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ライゼルさんの稼ぎ方

「ところでライゼルさん。ライゼルさんは最下層に行った事あるんですよね?」


 石壁の通路にチョークで印をつけながら進む。万一はぐれた時の為に私もマッピングをするようにと言われている。ライゼルさんは地図が頭に入っているはずだが、こういうマーキングがいざという時に生死を分けるらしい。ここ、一階ですけどね。


「ああ、地獄の第四層な。出てくる化け物の大きさが二階までとは桁違いだし、そもそも日帰りで行ける距離じゃねぇ。あんなとこ目指すもんじゃないぞ」

「ムシ嫌いだから行きませんよ。でも、迷宮の底には竜が住むって言うじゃないですか。本当に竜の巣ってありました?」

「何バカなこと言ってるんだ。そんなの子供向けのお伽噺だろ」

「ですよねぇ。んー、おかしいなぁ」


 お父さんの形見の中に掌ほどの鱗があったのだけど、あれはいったい何だったのか。だいぶ古そうだったけれど、鎧や宝箱よりも甘いいい匂いがしていた。あんまりクンクンするものだからお母さんに取り上げられてしまった程だ。


 迷宮の底には竜が住むという伝説がある。

 かつて、世界には恐るべき六匹の竜がいたという。


 彼らは天を舞い、傷つけることのできぬ硬い鱗に覆われていた。

 彼らは空飛ぶ船を撃ち落とし、天に届く塔を砕き、鋼の軍を蹂躙した。

 そして、立ち向かうもの全てを灰にした後に、巣穴を掘り眠りについたのだという。


 そして今、世界には六つの迷宮がある。

 地上には居ないような大きなムシやケモノが住み、宝物や金貨が湧き出す不思議な迷宮は竜の巣穴なのだと言われている。

 眠ったままの竜が見る夢が、迷宮の底に溜まった魔力と合わさって形を得るのだと。


 あの、迷宮の匂いを濃くしたような、うっとりする程いい匂いのする大きな鱗。

 あれは深層に住む何かの鱗なのだろうか。

 そんな事を考えていたせいか、プンと強く迷宮の匂いが強くなる。


「さぁ、ここはマップには描くなよ? それとな、他の奴とパーティ組んでいる時にここに来るのは禁止だ、いいな」


 先輩であり熟練の迷宮宝箱交換員ライゼルさんが、何もない壁を前にニヤリと笑う。

 どういう事かと聞き返す間もなく、ライゼルさんが壁を撫でまわすと、石造りの壁がぐるりと回って開いた。


「さぁ、着いたぞ。重たい箱を俺に持たせておいたんだから、手順は一度で覚えろよ? 古い方回収するぞ」

「なんですかこれ、隠し扉? そんなの学校で習ってないです!」


 ボロボロに劣化した宝箱を脇にどけると、組合の紋章が焼き印されている木製の箱を床に置く。


「ここって魔力溜まりなんですか? 魔力溜まりって組合の人が黄色いペンキで印を描いておいてくれるんじゃ?」

「まぁ、聞かせるよりも見てわかれってな。いいから見てろ」


 そう言うと、手際良く古びた宝箱の後ろに回る。

 人がかろうじて抱えて持てる大きさの箱に鍵を差し込むと、背後に回り込んでから蓋を開ける。

 あれ、開けちゃっていいんだっけ?


「こうして迷宮の行き止まりに空の宝箱を置いておくだろ? そうするとこうなる。よく見ておけよリーチェッタ」


 トスッ


 飛び出す、矢。


 鍵穴付近の装飾に隠されていた穴から飛び出した矢が、私の背後の壁に突き刺さる。

 箱の中には少しの金貨と錆びた短剣。


「これを回収して、新しい箱を魔力溜まりに置いていくのが俺たちの仕事だ。以上!」

「待って、この矢は何?!」

「必要なんだよ。考えてもみろ、宝物が詰まった箱だぞ。勝手に盗っていく奴がいる。そして俺たちはずっとここで見張るわけにはいかない。手癖の悪いやつには痛い目を見せるんだ」


 眉をひそめて顎髭をギュギュっと引っ張るライゼルさん。


「そんなの聞いてません! 二階までなら安全って言ってたじゃないですか!」

「言ってないからな。学校でも教えない。なぜならこれは組合の指示じゃなく、設置回収員が独自にやってる事だから」

「どうして?」

「罠を仕掛けないとな。みんな中身だけ盗られちまうんだよ。自分の稼ぎは自分で守れって事さ」


 そう言って引っこ抜いた髭を壁に貼り付ける。


「……この辺も良い匂いってするか?」

「はい、溶かしたバターにお砂糖混ぜたような匂いで、いい感じです!」

「おお、やっぱりそうか。一応な、あっちこっちに自分の目線の高さに紙とか髪の毛とかの、劣化しやすい物を貼り付けておけ。魔力濃度によって劣化の速さが違うんだ。魔力の濃い所を探せ」

「え? 設置する魔力溜まりは組合から指定が……」


 ライゼルさんは腰をかがめて私に視線を合わせると、頭をポンと叩いた。


「いいか、教えてやる。歩合は1割。全部懐に入れれば10割。自分の稼ぎは自分で守るんだ。欲しいんだろ、ボーナス」


 私は理解した。ライゼルさんが低階層しか立ち入らないのに羽振りが良い訳を。

 自前の宝箱を設置して、給料外の収入を得ているのだ。


「こうして、私の学校では教えてくれない迷宮商売の日々が始まったのだった」

「何言ってんだ。まだ第一歩だぞ、キリキリ覚えろ。しっかりマップ書けないと二級資格取れないぞ」


 これって合法なのかなぁ?

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