卒業生代表の挨拶で断罪イベント発生を完全に潰した悪役令嬢
えー、本日私達三年生はこの王立魔術学園を卒業し、大人の仲間入りを果たしそれぞれの道へと進みますわ。
まあ、実際は半月前に最後の授業がありまして、その時点で学生では無くなっておりますが、雰囲気的には今日が最後の日なのですわ。
さて、立つ鳥跡を濁さずという言葉がありますわ。私達卒業生はキッチリ揉め事や貸し借りを精算してから社会に出ないといけませんわ。ですので、この場をお借りして男爵令嬢突き落とし事件の真相について語りますわ。
この卒業パーティに参加しております皆様ならば先日までの事件の流れはご存知と思いますので簡単に説明しますと。男爵令嬢が公爵令嬢マーガレット様に階段から突き落とされたとしてマーガレット様の婚約者である王太子に泣きつき、婚約破棄をしようとしたという事件ですわ。
右手をご覧下さいませ。あちらで屈強な衛兵に捕まって正座させられているピンク髪の方が件の男爵令嬢。その横で正座させられているのが王太子と取り巻きの方々ですわ。本日、この場で婚約破棄をしようとしておりましたので、私が取り押さえさせましたわ。
それで、彼女がどうしてこんな騒ぎを起こしたのかと言いますと、自分がこの乙女ゲームのヒロインで、悪役令嬢であるマーガレット様を倒すのは当然の行いだ、ゲームの断罪イベントを再現したら全て上手く行くと思ってやった。との事ですわ。
皆様、どう思われますか?やろうとした事の是非は一旦横に置いて考えてみて下さい。たかが男爵の庶子が最強の存在たるマーガレット様に挑むゲームがあったとして、勝つイメージが湧きますか?コレで、アレに勝てる訳無いし、勝ったら話の説得力皆無ですわよね?
そう、この男爵令嬢はたかが男爵の庶子なのです。もし彼女が勝利を約束されたヒロインなら、実は凄い血統だったとか隠された力があったりとかが判明するはずですわよね?なのに、このピンクは卒業パーティというクライマックスにまで来ても男爵の庶子の肩書のままですわ。
錆びついた伝説の剣を鍛冶屋に持っていかず錆びついたままで魔王に挑んで勝てますか?天下の副将軍がちりめん問屋の隠居のフリをしたままで悪代官がひれ伏しますか?男爵令嬢さんが卒業パーティでやろうとした事はそういう事なのですわよ。
それで、このアホピンクの生まれについて再調査してみた所さん、男爵が娼婦とチョメチョメして出来た子では無く、娼婦がスラムのチンピラとの間にできた子を男爵の子と偽って男爵家に乗り込んだという事実が判明しましたわ。錆びついたままの伝説の剣ですらなく、錆びついた鉄の棒切れでしたわ。こんなの絶対ゲームヒロインじゃありませんわ。
と言うか、ピンクに群がる男を見れば一目瞭然ですわ。ヒロインを囲む男ならば、当然乙女ゲームの攻略対象ですわよね?こいつらのどこがイケメンハーレムに見えますか?王太子はパッとしないですし、騎士団長の息子と宰相の息子はどちらがどちらか分からないぐらい無個性ですし、それ以下の連中は顔のパーツが口しか無かったり、下半身が隣の人と癒着していたり、全身に雑にトーンが貼られていたり、フリー素材だったり、こんなのハーレムじゃないですわ。モブ集団ですわ。ピンク含め、全員名前も無いですしお寿司。
その点、マーガレット様とお付き合いなされている殿方は全員ヨダレが止まらぬイケメンですわ。皇帝アースガラド様、イケおじですわ。執事ルトレロソ様、イケじじですわ。第二王子パレット様、イケショタですわ。新人メイドマーベラス様、イケ女装子ですわ。マーガレット様そこ代われと何度も思いましたわ。
…コホン。話を戻しますと、マーガレット様は本人の才覚に加え、人間関係にもムッチャ恵まれてるという事ですわ。彼女は自分がゲームの悪役令嬢だと私の前で告白しましたが、とてもそうだとは思えませんでしたわ。マーガレット様は主人公ですわ。間違いありませんわ。
だって、あの人死に戻りとか使えるんですわよ?死に戻りってコンティニューとか強くてニューゲームの事ですわよね?こんなん持ってるの主人公ぐらいですわ!私は持ってませんし、そこのピンクも持ってませんわ。おいピンク、お前特別な生まれでも無いし特別な力も無いし前世知識を活かしたプレイも出来てないし、よくそれで主人公名乗れてましたわよね?マーガレット様の爪の垢を煎じて飲みやがれですわ。
よーするに、私達転生者の持つ記憶からして怪しいと考えるべきなのですわ。私、マーガレット様、ピンク、この三人及び私達と情報を共有している皆様は、ピンクがマーガレット様を倒す乙女ゲームであると認識してそれぞれが行動をしてきましたが、実際のゲームの内容は違う物と私は思いましたわ。
さっきも言った様に、マーガレット様の役割は悪役令嬢では無く主人公。これについては最早疑う余地は無いですわ。死に戻り(コンティニュー)使えるのですから。ならば、そこのアホピンクが悪役令嬢なのかと言うと、それはちょっと違うのですわ。
悪役令嬢とは、ライバルなのですわ。主人公が少しプレイをミスしたら負けてしまうぐらいの存在。このピンクには務まりませんわ。だって、勝負にもなりませんもの。よって、ピンクの正体は悪役令嬢では無く、ヘイト役あるいはやられ役ですわ。プレイヤーに好かれる要素が一切無くて、ざまぁされても誰も心が傷まない存在、それがこの男爵令嬢の役割なのですわ。
さて、そこのピンクがただの頭がおかしい雑魚とするなら、そいつにざまぁする為に貴重な時間を費やすのはゲーム的には明らかなプレイングミスだと思いませんか?あんなの、ピッとやってペッと処理しとけば良かったのですわ。実際、マーガレット様は雑魚ピンクへのざまぁに無駄にリソースを割いた結果、学生時代最後の試験で失点をして首席から転がり落ちましたわ。その結果、私が卒業生代表としてこの場に立っているという訳ですわ。
もう、お分かりですわね?主人公マーガレット様が学生としての本分で手を抜いた結果、追い抜いていった人物。この私こそが悪役令嬢だったのですわ。
この三年間いっつも私は二位でしたが、マーガレット様がざまぁという被害者ごっこに目覚めたおかげでタナボタ首席となりましたわ。ですが、ハッキリ言って全然嬉しくありませんわ。
マーガレット様、何度でも言いますわ。貴女はこのゲームの悪役令嬢なんかじゃありません。馬鹿ピンクをざまぁして、めでたしめでたしにはならないんです。私という悪役令嬢を踏み台にして、更に飛躍しなければならないのです。もう十分休養はしたでしょう?ですから、雑魚一人倒してやり遂げた顔はやめて下さい。貴女の戦いはこれからなのですから。
長くなりましたが、これにて私の、卒業生代表ガーベラの挨拶を終わりますわ。不敬罪も覚悟の上ですわ。さあ、殺せですわ!
登場人物紹介
ガーベラ:侯爵令嬢。このゲームの主人公マーガレットの友人かつライバルなので、悪役令嬢ちゃー悪役令嬢。マーガレットから転生者である事を告げられた時に自分もそうだと正直に伝え味方になったが、どー見ても最強主人公なマーガレットが「私悪役令嬢なんですー、このままだと死ぬ役なんですー」とか抜かしたからブチ切れ。首席の座を奪い、卒業パーティの場で色々と思いをぶちまけた。その後、マーガレットとお互いゴメンナサイして和解。偽の前世記憶を植え付けた元凶を殴りに行く旅に出た。
マーガレット:公爵令嬢。強い優しいコンティニュー可能な完璧で究極の主人公様なのだが、何故かこの世界の悪役令嬢だと己の立ち位置を誤認していた。その事をガーベラに指摘された彼女は、顔を青ざめさせ正気に戻った。あんなピンクに負けるかもと思っていた自分の過去を恥じ、こんな記憶を植え付けた元凶を絶対見つけて殺すと誓い、ガーベラと共に旅に出た
ピンクのアレ:男爵の庶子。本名無し。特別な力も特別な生まれも無いのに自分をヒロインと思い込み、狙ったかの様に低スペック男子を侍らせて全然羨ましく無いハーレムを作っていた。彼女の姿が残念すぎた事で、ガーベラは『この世界が乙女ゲームでビンクがヒロイン』と言う前世知識を疑う事が出来たのでヨシ!という訳でざまぁイベントは無かったし、卒業パーティの後はハーレムメンバーと一緒に離宮で暮らすのを許されたのだが、何故かあまり嬉しそうでは無い様だ。
黒幕:ご存知転生女神。彼女は雑巾を飾り立ててから床に叩きつけ踏みにじるのを趣味としており、その為に能力の低い地球人をゲームのヘイト役に転生させ、その上でそのヘイト役がヒロインだという偽の記憶を彼女と本物のヒロインに転生した人物に植え付け、二人がぶつかり合いヘイト役が一方的に負ける様を観察していた。だが、今回はピンクの中の人が想像したよりも残念だった事と、ガーベラという女神が予定していなかった転生者が紛れ込んでしまっていた事で目論みが潰れたばかりで無く、転生者から逃げ回る日々を送る事になる。
ピンクのハーレム:パッとしない王太子と、どちらがどちらだか分からない宰相の息子と騎士団長の息子。ここまでが女神の用意したハーレムメンバーであり、彼らは名前すらないやられ役だった。だが、この三人だけでは満足せず、ピンクは背景キャラを強引に仲間に引き入れ、更にはどこからかフリー素材まで引っ張り出してハーレムに加えた。これを見てガーベラが「うっわ…これがヒロインとスパダリとか無いわ…無いわ…あっ(察し)」となったので、人生なにがどうなるか分からないものである。