に集まっていた。

 朝もやが湖面をうっすらと(おお)い、幻想的(げんそうてき)雰囲気(ふんいき)(かも)()している。


 岸から、()びた金属の梯子(はしご)を使ってかなりの下まで()りる。

 梯子(はしご)の冷たさが手に伝わり、緊張感(きんちょうかん)が高まる。


 3分ほど梯子(はしご)()りたあと、そこには簡易的(かんいてき)な木製の足場のようなものが()いていた。

 足場が水に()られ、かすかにきしむ音が聞こえる。


 遠くには、かつてのレイクランドの中心であった浮島(うきしま)が見える。

 水面が朝日に照らされ、きらきらと(かがや)いている。


 そんな美しい光景とは裏腹(うらはら)に、(わたし)心臓(しんぞう)早鐘(はやがね)を打っていた。

 耳元で聞こえる自分の鼓動(こどう)に、思わず息を飲む。


「よし、みんな準備はいいかしら?」

「うん、いつでもオッケーだよ!」


 ナイアの声が、静かな湖畔(こはん)(ひび)く。シャルは元気よく返事をし、(わたし)は小さく(うなず)いた。

 湖から()(のぼ)る水の(にお)いが、鼻をくすぐる。


「まずは装備(そうび)の最終確認(かくにん)をしましょう」


 ナイアは人数分のマスクを取り出した。昨日(きのう)(わたし)が水泳練習のときに装着(そうちゃく)していたものだ。


「このマスクは、水中でも普通(ふつう)(しゃべ)って会話ができるようになっているわ。

 何か異常(いじょう)を感じたら、すぐに声を()け合うこと」


 ナイアの説明に、(わたし)たちは(うなず)く。マスクを装着(そうちゃく)すると、少し息苦しさを感じる。


 ゴムの()()けが(ほお)()()む感覚が、ちょっと不快だ。でも、これのおかげで水中でも息ができるのだ。


 それにしても……と、2人の姿(すがた)を見る。


 ナイアの水着は水色のレオタード型で、背中(せなか)が大きく開いている。

 動きやすさを重視(じゅうし)したデザインみたいだ。


 (なめ)らかな(はだ)が朝日に照らされ、まるで真珠(しんじゅ)のように(かがや)いている。

 (こし)にはベルトのようなものと、細(けん)(さや)()げられている。

 金属の装飾(そうしょく)が、かすかに光を反射(はんしゃ)していた。


 シャルは黒いビキニを着ていて、健康的な(はだ)露出(ろしゅつ)している。

 その褐色(かっしょく)(はだ)は、日に焼けた(あかし)だろう。


 背中(せなか)には、いつもの(けん)背負(せお)っていた。

 (けん)()が、水着とは不釣(ふつ)()いな存在感(そんざいかん)を放っている。


 そして(わたし)は、昨日(きのう)と同じ白いワンピース型。

 正直、2人に比べると子供(こども)っぽく見える。


 それは水着のデザイン面だけの話ではない。その下の体もだ。


 シャルはやはりというかなんというか、(むね)が大きい。

 前からなんとなく分かってはいたけど、水着という服装(ふくそう)がそれを強調している。


 ナイアも、シャルほどではないがプロポーションがいい。

 スラリと()びた(あし)はとても大人(おとな)っぽく見える。


(……はぁ)

「どしたのミュウちゃん、絶望したような顔して。

 大丈夫(だいじょうぶ)だよ、ミュウちゃんもそのうち大きくなるから!」


 シャルは察しがいいなぁ……。余計悲しくなってくる。自分の平坦(へいたん)(むね)を見て、思わずため息が()れる。


 いつも持っている(わたし)(つえ)は……水中だと水を()ってしまうので、置いてきている。

 手元にないことで、(みょう)な心細さを感じる。


「……さて。水中探索(たんさく)の注意点を説明するわ」


 ナイアの声が()()まる。(わたし)たちも真剣(しんけん)な表情で耳を(かたむ)ける。

 周囲の空気が、緊張感(きんちょうかん)で満ちていく。


「まず、常に周囲に気を配ること。

 水中では視界(しかい)が制限されるから、油断は禁物よ」


 ナイアの言葉に、(わたし)は小さく空気を()う。

 確かに、水中では何が起こるかわからない。(おぼ)れたり流されたり……想像しただけで背筋(せすじ)が冷たくなる。


「次に、急な水流に注意して。

 最近、湖底で不自然な流れが観測されているの」


 シャルが首を(かし)げる。彼女(かのじょ)の赤い(かみ)が、首の動きに合わせてゆらゆらと()れる。


「不自然な流れ? どういうこと?」

普通(ふつう)、湖底ではそこまで強い流れは起きないの。

 でも最近は、まるで川の急流のような流れが突然(とつぜん)現れることがあるのよ」


 ナイアの説明に、(わたし)たちは顔を見合わせた。

 水位の低下と、この不自然な流れ。何か関係があるのだろうか。

 不安が(むね)の中で(ふく)らんでいく。


「最後に、絶対に無理はしないこと。特にあなたたち2人は初めての湖底探索(たんさく)でしょう?

 何か異常(いじょう)を感じたら、すぐに引き返すのよ」


 ナイアの真剣(しんけん)眼差(まなざ)しに、(わたし)たちは強く(うなず)いた。その目には、(わたし)たちを守ろうとする決意が宿っている。


「よし、じゃあ行こう!」


 シャルの声に、(わたし)は小さく息を()い、()く。いよいよだ。(むね)鼓動(こどう)が、さらに速くなる。


 シャルが(わたし)()()げる。その(うで)の中で、少し安心感を覚える。

 (こし)の周りにシャルの(うで)を感じながら、(わたし)は目を()じた。

 シャルの体温が、(わたし)の不安を少し(やわ)らげてくれる。


「行くよ」


 シャルの声とともに、(わたし)たちは湖に()()んだ。


 冷たい水が体を(つつ)()む。

 思わず息を止めそうになったが、マスクのおかげで普通(ふつう)呼吸(こきゅう)ができる。不思議な感覚だ。

 水の冷たさが、全身の毛穴(けあな)()()める感じがした。


 おそるおそる目を開けると、青い世界が広がっていた。


 ナイアが先頭を泳ぎ、その後ろをシャルが(わたし)(かか)えて泳いでいく。

 空からの太陽が、周囲の水を照らしている。

 光が水中で屈折(くっせつ)し、幻想的(げんそうてき)な光景を作り出す。


 しばらく泳ぐと湖底が見えてきた。

 そこには、予想以上に荒涼(こうりょう)とした光景が広がっていた。

 ()れた水草が、まるで枯野(かれの)のように広がっている。


「これは……」


 シャルの声が、マスクを通して聞こえてくる。


 湖底一面に広がる()れた水草。まるで砂漠(さばく)のように、生命感のない風景だ。

 かすかに腐敗(ふはい)した(にお)いが、マスクを通して伝わってくる。


「ねえナイア、これって普通(ふつう)なの?」


 そうシャルが(たず)ねた。その声には、明らかな動揺(どうよう)が混じっている。


「いいえ。これは1ヶ月ほど前からの現象ね。以前は、こんなことは決して……」


 ナイアの言葉が途切(とぎ)れる。湖底の様子は思った以上に悪いようだ。

 目の前の光景が、湖の異変(いへん)深刻(しんこく)さを物語っている。


 (わたし)たちは慎重(しんちょう)に進んでいく。

 時折、不自然な流れに()()まれそうになるが、ナイアの的確な指示のおかげで何とか進んでいけた。

 水の抵抗(ていこう)を感じながら、ゆっくりと前に進む。


 シャルも、徐々(じょじょ)(わたし)(かか)えて泳ぐことに慣れてきたようだ。

 最初はぎこちなかった動きが、次第(しだい)にスムーズになっていく。

 彼女(かのじょ)(うで)の力が、少しずつ安定してきているのを感じる。


「ミュウちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)?」


 シャルの声に、(わたし)は小さく(うなず)いた。

 正直、まだ(こわ)いけれど……シャルの(うで)の中にいると、少し安心できる。

 彼女(かのじょ)の体温が、冷たい水の中で心強く感じられる。


 そうして探索(たんさく)を続けていると、シャルが突然(とつぜん)止まった。その場で足を動かし、(とど)まっている。


「あれは何?」


 シャルが指さす先に、(わたし)は目を()らした。


 そこには、明らかに人工的な構造物らしきものが見えた。

 (こけ)(おお)われた石造りの建造物が、湖底にひっそりと(たたず)んでいる。


「あれは、この湖に昔からある物よ。ここに街ができる前から苔生(こけむ)してたけど……気になるかしら?」

「気になる気になる! ちょっと近くで見せてよ!」


 シャルの声に、ナイアは(うなず)く。

 しかし、その構造物に近づくにつれ、(わたし)(むね)に不安が広がっていった。


 何か、ただ事ではない雰囲気(ふんいき)を感じる。水の流れが、その建造物の周りで不自然に変化しているように見える。


 その予感は、すぐに的中することになる――。


 構造物に近づくにつれ、水の流れが変化していくのを感じた。

 まるで何かが近づいてくるかのように、水が(うず)()き始める。


「みんな、気をつけて!」


 ナイアの警告(けいこく)(ひび)く中、突然(とつぜん)、暗い(かげ)(わたし)たちを取り囲んだ。


「なっ、何!?」


 シャルの(おどろ)きの声が聞こえる。目を()らすと、それは大量のドライフィッシュだった。


 ()からびた魚の姿(すがた)をした魔物(まもの)たちが、まるで群れを成すように(わたし)たちの周りを泳いでいる。


「くっ、こんなところに!」


 ナイアが(けん)()く。水中でも、その()(するど)く光っている。


「シャル、ミュウを守って! (わたし)対処(たいしょ)するわ!」


 ナイアの指示に、シャルは(わたし)をしっかりと()きしめる。

 その(うで)の力が、いつもより強く感じられた。不安と緊張(きんちょう)、それと相反する安心感で鼓動(こどう)が早まる。


 ドライフィッシュたちが一斉(いっせい)(おそ)いかかってくる。その動きは、陸上で見たときよりもはるかに俊敏(しゅんびん)だ。

 ナイアは素早(すばや)(けん)()るい、次々とドライフィッシュを(たお)していく。


「はぁっ!」


 ナイアの(けん)が水を切る音が、かすかに聞こえる。


 しかし、(たお)しても(たお)しても新たなドライフィッシュが現れる。

 その数があまりにも多く、ナイアも少しずつ(つか)れが見え始めていた。


「ナイア、大丈夫(だいじょうぶ)!?」


 シャルの声には(あせ)りが混じっている。

 彼女(かのじょ)も戦いたいのだろうが、(わたし)を守るために動けない。


 そのとき、1(ひき)のドライフィッシュがシャルの背後(はいご)から(せま)っていた。


「シャル!」


 (わたし)警告(けいこく)の声とともに、シャルが素早(すばや)く身をひねる。

 しかし、完全には()けきれず、ドライフィッシュの(するど)い歯がシャルの(うで)をかすめた。


「くっ!」


 シャルの(いた)みの声が聞こえる。傷口(きずぐち)から赤い血が()み、水中に広がっていく。


(こ、このままじゃ、足手まといもいいところだ……!)


 (わたし)は必死に考えた。(つえ)がないため、通常の回復魔法(まほう)は使えない。

 でも、このまま何もしなければ、みんなが危険(きけん)だ。


(やるしかない……!)


 決意を固め、(わたし)は目を()じて精神を集中させる。

 普段(ふだん)なら(つえ)を通して放出する魔力(まりょく)を、今回は直接両手から放出する。


(中回復魔法(まほう)!)


 両手から青白い光が(あふ)()す。しかし、(つえ)という媒体(ばいたい)がないため、魔力(まりょく)制御(せいぎょ)不能になり、周囲の水中に拡散(かくさん)していった。


 ――するとその瞬間(しゅんかん)、予想外の現象が起きた。


 拡散(かくさん)した回復魔法(まほう)が水に作用し、周囲の水が浄化(じょうか)され始めたのだ。

 (にご)っていた水が、見る見るうちに透明度(とうめいど)を増していく。


「これは……!?」


 ナイアの(おどろ)きの声が聞こえる。

 浄化(じょうか)された水は、ドライフィッシュたちにも影響(えいきょう)(およ)ぼし(はじ)めた。


 アンデッドのような存在(そんざい)だったドライフィッシュたちは、浄化(じょうか)の力に()えられないようだった。

 ドライフィッシュたちが次々と光に包まれる。その光が晴れると、そこから普通(ふつう)の魚の姿(すがた)が現れ、泳ぎ去っていく。


「おっ、おお!? 魔物(まもの)(よみがえ)ったぁ!?」


 シャルの声には、(おどろ)きと喜びが混じっている。

 彼女(かのじょ)(うで)(きず)も、浄化(じょうか)された水に()れるだけで()えていった。


 しばらくすると、周囲のドライフィッシュは(すべ)浄化(じょうか)され、みな普通(ふつう)の魚となって泳いでいった。

 水中は、(おどろ)くほど透明(とうめい)になっている。


「ミュウ……この魔法(まほう)は……!?」


 ナイアが近づいてくる。その顔には、感心と驚愕(きょうがく)の色が()かんでいた。


(……水が「回復」したの、かな……?)


 (わたし)も予想外の展開(てんかい)に、言葉を失っていた。(つえ)がなかったことで魔法(まほう)拡散(かくさん)し、思わぬ効果を生んだみたいだ。


 しかし、その喜びもつかの間。

 突然(とつぜん)、足元から強い振動(しんどう)が伝わってきた。


「……!?」


 ()()くと、さっきまで静かだった構造物が、動き始めていた。

 ()びついていた部分が、まるで新品のように(かがや)いている。


「あれは……水門!?」

「何アレ!? さっきまでボロボロだったよね!?」

「あの構造物も、おそらくミュウの魔法(まほう)で回復したのね」


 ナイアの声が(ひび)く。

 確かに、今や()びや水草が消え、くっきりと()かび()がったその構造は、水門のような形をしていた。


 水門の一部が開き始め、そこから(はげ)しい水流が生まれる。

 周囲の水が、一気にその開いた部分へと()()まれていく。


「みんな、気をつけて! この流れは……!」


 ナイアの警告(けいこく)の声が聞こえたが、もう(おそ)かった。(わたし)たちは、(はげ)しい水流に()()まれてしまう。


「……っ!」

「ミュウちゃん!」


 シャルの(うで)から(はな)され、(わたし)は水流に()()まれていく。

 視界(しかい)(はげ)しく()れ、方向感覚を失う。


 そして、(わたし)たちは水門の向こう側へと()()まれていった――。

面白い、続きが気になると思ったら、ぜひブックマーク登録、評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ