表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/150

第19話 謎めいた遺跡

 村を出て鉱山への道を進むにつれ、山中の景色(けしき)徐々(じょじょ)に変化していった。


 かつて()(しげ)っていたであろう草木は色褪(いろあ)せ、()()てた姿(すがた)へと変わっていた。

 風に()れる枝葉の音も、(かわ)いた(きし)みへと変わっている。


 足元を()みしめると、(かわ)いた土がパサパサと音を立て、細かい(ほこり)()()がる。

 風に乗って運ばれてくる硫黄(いおう)刺激臭(しげきしゅう)が、徐々(じょじょ)に強くなっていく。

 その(にお)いは、(わたし)たちの鼻腔(びこう)をくすぐり、不快感を覚えさせた。


「この鉱山は、昔から村の生命線だったんだ」


 ゴルドーの低い声が、静寂(せいじゃく)を破る。

 (かれ)の目は、遠くを見つめ、過去を回想しているようだった。


「鉄や銅、時には金さえも産出された。村の繁栄(はんえい)は、すべてこの鉱山のおかげだった」

「そっか……それなのに、今は封鎖(ふうさ)されちゃってるんだね」


 シャルが興味深そうに聞き入る。彼女(かのじょ)は村の歴史に思いを()せているようだ。


「だが採掘(さいくつ)が進むにつれ、良質な鉱脈は枯渇(こかつ)していった。新しい鉱脈を(さが)す中で、あの遺跡(いせき)を発見したんだ」


 (かれ)の声には悔恨(かいこん)のような重みがあった。遺跡(いせき)存在(そんざい)が、この(わざわ)いの始まりだったのだろう。


 やがて、鉱山の入り口が見えてきた。

 その姿(すがた)は、まるで大きな(けもの)の口のようだった。


 洞窟(どうくつ)の中から、はっきりとした白い(けむり)(ただよ)い出ている。その光景に、思わず足が止まる。

 (けむり)は、まるで生き物のように(うごめ)いているように見えた。


「ここからは気をつけろ。(けむり)影響(えいきょう)で、呼吸(こきゅう)困難(こんなん)になるかもしれない」


 ゴルドーの警告(けいこく)に、(わたし)たちは(うなず)く。深呼吸(しんこきゅう)をして心を落ち着かせると、ひとまず冷静に(けむり)の発生を(なが)める。


「すんごい(けむり)の量……。中が見えないレベルじゃん。こんなの入れる?」

「何らかの魔法(まほう)による対策(たいさく)必須(ひっす)だろうな。ミュウ、どうだ?」


 どう、と問われたものの、遠くから見ているだけでは何もわからない。

 (わたし)は意を決し、おそるおそる鉱山の中へと足を()()れた。


「えっ!? ちょ、ミュウちゃん! (あぶ)ないってば!」


 そんな(わたし)(かた)(つか)もうとしたシャルが、ゴルドーに止められる。

 ごめん、シャル……でも大丈夫(だいじょうぶ)なはずだから。


 内部は(けむり)のせいで予想以上に湿(しめ)っていた。そして、(けむり)()すぎてほとんど前が見えない。


 (かべ)にはうっすらと()りかけの鉱石の痕跡(こんせき)が見え、その冷たいゴツゴツした感触(かんしょく)が指先に伝わってくる。

 放置されたツルハシの量が、かつての繁栄(はんえい)を物語っているようだった。しかし今は、白い(けむり)だけがこの鉱脈を支配していた。


 さらに数歩進んだところで、突然(とつぜん)(はげ)しい(せき)()()げてきた。

 (のど)が焼けるような(いた)みと共に、呼吸(こきゅう)が苦しくなる。

 (はい)が焼けるような感覚に(おそ)われ、目に(なみだ)(あふ)れる。


「……っ! げほっ、がはっ……!」

「ミュウちゃん!」


 シャルの声が外から聞こえる。

 目の前が(かす)んで、うまく焦点(しょうてん)が合わない。

 体が熱くなり、意識が遠のいていく。全身が重く感じられ、足元がふらつく。


「くっ……状態異常(いじょう)回復魔法(まほう)……!」


 必死に意識を保ちながら、状態異常(いじょう)回復魔法(まほう)を自分にかける。

 すると、徐々(じょじょ)視界(しかい)が晴れ、呼吸(こきゅう)も楽になってきた。

 体の熱も引いていき、正常な感覚が(もど)ってくる。


 ……よし。体調は万全(ばんぜん)になった。

 身を持って体験したことで、状態異常(いじょう)回復ができるようになったみたいだ。


 とはいえ、長居していたらまた病気になる……。

 (わたし)は急いで(けむり)の中から出て、シャルたちのもとに(もど)った。


「ミュウちゃん大丈夫(だいじょうぶ)!?」

「……」

「もう~、心配させないでよ! こんな無茶しちゃダメだからね!」


 シャルの(いか)りの中に、深い心配が(にじ)んでいるのがわかる。

 (もう)(わけ)ない気持ちと同時に、少し(うれ)しさも感じる。


「ごめん……」

「それで。成果はあったのか?」


 ゴルドーの問いに(うなず)く。

 今ので、この病気に対する状態異常(いじょう)回復魔法(まほう)が発動できるようになった。

 村に(もど)れば、みんなを治せるはずだ。


 だけど、この(けむり)の発生を止めない限り、病気になる人は出続けるだろう。

 それじゃ意味がない。(わたし)がずっと村にいて治し続けるのも……できなくはないかもしれないけど、あんまり現実的じゃない。


 つまりやっぱり、この(けむり)の発生(げん)()()めた上で止めなければ、この村を救うことはできないのだ。


(状態異常(いじょう)……防護壁(ぼうごへき)


 (わたし)は無詠唱(えいしょう)魔法(まほう)を発動させ、(わたし)と2人を(うす)い球体のバリアで(つつ)()む。

 青白い光の(まく)(けむり)遮断(しゃだん)する。

 バリアが展開(てんかい)される瞬間(しゅんかん)、かすかに空気が振動(しんどう)するのを感じた。


「あれ……!? (にお)いがなくなった! これ、ミュウちゃんの魔法(まほう)!?」


 (わたし)(うなず)く。バリアの中は(すず)しく、呼吸(こきゅう)の苦しさも感じない。

 有害な硫黄(いおう)(にお)いも消え、清浄(せいじょう)な空気だけが残っていた。


「すごーい! これなら安全に進めそうだね!」


 シャルの声が(はず)む。ゴルドーは……すごく目を見開いていた。そんな顔できるんだ!?


「規格外だな、つくづく……。極地活動用魔法(まほう)なのか?

 温度まで制御(せいぎょ)されている……これがあれば火山などの場所であっても活動できる可能性すらあるな……」


 ゴルドーがぶつぶつ(つぶや)いているが、そんなに大したものなのだろうか。

 あくまで状態異常(いじょう)対処(たいしょ)するだけのつもりなんだけど……。


 バリアを展開(てんかい)しながら、3人で慎重(しんちょう)に内部へと進んでいく。

 足元は(すべ)りやすく、時折小石を()む音が(ひび)く。

 その音が、静寂(せいじゃく)の中で異様(いよう)に大きく聞こえる。


 ついでに(けむり)による視界(しかい)の悪化もバリアによって対策(たいさく)されている。

 ようやくはっきりと見えた(ゆか)慎重(しんちょう)に歩いていく。岩肌(いわはだ)の質感や、採掘(さいくつ)(あと)が生々しく見える。


 しばらく進むと、鉱山の通路が突然(とつぜん)広がり、そこに整然とした廊下(ろうか)が現れた。


 (かべ)には不思議な文字が(きざ)まれ、(ゆか)には幾何学(きかがく)模様(もよう)(えが)かれている。

 その光景に、(わたし)たちは思わず足を止めた。壁面(へきめん)からは、かすかに魔力(まりょく)残滓(ざんし)が感じられる。


「これが遺跡(いせき)? すごいね……思った以上に遺跡(いせき)だよ、これ。こんなのが山の中に()まってたんだ」


 シャルの声が、静寂(せいじゃく)を破る。ゴルドーは慎重(しんちょう)(かべ)の文字を観察している。


「見たことのない文字だ。いつの時代のものだろうな」


 廊下(ろうか)をさらに進むと、大きな円形の部屋(へや)に出た。その中心には、巨大(きょだい)な機械のような装置(そうち)鎮座(ちんざ)していた。


 その装置(そうち)から、白い(けむり)()()している。

 装置(そうち)はまるで、生き物のように脈動しているように見える。


「あれだ。あの装置(そうち)(けむり)(みなもと)だ……!」


 ゴルドーの声に、(わたし)たちは装置(そうち)に近づく。しかし、その瞬間(しゅんかん)遺跡(いせき)全体が振動(しんどう)し始めた。

 (ゆか)()れ、(かべ)から小さな(すな)が落ちてくる。体勢を(くず)した(わたし)はその場にコケてしまう。


「……っ!」

「な、何!? おっと、ミュウちゃん平気?」


 シャルの(おどろ)きの声が(ひび)き、彼女(かのじょ)が手を()()べてくれる。その手に(つか)まってなんとか立ち上がる(ころ)には、()れは(おさ)まっていた。


 その代わり、装置(そうち)から()()(けむり)急激(きゅうげき)に増加している。

 バリアが()らぐのを感じ、(わたし)は必死に追加の魔力(まりょく)(そそ)()む。バリアの表面が(けむり)()されて(ゆが)んでいたのが、元に(もど)った。


「わわわ……! バリアが()れてる! ミュウちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)!?」


 シャルの声が聞こえるが、返事をする余裕(よゆう)はない。全神経を集中して、バリアの維持(いじ)に努める。

 バリアがなくなったら(けむり)でまともに動けなくなる……! ううっ、胃が(いた)くなってきた……。


 ――そのとき、部屋(へや)(すみ)から重々しい足音が聞こえてきた。


 見ると、そこには巨大(きょだい)なゴーレムの姿(すがた)があった。先日の巨大(きょだい)石像ほどではないが、少なくともゴルドーの2倍ほどの背丈(せたけ)のようだ。


「防衛兵器か? この遺跡(いせき)はいったい何なんだ」


 ゴルドーが(つぶや)く。(かれ)は大きなハンマーを構え、ゴーレムに向かって身構える。

 ハンマーを(にぎ)る手に、力が入る。


 同時に、別の方向から(けもの)のような(うな)(ごえ)が聞こえてきた。

 ドチャドチャという地面を()ける音とともに、犬のような魔物(まもの)が現れる。その姿(すがた)(けむり)()()むように曖昧(あいまい)だ。


「何この犬!? (けむり)が効いてないの!?」

「そいつも防衛機構の一種だろうな。油断するな」

「オッケー。こっちは任せて! ミュウちゃん、装置(そうち)を何とかできる!?」


 何とかって……! (わたし)(あわ)てるが、なんとか(うなず)く。とにかく(けむり)さえ止めてしまえば、あとは脱出(だっしゅつ)すればいいだけだ!


 (うなず)きを見届(みとど)けたシャルが(けん)()き、魔物(まもの)に向かって突進(とっしん)する。

 (けん)()く音が、緊張感(きんちょうかん)を高める。


 (わたし)深呼吸(しんこきゅう)をして、装置(そうち)に意識を集中する。

 (けむり)の中から、かすかに魔力(まりょく)の流れが感じられる。


 その流れを読み解き、装置(そうち)を止める方法を見つけなければ。

 装置(そうち)から放たれる魔力(まりょく)の波動が、(わたし)の全身に伝わってくる。


 (わたし)たち3人、それぞれの戦いが始まった。

 ゴルドーの重いハンマーがゴーレムに()()ろされる音、シャルの(けん)が空を切る音。


 金属と岩がぶつかる音、(けもの)(うな)(ごえ)。これらの音が入り混じる中、(わたし)は目の前の装置(そうち)に向き合った。

面白い、続きが気になると思ったら、ぜひブックマーク登録、評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ